かゆみを感じると、なぜ人は皮膚をかきたくなるのか――。これは通常、ダニなどの皮膚の異物を引っかくことで除去する「自己防衛反応」と考えられているが、アトピー性皮膚炎などの場合は引っかくことで“さらにかゆみが増す”という悪循環に陥ってしまう。実は、この「かゆみの負のサイクル」の仕組みはよくわかっていなかった。
こうした中、九州大学大学院・津田誠主幹教授らの研究グループは今月2日、長引くかゆみの原因に「“あるたんぱく質の増加”が関係している」ということを世界で初めて発見したと発表した。
「かゆみの信号は神経を伝わっていくが、長く繰り返し引っかいてしまうと、その信号がものすごく強まってしまう。そのメカニズムを明らかにできた。『NPTX2』というたんぱく質の増加が関係していて、それが引っかくという刺激に応じて神経でどんどん作られてしまう」（九州大学大学院・津田誠主幹教授、以下同）
研究グループは、何回も繰り返し皮膚を引っかくマウスと正常なマウスの2種類で研究を実施した。その結果、「かゆい皮膚を繰り返し引っかくことにより、末端の神経で『NPTX2』と呼ばれるたんぱく質が増加。それが“かゆみ信号”を脳に送る神経へと送られることで、より強い信号が脳に送られてかゆみが増す」というメカニズムが明らかになった。
「『NPTX2』はかゆみが発生したときに、その皮膚と脊髄という場所をつないでいる神経で増えてくる。そこで今回測定したのは、マウスが何回皮膚を引っかいたかという行動と、かゆみを脳へ伝える神経の活動。皮膚を引っかく回数に関しては、『NPTX2』を作れなくすると大体3分の1くらいの“かゆみ行動”が治まる。繰り返し引っかくことによって作られる『NPTX2』が、重要な働きをしているのではないかと考えている」
――慢性的なかゆみがある人は「NPTX2」が常に増えているのでしょうか？
「その可能性はあると思う。ただ、患者さんが引っかくことによって本当に『NPTX2』
が増えているのかというのはまだ分からないので、それは今後の重要な課題の1つだと思っている」
津田主幹教授は、これらの結果を通じて「『NPTX2』が増加する仕組みの解析や、慢性的なかゆみの治療薬開発に役立てたい」としている。
「『NPTX2』への働きを全て抑えてしまうと、もしかしたらちょっと悪い反応も出てしまうかもしれない。しかし、皮膚と脊髄をつないでいる感覚神経での『NPTX2』の増加というところを標的にすることで回避できるのではないかと考えている。将来的にはぬり薬、あるいは飲み薬でかゆみの信号そのものを抑制できれば、アトピーに伴う慢性的なかゆみも抑えられるのではないか。これから、そういった薬を開発できればと思う」
このニュースを受けて、『ABEMAヒルズ』のコメンテーターでバイリンガル医師のニコラス・レニック氏は「総合診療医としてアトピー性皮膚炎の患者さんを診ているが、悪循環にはまっている患者さんが多い。しかし、ほとんどの場合は、ステロイドの治療が足りないだけ。塗り薬をちゃんと使っていれば治る。多くの場合は量・期間・強さが足りないだけであって、薬を塗り続ければ治ることが多い」と解説した。
かゆみの治療に使われる“ステロイド”について、抵抗がある人も少なくない。使用する上で注意すべきことは何か。
「確かに使いすぎてしまうと悪い影響もあるが、適切に使っていれば心配はいらない。皮膚科のもとで、炎症があるときだけ体のかゆい部分に使えば、危険な副作用を引き起こすことも少ない。適切な量・使い方であれば怖いものではない」
（『ABEMAヒルズ』より）
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