スマホで撮られてしまう時代、適正な職務質問のためにも警察官はコミュニケーションスキルを高めよ
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 大津地方裁判所は23日、京都府警の警察官の職務質問に重大な違法性があったとして、大麻取締法違反の罪に問われた男性被告に無罪を言い渡した。

 判決では、男性が警察の任意同行を拒否して、乗り込んだタクシーの周囲に京都府警が捜査車両を停め10分以上にわたって降車を促したことが“任意捜査”として許容される範囲を逸脱した違法行為と認定した。

 また、タクシーから降りて走り出した被告を、警察官が転倒させた行為についても違法としたほか、「警察官らが公判でうその供述をした疑いを否定できない」と、大麻などの証拠能力を否定した。

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 「警察官職務執行法」2条では、職務質問や任意同行について、次のように定めている。

 1 警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができる。

 2 その場で前項の質問をすることが本人に対して不利であり、又は交通の妨害になると認められる場合においては、質問するため、その者に附近の警察署、派出所又は駐在所に同行することを求めることができる。

 3 前二項に規定する者は、刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され、又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、若しくは答弁を強要されることはない。

 4 警察官は、刑事訴訟に関する法律により逮捕されている者については、その身体について凶器を所持しているかどうかを調べることができる。

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 25日の『ABEMA Prime』に出演したeスポーツチーム「αD」代表の石田拳智氏は「去年スキーに行った時、キャリーケースなどを持って新幹線に乗り込もうとしたところで職務質問された。目が合って“やばい”と目を逸らしたら付いてきて、“麻薬を持ってそうだから”と。“もう発車の時間なんで”と言ってもダメだと言われたし、“違反ではないのか”と聞くと、“近くの警察署に連絡してほしい。僕が褒められるので”と煽られた」と憤る。

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 元埼玉県警の佐々木成三氏は「私の経験からも、“この人、何かやっているな”というときにこのような対応をされると、さらに疑いを抱いてしまう。それが警察官の性(さが)だと思うし、ここまでしつこくやるということは、周辺で情報を得るなどして、“かなり確度が高い”と感じていて、“何もやっていないという確認を取るまでは帰せない”、という気持ちがあったのだろう」との見方を示す。

 「しかし相手が“任意だから”ということで所持品検査に応じず、タクシーに乗ってしまって説得にも応じない。それでも捜査車両でタクシーを10分以上も足止めしたというのは“任意”の限界を超えていると感じるし、わざとかどうかは分からないが転倒させたというのも同様だと思う。大切なのは検挙することではなく、裁判で有罪に持ち込めるほどの証拠が集められるかどうかだ。それが違法捜査によるものだと思われれば負けてしまう。

 一方で、データには出てこない部分だが、警察官に声をかけられたことで犯罪を思いとどまった、といった効果はあるはずだ。今回のように結果的には“持っていた”ということもあるし、かなり強い疑いがあるのに、“俺、帰るよ”と言われたからといって“帰ってください”と応じてしまうのは警察官の職務執行力としては失格だと思う。認められた範囲で説得をしながら、疑いをゼロにする努力をしなくてはいけないし、そのためのコミュニケーション力、スキルを持たないといけない」。

■「協力を得やすいコミュニケーションを」

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 駐車場などでこれまで100回以上の職務質問を受け、“世界一職質をくらうラッパー”を自称するSHO氏は「単純に見た目で選んでいる警察官も多いのではないかと思う。検証のような感じで、走って逃げたらどうなるか、携帯で撮りながらやってみたが、ものすごい勢いで追いかけられて捕まえられた。逆に、追いかけてこない場合もあった」と話す。

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 このように、職務質問を受ける様子を撮影し、ネットにアップしていたところ、警察官の間での“認知度”が広まったのか、かつてのように強引さを感じるケースは減ったのだという。「5年くらい前までは服を引っ張られたり、もみくちゃにされたりすることがあった。でもカメラを回している人が増えたせいか、穏便に、公正にやろうとする警察官も増えてきたと思う」(SHO氏)。
 
 一方、実業家のハヤカワ五味氏は「今回のニュースを見ると、やましいことがあればダッシュすればいいのか、という印象を受けた」と指摘する。

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 ジャーナリストの佐々木俊尚氏も「交番があちこちに置かれていること、家庭訪問のような“巡回連絡”が行われていること、そして多くの職務質問が行われていることが、結果的に日本の治安の良さに繋がっているのは確かだ。一方で警察官の能力にはばらつきがある。そう考えると、これは“手続き”の問題として考えるべきではないか」と指摘する。

 「僕も20〜30代の頃は頻繁に職質を受けた。自転車で走っていると制止されて、かばんの中身を見せろと言われる。見せても解放してくれない。何を疑っているのかが分からない。そのうちに、乗っている自転車が盗難されたものではないかと思い始めた。しかし警察官は引っ掛けようと質問を続けた。しかし、これでは互いに疑心暗鬼になるだけだ。

 あるいは日本の公安警察に“転び公妨”と呼ばれるものがある。相手が逃げようとしたときに、ぶつかってもいないのにわざと転び、“公務執行妨害だ”と言って逮捕する手法だ。あるいは通常であれば逮捕しないような軽犯罪を適用するといったことが、オウム真理教事件の時にはあった。残念ながら、そのような“弾力的運用”が警察への不信感に繋がっている部分はあると思う。

 例えばアメリカの警察が逮捕時に“弁護士の立ち会いを求める権利がある”などと説明する(ミランダ警告)ように、これは任意のものであること、と、“こういう理由で調べさせてほしい”と伝える努力も大切ではないか」。

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 佐々木元刑事は「ベテランの警察官と新人の警察官とでは、やはり人を見る目が違うし、個人によって職務質問を行うかどうかの判断基準は異なるものだ。しかし僕が鉄道警察隊にいた時に言われたのは、とにかく人をよく見ろ、ということだ。例えば電車に乗っている人の多くは視線を落とすものだが、犯罪者は人を探したりするので、目の動きが違う。あるいはワイシャツの首回りやスーツのサイズがかなり大きい人、ネクタイの結び方が下手くそな人など、やはり見た目の部分は大きい。

 一方で、今は動画を撮っている方もいらっしゃる。そこはむしろ怯えずに堂々と“撮ってください”と言って、こちらが正当な行為をしているという証明にしてもらう。そのためにも、“職務質問を受けない人は非国民だ”とか、“非協力者だ”と考えるのはやめるべきだ。逆に、今や警察官になりすました詐欺もあるわけで、制服を着ている、警察手帳を持っているというだけではアプローチできないという考えを持つべきだし、マウントを取るような話し方もやめるべきだ」と話していた。(『ABEMA Prime』より)

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