プロ雀士として人として 沢崎誠が覚悟して戦った1年「2年続けて沈んだら用無し」「先生に命は預けた。病気は治る」/麻雀・Mリーグ
【映像】ABEMAでみる
この記事の写真をみる(2枚)

 67歳の沢崎誠(連盟)は、覚悟していた。プロ雀士として、また人として。様々な覚悟を持って戦っていた大ベテランは、それでもいつも笑っていた。「いつもやりたいことをずっとやってきたからね。何にも悔いがないから、いつもニコニコよね」。楽しむ心と戦う心のバランスをうまく取った沢崎は、今年もまたプロ麻雀リーグ「Mリーグ」で活躍し、後輩たちにたくましい背中を見せ続けた。

【動画】Mリーグ全8チームの密着ドキュメント

 沢崎がMリーグで戦い始めたのは2019 -20シーズンから。KADOKAWAサクラナイツの誕生とともに、日本プロ麻雀連盟の後輩である内川幸太郎、岡田紗佳の2人とチームを組んだ。参戦1年目からリーグ最年長ながらも強敵たちを蹴散らし、個人5位にランクインする+234.3を叩き出した。ところが続く2020-21シーズンは▲280.6で、個人順位は30人中27位と転落。チームは1年目の4位を超える2位でフィニッシュしたが、本人にとっては全く納得のいかないシーズンになった。

 そして2021-22シーズン。開幕前に腹を括った。公式解説を務める土田浩翔(最高位戦)は、こんなことを聞いていた。「今シーズンもしマイナスだったら、これ(クビ)って自分で言っている。ちゃんと勝つことと魅せることを両立させなきゃと」。発言の真意をドキュメンタリー番組のスタッフが改めて本人に問うと「当然じゃない、そんなの」と返した。「2年続けて沈んだら用無しよ。僕自身は1年でも沈むことはありえないと思っていたから」。卓を離れた時の後輩たちとの会話、インタビュー時の受け答えが穏やかだけに忘れがちになるが、戦いにおいては百戦錬磨の鬼の一人。「麻雀は楽しむもの」がモットーではあるが、負けを受け入れるような心では、長年プロとして活躍できてこなかっただろう。

 巻き返しを誓った沢崎は、言葉通りに活躍する。そしてシーズン最終盤、楽しい時が訪れた。U-NEXT Pirates・瑞原明奈(最高位戦)とのMVP争いだ。最終戦前日、森井巧監督の配慮もあり、沢崎が試合に出場しMVPを狙いに行くとチームの公式Twitterで宣言した。パイレーツからすれば、瑞原も挑戦状を受け取らざるを得ない雰囲気になったが、その裏では2人だけのやりとりもあった。瑞原が明かしたのは、その一部だ。「沢崎さん、私に頑張れ、頑張れって言ってくれるんです。私に勝ってもらって、それを僕が抜くからって言うんです。かっこよくないですか」。業界の後輩の活躍を祈りつつ、勝負として負けるつもりもない。沢崎本人も瑞原へ「悔いのないことが一番。(最終戦に)出るにしても出ないにしても、監督には指示されるだろうけど、自分の意見は必ずある。麻雀の打ち筋を見れば、自分できちっと決めたいと思っているはず」という思いを抱いていた。両者の思いは通じ、直接対決が実現。瑞原が逃げ切りでMVP獲得を決めた瞬間、「おめでとう」と手を差し出したのも、沢崎からだった。

プロ雀士として人として 沢崎誠が覚悟して戦った1年「2年続けて沈んだら用無し」「先生に命は預けた。病気は治る」/麻雀・Mリーグ
拡大する

 プロ雀士としての名勝負を生んだ後、沢崎には別の試練が訪れる。病だ。「原発性骨髄線維症」は骨髄の病気で、中高年の男性にみられるもの。造血に影響が出る難病だ。セミファイナルシリーズ進出を決めていたチームは公表し、ファイナルシリーズに進出したとしても、沢崎が病気療養のために欠場することになった。ただ本人は至って冷静だ。「病名聞くと、怖い病気ですよね。はじめ病院行った時、僕は手術をやらないって言ったんです。あと2年ぐらい麻雀打てればいいからって言っていた」。人生100年時代と言われる中にあって、あと3年で70代になるとしても、まだまだ先は長い。ただ「今までやりたいことは全部やってきたから、何も悔いはない。やりたいことはやらせてもらったから」と、長く生きることに関心がなかった。ところが、病院の看護師が沢崎を知るファンだったというきっかけもあり、手術して完治を目指すことにした「先生に任せるっていうことは命を預けるっていうこと。僕は完治すると思っている。いろいろな条件がいいふうに来ているから、最近は麻雀より病気の方に運を使っている気がするね」と微笑んだ。

 チームの精神的支柱として絶大な存在だった沢崎の離脱は痛かったが、窮地が内川、岡田、堀慎吾(協会)の結束をより強めることにもなった。さらにファイナル期間中は堀が足を痛めるアクシデントにも見舞われ満身創痍に。「沢崎さんに優勝シャーレを」。昨年、あと少しで逃した優勝を勝ち取るという大きなモチベーションはあったが、それ以上の“何か”が生まれたことで、後輩3人は実に頼もしく打ち続け、そして優勝した。

 頂点に立った様子を見る沢崎の顔は、とてつもなく優しかった。「うれしいですねえ。若い3人が頑張ってくれて、僕に優勝を届けてくれました。応援していただいたファンのみなさま、優勝おめでとうございます!みなさまのたくさんの応援があって優勝できたと思います」。3選手、監督、マネージャーに感謝の言葉を述べた後「僕が出なくて優勝したっていうのは、ちょっとまずいですよね。僕にとって(笑)」。いたずらっ子のように、また笑った。

 全てのことに覚悟をもって迷いなくやり抜くと、人は笑顔になるらしい。それを沢崎が体現した。あと半年も経たないうちにMリーグも次のシーズンが開幕する。信じることをやり尽くし、復活を遂げ、試合会場にゆったりと歩いて現れた時、チームメイトも対戦チームの選手たちも、そして全国のファンたちも、尊敬と感謝の思いを込めた拍手で出迎える。

※連盟=日本プロ麻雀連盟、最高位戦=最高位戦日本プロ麻雀協会、協会=日本プロ麻雀協会

◆Mリーグ 2018年に発足。2019-20シーズンから全8チームに。各チーム3人ないし4人、男女混成で構成され、レギュラーシーズンは各チーム90試合。上位6チームがセミファイナルシリーズ(各16試合)、さらに上位4位がファイナルシリーズ(12試合)に進出し、優勝を争う。
ABEMA/麻雀チャンネルより)

【動画】Mリーグ全8チームの密着ドキュメント
【動画】Mリーグ全8チームの密着ドキュメント
【動画】Mリーグ2021-22シーズン最終日ダイジェスト
【動画】Mリーグ2021-22シーズン最終日ダイジェスト
【動画】Mリーグ2021-22シーズン最終日ダイジェスト

プロ雀士として人として 沢崎誠が覚悟して戦った1年「2年続けて沈んだら用無し」「先生に命は預けた。病気は治る」/麻雀・Mリーグ

Mリーグ 配信情報まとめ
Mリーグ 配信情報まとめ
この記事の写真をみる(2枚)