北朝鮮のミサイル連続発射は中間選挙を控えるバイデン政権への“メッセージ”?専門家「アメリカが対話に応じた2006年に似た状況だ」
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 今年に入り、新型の大陸間弾道ミサイルなど、すでに17回の発射を繰り返している北朝鮮。5日には約35分の間に8発の短距離弾道ミサイルを4カ所から連続発射。政府関係者によると、日本の排他的経済水域の外側に落下したとみられるという。

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 東アジアの国際安全保障などが専門の東京大学先端科学技術研究センターの山口亮・特任助教は「北朝鮮はかなり前から“軍事力が最も重要だ”と主張してきたが、それが実ってきたのではないかと見ている」と話す。

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 「今回、数十分という短時間の間に複数の地点から様々なタイプの短距離ミサイルを発射したということが非常に大きい。これは指揮統制システムの向上を意味していて、同時多発攻撃など、より複雑で大規模な攻撃などが可能になったと言えると思う。野球に例えれば長距離バッターや俊足巧打のバッターを揃え、標的や状況に応じて使い分ける感じだ。

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 その精度に関しては何を標的にしているかによって評価が分かれると思うが、日本のEEZのすぐ傍に落としているのを見ると、アメリカや中国、ロシアほどではないにせよ、能力としては着実に伸びてきているのではないかと見ている。また、北朝鮮の軍事力を見るときに重要なポイントとしてロジスティクスやメンテナンス、人材育成などの課題があったが、それも解決してきているように思う」。

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 4年前には海外メディアの前で豊渓里にある核実験施設の坑道の一部を爆破したものの、4月にはアメリカの専門家が核実験再開に向けた動きがあると指摘するなど、再び警戒感が高まっている。

 朝鮮半島の安全保障問題に詳しい政策研究大学院大学の道下徳成教授も「今回の連続発射について、岸大臣は“飽和攻撃”という言葉を使っていたが、野球でいえばボールが1個だけ飛んでくるよりも4個飛んできた方が全てをキャッチするのは難しくなる。ミサイルも同様で、たくさん同時に飛んでくるとミサイル防衛システムで撃ち落としにくくなる。どのくらい正確に目標に当たるかは未知数で、軍事目標をピンポイントで破壊する能力があるかというと、そこは疑問だが、長距離化という点ではすごく伸びてきているし、運用能力も上がってきていると思う」と指摘。

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 その上で、「北朝鮮が長期的に狙っているのは核・ミサイル能力を持ったままの状態でアメリカとの関係を正常化し、それなりに認められた国として国際社会に受け入れられることだと思う。凶器を捨てないままで復帰させてもらえるかというと難しいが、北朝鮮としては“とりあえず持っていないと、いじめられるかもしれなくて怖い”ということで、どちら側が譲るかというジレンマ中、結果としてはズルズルと来てしまっている。

 その意味では、今回の発射は技術的な面や軍事的なトレーニングという面もあると思うが、アメリカへの“メッセージ”の可能性もある。ロシアや中国から支持してもらえることはプラスだが、中国は北朝鮮を100%信じているわけではないし、あまりベッタリになってしまうとアメリカなどとの関係改善が難しくなるので、“二股外交”がベストだ。

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 この間、アメリカと対話したいという方向性、あるいはトランプ大統領との合意から、制裁を緩めてもらえるかもしれないということで、北朝鮮は核実験もせず、ミサイル実験もあまりせずということで静かだった。それがうまくいかないので強行路線に走り、アメリカに対し圧力を加え始めたという見方もできるのではないか、ということだ。

 そう考えると、今の状況は2006年頃に似ていると思う。前年にアメリカに金融制裁をかけられ、対話や制裁解除を働きかけていたが無視されたので一気に攻勢をかけた。アメリカの独立記念日である7月4日に当時としては最大のミサイルを7発、さらに10月には初の核実験を行った。アメリカは怒って圧力を強化しようとしたが、イラク戦争の泥沼化や大統領選挙の中間選挙があったことから、最終的には対話に応じた。

 バイデン政権としてはアフガン撤退で失敗し、ウクライナの戦争を防ぐことにも失敗し、北朝鮮の核・ミサイル開発も止められないとなると、11月に予定されている中間選挙でまずい状況になる。それを見越した北朝鮮が、このタイミングでアメリカに圧力をかけようとしている可能性もあると考えている」との見方を示した。
 

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 一方、アメリカ軍と韓国軍は6日午前、共同して日本海に向けて地対地ミサイル8発を発射したと発表。北朝鮮と同数のミサイルを発射することで、強く牽制する狙いがあるとみられる。折しも韓国は尹政権が発足、統一選でも大勝し、対外政策に本腰を入れようとしている。

 山口氏は「これまでの“融和路線”では何も解決できなかったということで、今は力で守るしかないのではないか、ということで、国防を優先しようとしている。能力は持っていたので、政策と戦略を変えたのだろう」とコメント。

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 道下氏は「これまでも韓国の国防関係者はしっかり対応してきたし、北朝鮮に対する防衛力の増強は“進歩派”といわれる政権の方がむしろ増強してきた。保守政権に変わったからというよりも、対応能力をしっかりと保持する必要性に迫られてきているということだと思う」と説明。

 「国防費全てが攻撃能力にいっているわけではないが、SIPRIというシンクタンクの統計によれば、過去10年間で韓国の国防費は43%伸びていて、今や世界10位で、日本の次にまできている。報道等によれば北朝鮮よりも多い2000発のミサイルを保有しているようで、中でも北朝鮮の攻撃に使える短距離ミサイルをたくさん持っている。他方、北朝鮮はICBMなど、大型の長距離ミサイルを保有しようとしているので、数的には少なくならざるを得ない。その意味でも、韓国は軍事バランス的に頑張っていると思う」とした。(『ABEMA Prime』より)

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