「日銀総裁に庶民感覚を求める必要があるのか」「発言の意図を庶民に説明するのがメディアの仕事ではないのか」黒田総裁を批判する“ワイドショー的”報道に苦言
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 日銀の黒田総裁が7日、「家計の値上げ許容度が高まってきている」とした前日の講演会での発言について、「家計が自主的に値上げを受け入れているという趣旨ではなく、いわば“苦渋の選択”として、やむを得ず値上げを受け入れているという状況だと思います。その点、ちょっと誤解を生む表現だった。申し訳ないと思っております」と陳謝した。

【映像】黒田総裁「値上げの許容度」発言を陳謝

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 問題となっていたのは30分超にわたる講演の中で出てきた発言で、東京大学の渡辺務教授らによる「10%値上げしても、いつもの店で買い続けるか」と回答した人が去年の前回調査よりも増えて半数以上に上ったという調査結果を踏まえたものだった。黒田総裁はこのデータを引用した上で、「家計が値上げを受け入れている間に賃金の本格上昇にいかに繋げていけるかが当面のポイント」だとしていた。

■元経産官僚・宇佐美典也氏「庶民感覚を求める必要があるのか」

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 7日の『ABEMA Prime』に出演した元経産官僚の宇佐美典也氏は「僕も“庶民感覚がない”と言われてしまうかもしれないが、そもそも物価をコントロールするのが日銀の仕事で、総裁は政治家ではない。国民に好かれるような存在である必要はないし、庶民感覚のようなものを求める必要があるのか」と指摘する。

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 「物価が上がるインフレというのは供給に対して需要が多くなっているので、基本的な対処方針としては二つ考えられる。一つは金利を上げて財政と経済を縮小させ、需要が減らすというものだ。しかし、ただでさえ不況に入りかけている日本経済の状況でこれをやればとんでもないことになる。そこでもう一つの、インフレ以上の賃金引き上げを促すというものが出てくる。もし黒田総裁が前者の方向の発言をしていたら市場が反応して株価は暴落しただろう。

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 そういう前提を知っている私としては後者のロジックを選択したことは理解できる。ところが世の中の人たちはそこを理解しなかったし、メディアも“好感度”的な観点で切り込んで批判した。そこまではいい。問題なのは、これを国会質問で取り上げ、日程闘争に持ち込んで謝らせるという政治文化だ。会期末で日程が詰まっている中、立憲民主党などが黒田総裁を呼んでこいとなると、与党は法案を通せなくなってしまう。そういう政治的な事情で黒田総裁が謝らざるを得ない状況になったから、本人も仕方なく謝った。そういう利用の仕方は疑問だ」。

■ジャーナリスト・佐々木俊尚氏「翻訳するのがメディアの役割」

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 ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「典型的なワイドショー報道だと思う。庶民の反応を拾うのはいい。しかし日銀は物価上昇を目指して政策を打ってきたわけで、値上げを許容するのは当然だ。マクロ経済の専門家である日銀総裁の発言が庶民にとってどういう意味を持つのか、それを翻訳するのがメディアの役割なのに、間違ったことを言っているかのような印象操作をして火を点けて回っているから信頼性を失う」と苦言を呈する。

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 「我々は平成の30年間、物価が下がって企業の売上や給料が減少、物が買えずにますます物価が下がり…という“デフレ・スパイラル”に苦しんだ。これを逆回転させるため、日銀の黒田総裁が物価を上げようと2%上昇の目標を掲げて金融政策を打ってきた。一方、ウクライナの問題もあってエネルギー価格の高騰が物価に反映してしまっているのが今の状況だ。それでも物価の上昇を人々が許容し、平成時代のように“買わない”もしくは“激安店に行く”ではなく“仕方がないから買うか”となれば、デフレマインドからの脱却につながっていく。そうしれば企業も次第に潤い、賃金も上昇するかもしれない。

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 これについて黒田総裁は“家計が値上げを受け入れている間に賃金の本格上昇にいかに繋げていくか”と言ったわけで、超真っ当な考え方ではないか。これを“物価が上がるのはけしからん、庶民の生活を直撃だ”と批判しているのが昭和のワイドショー的な報道だ。“値上げ許容度”というのは経済学の言葉だし、国民民主党の玉木代表も指摘していたように、東京大学の渡辺先生の分析を援用しただけだ。それなのにメディアが大騒ぎしたからら謝らざるを得なくなった。こういうことで“物価を上げてはいけない”というマインドが再び世の中に出てきたとしたら、そちらの方が問題ではないか」。(『ABEMA Prime』より)

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