上空から見ると、突如として現れる異様な光景。緑豊かな山々の中に、広い範囲にわたって地表がむき出しになっていることがわかる。山林の所有者は「もう本当に頭にきています」「何のためにこんな伐採したのか本当に分からないですよ」と怒りをあらわにした。
静岡市の中心部から車で約2時間行くと“オクシズ”(奥静岡)と呼ばれる、林業が盛んな山間地がある。問題の山は標高1400m、人の目に触れることがほとんどない林道の先にある。
4代にわたって受け継がれてきた山。所有者は、安池倫成さんと勘司さん兄弟だ。
山林の所有者:「ここから、500mくらい。ひどい。ちょっと、何これ。ゴルフ場みたいだよ、これ……。下から見ていて、すごいなと思っていたけど、こんなに切られちゃっているんだ。今まで見ていた規模感じゃない」
伐採は、まるでゴルフ場開発の現場かのように、大規模に行われていた。実は、この伐採は、静岡県主導で環境を守る目的で行ったもの。始まりは去年6月、安池さんが所有する山を整備し、「山崩れの防止」や「水を蓄える」ことを目的とした静岡市森林組合からの提案だった。組合側は、倫成さんに山の4割の木を伐採する「間伐」を提案した。
倫成さんはおととしにも、組合の提案で山の別の場所で間伐を行ったことがあり、日光が程よく地表に届いて、森の質が良くなることを実感。同じような工事だと思い、今回の計画に賛成した。
静岡県が事業を管轄。ほとんどの費用は補助金で賄われ、伐採は静岡市の森林組合が行うことに。この2者と所有者の兄の倫成さんの3者で協定を締結し、去年7月にプロジェクトは動き出した。
しかし、今年1月、現場を見た倫成さんは、「本当にびっくりしました。切られてしまった山をどのように再生していくのか。本当に途方に暮れている状況です」と話す。
現場に広がっていたのは、以前に行われた間伐とは、全く異なる光景だった。伐採されたヒノキ林は、20度から30度の急斜面。安池さん兄弟は、地表があらわになった部分を記録し、調査した。
明らかになったのは、想定外の山の姿だった。さらに、ある疑問が――。間伐で、なぜ15mという幅で伐採するのか。疑問に思った倫成さんは、静岡県に質問状を送った。
静岡県中部農林事務所からは「一般的には、樹高の概ね2倍以内の伐採幅であれば、森林の生態系を著しく破壊しない、風害などの気象害を回避・軽減するなどの利点があると言われていることから、樹高の1.5倍である15メートルの伐採幅としました」と回答をもらった。
県の解釈では、15mの幅は間伐の範囲内だというのだ。伐採された7カ所(A〜G)のうち、とりわけ幅が大きく見える「D」のポイントに行ってみた。山の頂上近くに広がるのは、幅50mにも及ぶ広大な伐採現場。幅15mを大きく超えているのがはっきりわかる。
それに対し、静岡県中部農林事務所・山田達司農山村整備部長は「なんでああいうふうになったか、今一つはっきりしないですが、それは(伐採した)森林組合の内部のなかの話になるが。推測ですが、意思疎通がうまくいってなかったのかと」と話す。
また、名指しされた静岡市の森林組合は、「本数で4割伐採の仕様を満たすように、伐採幅を広げるような追加伐採を行ってしまいました。組合の認識不足で指示したものです」と回答。
静岡県と森林組合は、事前に所有者に伐採方法を伝えず、所有者の意向と異なる整備が行われたことを認め、謝罪している。(『ABEMAヒルズ』より)
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