6月9日、10日の2日間、シンガポールで『ROAD TO UFC』トーナメント1回戦が行われる。フライ級、バンタム級、フェザー級、ライト級と4階級にアジア各国の強豪が揃い、9月に準決勝、12月に決勝。優勝した選手はUFCとの契約が待っている。つまりこのトーナメントは、世界最高峰への入口だ。
日本からは4階級に計7人が出場。バンタム級には3人がエントリーしている。中でも期待されるのは、日本MMAの申し子というべき中村倫也だ。中村は父が修斗のジムのオーナーだったことから幼少期から総合格闘技を見て育った。夢は総合格闘家。レスリングでオリンピックを目指し、U-23世界選手権で優勝しても「早くMMAをやりたい」と思っていたそうだ。
昨年、LDH martial artsと選手契約。『格闘DREAMERS』として放送されたオーディションにも合格した。UFCのチャンピオンが目標だと公言し、プロデビューすると3連勝。今年4月には『POUND STORM』両国国技館大会のメインでブラジル人選手に勝利を収めている。トーナメント優勝、つまりここから3連勝でUFCファイターになることができる。もちろん優勝しか考えていないし、本当の勝負はUFCに上がってから。
「ピョートル・ヤン(UFCバンタム級トップファイター)だったら楽に上がっていくでしょ、このトーナメント」
ただ、トーナメントを勝ち上がる過程で「単なる強さを求める以上に大事なことがいっぱいある。UFCに行く前の最後の試練として燃えますね」とも。とりわけ今は技術やフィジカルよりもメンタル面への意識が高いようだ。
「僕みたいな能力だったら、UFCには死ぬほどいる。でも闘いに向かう姿勢、精神力、覚悟の決め方が違うと思ってます。いかに格闘技と向き合うか、闘う理由が自分の中にあるか。ストーリーを含めて背負ってるものが違うので。誰が相手でも日本代表として、日の丸背負って闘うだけです」
世界に打って出る。日本のMMAを引っ張る。それは中村にとって“使命”のように感じていることだ。
「僕の背負った使命は大きいもの。潰れそうになることもあります。でも自分を愛して自分を信じて、仲間を信じてやるだけです。それが本当にできていたら、潰れることはないと思うので」
自分の背中をたくさんの人に見てほしい、日本MMAを世界に繋げる選手になりたい。そう語る中村と準決勝で対戦する可能性があるのが風間敏臣だ。柔術出身、極めの強さで結果を残してきた。4月の『POUND STORM』では飛びヒザ蹴りでKO負け。今回は再起戦でもある。
「前戦で負けてチャンスがなくなったと思ってました。光が見えました」
心機一転のトーナメント出場。優勝すれば人生が変わる。自己分析は「今はUFCに通用しない」と厳しい。だからこそ、トーナメントがいい機会になるという。
「12月までのトーナメントという期間をもらったのはチャンスですね。中村選手は注目されてますし意識します。今はフィニッシュのイメージはできない。ただ試合をするとしたら9月。それまでに成長できますから。その期間があればフィニッシュできるようになるんじゃないかと」
柔術時代に脚の靭帯を負傷。半年かけて治し、復帰すると今度は逆の脚の靭帯を切った。自分がやりたいことは何なのか。格闘技で生活していくためにどうするか。周りに相談して選んだのがMMAの道だった。柔術仕込みの“極め”は大きな武器。それを伸ばしながら、打撃など課題の克服も必要だ。指導を受けてきた大沢ケンジ氏を喜ばせたい、UFCでもセコンドについてもらいたいという思いも強い。
「前回負けて、その気持ちが強くなりました。周りの人たちに、あんな思いは2度とさせたくない」
バンタム級トーナメントの逆ブロックにいる野瀬翔平は、師匠の弘中邦佳がUFCに参戦していた。「師匠の背中を追って、いつか追い越したい」と野瀬。持ち味はアグレッシブに一本勝ちを狙う姿勢だ。新人時代は攻めすぎてガス欠になることもあったが、今は5分3ラウンド、フルに動き続けるトレーニングをしているという。
トーナメント出場決定には「正直、びっくりしました。僕でいいのかな、じゃないですけど」と野瀬。ただ所属するマスタージャパン福岡から、すなわち地方から世界を目指すという強い気持ちも持っている。
「福岡からでも世界で闘える選手になれると思ってます」
スパーリングパートナーが少ないことなど、地方のデメリットがないわけではない。だが、それをカバーすることで強くなってきた。ケガで練習に参加するメンバーが1人でも減ると大きな影響が出る。そのため“ガチスパー”は少なめにし、シチュエーションを区切ってのスパーで力をつけた。
「片足を取られた状態からとか、ピンチのところからスタートするようなスパーをたくさんやりました。状況を区切ってやることで、細かい部分が上達したと思います」
決勝が日本人同士になれば盛り上がるなと考えてもいる。「ただ、そのためには自分が勝ち上がらなきゃいけないですから」と野瀬。
日本のMMAを背負う気ことを「使命」とする者もいれば、地方から世界を目指す者もいる。どん底からチャンスを得た者も。UFCへの道とともに、彼らが持つドラマにも注目したい。