「僕の娘は、もう悩むことすらできない。考え続けるのが使命だと思っている」急逝した5歳の娘の臓器移植を決断、今も苦悩する市議会議員
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 日本で臓器移植を待つ人は1万5000人超におよぶ一方、実際に手術を受けられた人は年間400人程度に過ぎない。特に脳死判定された6歳未満の子どもからの臓器提供はこれまで21例しかなく、多くの子どもたちが移植を待ちながら亡くなっているのが現状だ。

【映像】睡眠時無呼吸症候群で死去した夫の臓器移植を決断した家族

 そんな中、子どもの臓器移植に関心を持ってもらいたいと、5歳で亡くなった愛娘・愛來(あいく)ちゃんの臓器提供についてブログに綴ったのが、津山市議会議員の三浦ひらく氏(44)だ。

■「遺族にとっては今も厳しい現実だ」

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 明るい性格で常に周囲を楽しませ、“くーちゃん”の愛称で親しまれていたという愛來ちゃん。しかし2年前、急に意識を失い、病院に搬送される。病名は「インフルエンザ脳症」だった。およそ1カ月にわたる闘病の末、愛來ちゃんは脳死判定を受ける。三浦さんは妻とも相談の上、臓器提供を決断する。

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 「娘が急に世界からいなくなるという事態に直面してしまったので、本当に冷静な判断だったのかといえば、そうは言い切れないし、仮に娘と“もしもの時に臓器をどうするか”というような話をしていたとしても、まだ5歳。本人が決断したとしても、親としては100%尊重するというわけにもいかなかったと思う。

 それでも娘にとって、そして自分たちにとって何が最善の選択なのかを考えた。“やらずに悔やむよりもやって悔やむ”ではないが、どうせ後悔するのであれば、どこかの誰かの命を救った方が良いんじゃないかと思った。家族の中でも意見は割れたが、時間が無い中で悩み抜いた末に、臓器を提供するという決断を選び取った。娘だったら支持してくれるんじゃないかと思うし、後悔はしていない」。

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 愛來ちゃんの身体から摘出された心臓や肝臓、腎臓など5つの臓器は、移植を受けた5人の子どもたちの命を救った。ただ、年齢や性別、居住地域といった情報以上のことは知らされていないという。

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 「今の日本のルールでは、例えば“10歳未満”“10代”であるとか、ざっくりした情報を伺える程度だ。それでも娘の身体の一部が今も世界のどこかで頑張って生きていてくれるということが感じられる。遺族にとっては今も厳しい現実だが、それでも娘が頑張っているのに、いつまでも下を向いていてはいられないと、現実に向き合う力になっていることは間違いない。

 もちろん、臓器提供、臓器移植そのものが完全に100%善であるとか、100%幸せになれることだとは思わない。ただ、6歳未満の子でいえば21例しかない中で、このようなドナーの家族もいるんだという現実を知っていただいて、万が一の時に決断をする参考にしていただければと思っている。我が子が自分よりも先にいなくなってしまうというのは、世界中の理不尽の中でも厳しいケースだと思う。それでもやはり、僕は話し合っておいた方がいいのではないかと思う」。

■「三浦さんのような方が大勢いてくださったら」

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 数多くの心臓移植手術に携わってきた大阪大学大学院名誉教授の澤芳樹医師は「1997年に臓器移植法が成立したが、当時から議論されてきたのが、何を持って人の死を定義するのかという問題だ。おそらく多くの方が心停止=人の死だと思われているかもしれないが、実は人工心臓でも日常生活を送ることができるので、実は脳死=人の死だということになるが、なかなか結論が出ないままに、“臓器移植においてのみ脳死を人の死と認める”という、ものすごく日本らしい形になっている」と説明する。

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 「今回の三浦さんのご家族の決断にも、医師による脳死判定の説明があってのことだと思う。成人の場合、判定から2週間ほどで心臓も呼吸状況も止まってしまうので、だいたい1週間、できれば3日ぐらいで判断を頂き、移植を待っている方に情報提供することになる。そのくらいの迅速性がなければ、良い形で命のリレーをつなぐのに支障が出てくるからだ。三浦さんの場合も、お子さまが脳死判定され、本当に刻一刻と状況が変わっていく中で判断を迫られたと思う。お気持ちをお察し申し上げる。それでも前を向いていこうとしたご夫婦の姿勢には、移植医として敬意を表したい」。

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 その上で澤医師は「日本は移植医療だけが後進国で、医師は世界一と言ってもいいが、ドナーが少ない」と指摘する。

 「私が医者になった1980年当時は、心臓移植も含む臓器移植が全くできない状況だった。1968年に札幌医科大学で起きた和田心臓移植事件によって、日本の臓器移植は全て止まっていたからだ。1999年の再開までに、私たちの先輩方がどれほど多くの苦労をされたか。そういうこともあって、日本が心臓の臓器移植を開始できたのは世界で150番目だ。我々としても全力を挙げてきたので、移植医療の医師は世界で一番と言っても良い。しかしドナーが少ない。

 やはり再開までの31年間の葛藤の中、死の定義すら決められずに見切り発車し、今に至るからだ。法改正を経て世界共通のルールになったものの、それでも心臓移植を必要としている約500人に対し、今も年に受けられるのは50人〜80人程度だ。提供する側の意識も低く、厳格なルールの下に行われているため、病院にとってもハードルが高い。脳死の患者さんは年に1000人ぐらいいらっしゃるという話だが、利用できているのは50人ぐらいだ。三浦さんのような方が大勢いてくださったら…」。

■「僕の娘は、もう悩むことすらできない」

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 2年前に母親を肺がんで亡くした田村淳は「家族で死について話をするのはタブーのように思われているが、うちの母親の場合は看護師だったということもあって、僕が小さな頃から“私が死んだら”“あんたが死んだら”という話をしてきたし、がんに罹っていることが分かってからも、“過度な延命治療をしないでくれ”と年に一回は確認をしていた。

 ただ、それは母親が成人だったからこそ、どう生きたいか、どう死にたいかという意思表示ができたとも言える。僕はまさに5歳の娘がいるが、いくら説明したところで、自分の臓器を提供するということについて理解し、判断できるかどうか。それでも三浦さん家族のように話すこと。できれば前もって家族で話すことが子どものためにもなると思った。辛いし、ネガティブなことだけれど、三浦さんに良いきっかけをもらった」とコメント。

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 同じく幼い娘を育てる元経産官僚の宇佐美典也氏は「いわば“養子”に出すような感覚もあると思うし、提供する相手のことも気になると思う。知らない人の中に自分の子どもの臓器があることで、その子に対しても責任を感じたり、その後を知りたいと思ってストレスになったりすることもあるのではないか。そういう中で決断をされた三浦さんを尊敬する」と話した。

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 三浦氏は「宇佐美さんが言われたこともすごくよく分かるし、人によって様々な考え方があると思う。だからこそ、お話したことはあくまでも僕自身の想いであり、人に押しつけるつもりはない。自分の判断は正解だったというような、綺麗事を言うつもりはない。それどころか、今も悩み続けている。

 ただ、悩むということ自体、この世界に残された者にしかできない事だ。僕の娘は、もう悩むことすらできない。ご存じない方もいらっしゃるが、臓器移植の意思表示というのは何度でも書き直せる。考え、悩むのが我々の使命だと思うし、最終的に決断したことは誰にも非難されるべきことではなくて、尊重されるべきことだと思う。そして言わせていただきたいのは、後から提供することはできない、ということだ」と語った。(ABEMA Prime』より)

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