「(日本での)フィリピン産バナナの小売価格は、この7年間ずっと横ばいだった。フィリピンのバナナ生産者にとり、現実的ではなく、またフェアでもない」
8日の緊急記者会見でこう訴えたのは、バナナの一大産地・フィリピンのホセ・カスティリョ・ラウレル5世駐日大使。
日本の果物の価格は、リンゴやミカンはぐんぐん上がっているのに対し、バナナは半世紀以上、価格を維持。フィリピンのバナナ生産者はロシアのウクライナ侵攻の影響などもあり、生産・輸送コストの急上昇に直面しており、このままだと利益が出ず、生産の継続が危機的な状況だという。
日本で流通しているバナナの76%がフィリピン産という中で、この値上げ要請がどのように影響してくるのか。テレビ朝日外報部の中崎佑香記者が伝える。
Q.なぜ日本はフィリピンからの輸入が多い?
フィリピン産バナナの人気が高いのは、なんといっても「甘い」こと。日本の消費者は特に甘くておいしいバナナを好む傾向にある。フィリピンのバナナの農家も日本人の味覚に合うような甘いバナナを品種改良して作っているほど。さらに、日本人は特に高い安全性を求めるので、フィリピン側も品質管理を徹底している。
また、地理的な近さも人気の1つだ。フィリピンからバナナを船で日本に運ぶ場合、かかる日数は約5日と言われている。他のバナナの産地である中南米は、グアテマラが29~36日、エクアドルが34~42日、ペルーが36~44日ほど。まとまった量を鮮度を損なうことなく短期間で輸送できることから、フィリピン産バナナが人気となっている。
Q.フィリピン政府が値上げを要請した背景は?
この申し入れに踏み切った要因は2つあり、1つは「コストの増加」。コロナ以降、原油や輸送費、肥料代などの高騰で、バナナに限らずいろいろな商品が値上げされている。こういったことがバナナの生産現場も直撃している。
もう1つが、「インフレ」。フィリピンでは深刻なインフレが進行しており、バナナを生産するにも多くのコストがかかるようになってきている。日本でのバナナの消費は順調にも関わらず、コストの増加に合わせた小売価格の上昇が日本でできていないために、生産者にとっては厳しい状況になっている。
Q.会見では「日本が値上げに応じてくれなければ生産継続が危ぶまれる」という発言もあったが。
取材したフィリピン農務省によると、フィリピンのバナナ産業が今後も続いていくかどうかについて、いま危機的状況にあるという。バナナ農家はコストの急上昇などによってほとんど利益を得ることができなくなっていて、期待されている生産量と品質の維持が難しくなっているようだ。
フィリピンでバナナ産業に携わっている人は250万人にも上ると言われている。この状況が続くと、バナナ産業から撤退する人も増え、今までどおり私たちの手元に届かなくなってしまう可能性がある。
Q.今回、フィリピンの「政府」が申し入れを行った狙いは?
1つの要因として、今までフィリピン政府は厳しい状況に置かれる生産者に支援を行うなど、価格の安定を目指してきた。実際に、バナナ農家からフィリピン政府に嘆願書が出される事態となって、「バナナの価格を適切な値上げをしていただければ、この危機によるダメージを和らげることができる」「苦しい状況を理解して、望ましいアクションをとってくださると願っている」といった内容の要望があった。そういった声を受けて、フィリピン政府が異例の申し入れを行うことになった。
この背景には、今まで私たち日本人が「安いバナナが当たり前」だと思って過ごしていたことがある。今回、「安いのは当たり前ではない」ということを広くメディアの前で話すことで、フィリピン産バナナの生産者の厳しい現状を伝える意図があったと考えられる。
Q.日本政府、また申し入れを受けた日本小売業協会の反応は?
松野官房長官は8日の会見で、「認識を共有して、引き続きフィリピン政府に協力していく方針だ」と話した一方で、「個別の果物の価格については市場の取引によって決定されるもの」としてコメントを差し控えたいとしている。
日本小売業協会は8日、フィリピン産バナナ値上げ申し入れについての話を1時間ほど熱心な説明を聞いたということだ。個別の取引条件や価格は基本的に当事者間で決めるべきものなので、協会として値上げをする・しないの決定をすることは難しいという。ただ、フィリピン側の苦しい状況は十分理解したので、間接的な支援になるが、可能な限り協力したいということだ。
あるスーパーを取材すると、「バナナの安売りは終わった」と。お店としては、今までバナナを安売りの目玉商品にしてきたが、多少の値上げはこれからしないといけないのではないかと話していた。
Q.値上げ幅は見えている?
8日の会見では具体的に示されることはなかったが、来月にも日本の公正取引委員会を通して議論される見通しだということだ。会見の中では「リーズナブル」、つまり適正価格という言葉が特に強調されていた。フィリピン政府としては、日本政府や企業だけではなく、消費者の意見も聞きつつ、みんなが納得した価格を導き出したいということだ。