侵攻をやめないロシア、そして粘り強く抵抗するウクライナ。「傍観はできない」と銃を取り訓練に参加する市民の姿に、日本でも“国防”に関する問題意識が高まっている。そこで議論になるのが、誰がそれを担うか、という問題だ。
そこで9日の『ABEMA Prime』では、国が一定の年齢に達した国民に軍隊での勤務を義務付ける「徴兵制」について議論した。
■「芸能人の多くが海兵隊や前線の最も厳しい部隊を選んでいる」
これまでロシアやノルウェー、スウェーデン、スイス、イスラエルなど、およそ60カ国で採用されてきた徴兵制。近年の国際情勢の変化を受け、ドイツの世論調査では徴兵制の復活を求める人が47%と、反対派(34%)を上回る状況になっている。また、中国による侵攻の可能性が指摘される台湾では、アメリカの働きかけも踏まえて徴兵制復活に向けた検討が行われている。
キヤノングローバル戦略研究所の伊藤弘太郎・主任研究員は「過去に戦火を交えた歴史や国防費の問題など、様々な要素があるが、今も徴兵制を採用しているヨーロッパの国々は、ほとんどがロシアと陸上で接している。そして今年2月までは“ロシアがウクライナに深刻することはないだろう”と誰しもが思っていたのに、それが実際に起きてしまった。テレビを通して痛ましい状況を目にすれば、特に最前線のヨーロッパでは国防意識が高まらざるを得ないということだ」と話す。
その一方、国民の意識の変化や軍事技術が高度化・専門化がある中、徴兵制の効果を疑問視する意見も根強い。隣国の韓国では近年、人気グループ「BTS」メンバーの“兵役”をめぐる議論が続いている。
韓国では18〜30歳までの間、軍に18カ月間の入隊をしなければならず、今年12月に30歳を迎える最年長メンバーのジンが兵役に就くことになっている。ただ、これも“大衆芸術の優秀者”に限って30歳まで延期するという2020年の兵役法施行令ーいわゆる“BTS法”により2年延期されていたという背景がある。
「実際に兵役に行くのは若い男性が中心なので、どうしても男女の問題にもなりやすい。5月に就任した尹錫悦大統領は文在寅政権下で女性進出が活発化、MeToo運動も相まって女性の権利意識が非常に高まったことを背景に、若い男性を応援するような制作を打ち出している。やはり韓国の男性には兵役という苦しい時期があり、しかも若年就労率が非常に低く、幸せな20代を送れないという反発も高まっている。
また、若い世代では北朝鮮の弾道ミサイルについて直接的な脅威だと感じている人が少なく、“兵役は必要ない”と思う人が多い一方、70代以上の世代には朝鮮戦争やベトナム戦争に参加した人もいるので“どうして兵役を無くすのか”という意見も多い。韓国の徴兵制度は1951年に始まったが、それは前年、北朝鮮が突然攻めてきてソウルが3日で陥落するという国家存亡の危機を経験したからだ。
さらに言えば、同盟国であるアメリカをどう見ているか、という問題もある。皆さんはアメリカに見捨てられるかもしれない、と思ったことはあるだろうか。韓国ではその可能性は常にあると考えているし、やはり北朝鮮という厳然たる脅威がある以上、マジョリティは徴兵制を支持していると思う。こうしたことから、世論がなかなか一つにまとまらない非常に難しい問題になっているということだ」(伊藤氏)。
EXITのりんたろー。は「BTSは国に莫大な利益をもたらしているわけで、得意なことで貢献できたほうがいいのではないか」、兼近大樹は「タレント活動をされている方は、自分の思い以上に世論によって決められてしまうのではないか」と疑問を呈する。実際、兵役については“同調圧力”の問題も無視できないようだ。それは大衆に支持されることが欠かせない芸能人であればなおのことだという。
「これまで何人もの芸能人が入隊したが、多くが海兵隊や前線の最も厳しい部隊を選んでいる。それは韓国社会の中で名誉になるし、除隊後の芸能生活を考えてのことだ。
一方で、“免除”の良い事例も出てきている。例えばサッカーのプレミアリーグで得点王になったソン・フンミン選手の場合、功績が認められて兵役が大幅に短縮され、さらには済州島での訓練では狙撃の技術がトップだったと報じられている。やはり男女問わず、世代を超えて支持されるような人物であれば免除になりやすいということだろう。
そうした基準の明文化は難しいと思うが、BTSは米ビルボードのチャートの1位を取り、グラミー賞にもノミネートされた。加えて国連総会でスピーチしたり、バイデン大統領とホワイトハウスで面会しアジア系住民に対するヘイトの問題についてメッセージを発信したりするなど、韓国国内を超えた活躍をしているので世論の動きによっては、というところではないか」(伊藤氏)。
■「戦争が起きた場合、国のために戦う」…日本人は13%
日本においても、自衛隊の抱える課題が指摘されるようになってきた。防衛大学校卒業生の任官辞退の問題や全体の高齢化、そして防衛予算の問題もある。他方、2017の調査(World Value Survey)によれば、「戦争が起きた場合、国のために戦う」と答えた日本人は13%と、諸外国の中でも低い数値にとどまっている。
伊藤氏はこう話す。
「ロシアの脅威を前にして“量的な国防力”を高めたいという気持ちは理解ができるが、今の自衛隊に求められているのは“質的な強化”だと思う。ご存知ない方も多いと思うが、中国の圧迫に対する警戒業務などにより演習の時間が減ってしまっているし、その訓練も限られた予算のなかでやりくりしているので、演習の中で行えない訓練も出てきていて、弾薬についても十分ではないといわれている。
さらに隊員の福利厚生の問題もある。自衛隊の見学に行くと売店があって迷彩柄のポーチなどが販売されているが、支給されるのは最低限のものだけなので、それ以上に必要であれば隊員たちは自分で買わなければならない。教育面も含め、質的に精強な軍隊をまず作ることが求められているのではないか」との見方を示す。
その上で、「アメリカと韓国は朝鮮戦争以来、共に血を流してきた“仲間”だ。韓国が本気で戦ったからこそ、アメリカも停戦状態にまで持っていったし、一方、韓国はアメリカの要請によりベトナム戦争に参加、約5000人が亡くなっている。未だ日米同盟においてこういうことは起きていないが、我が国も国防の意志をしっかり示さければ、本当にアメリカが守ってくれるかどうかは分からない。ウクライナ侵攻もそうだが、人間は愚かなので、戦争も起きる可能性がある。軍事というものを忌避せずに考えるだけでも違ってくると思う」。
若者の悩み相談に取り組むNPO「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星氏は「メンタルヘルスの面で韓国と日本の若者は似ているところがあると思うが、同調圧力や自殺については韓国の方が深刻なのではないかと思う。男性アイドルグループのメンバーの多いのも、兵役を見越してのことではないかと思うが、本当は行きたくないが、家族や地域の人たちの目があって…”という消極的な理由で兵役に臨んでいる若者も多いのではないか」とコメント。
「軍隊のキャリアは企業に比べて非常に短く、30歳というと半ば折り返しくらいではないかと思うし、どこまで実際に役に立てるのだろうか。やはり本人の意思に寄り添える形が一番だし、僕はウクライナが18〜60歳までの成人男性の出国を禁止したこともおかしいと思う。
ただ、“世界の警察”といわれてきたアメリカがウクライナに行かなかったことも考えなければならない。アメリカの若者の気持ちを考えれば、“日本の若者が一滴の血も流さないのに、なぜ自分たちが戦争に参加しなければならないのか”と思うだろう。それでもウクライナ侵略が始まった後、様々なテレビ番組に出演したが、大抵の場面で私が最年少の男性だったので、“大空さん、戦いますか?”と聞かれることが多かった。これは乱暴で危険な、稚拙な議論だと思う。
安全保障の議論、今の自衛隊の問題を議論した後、最後の最後に話すべき問題だと思う。日本にも予備自衛官の制度もあるし、専門職を持った人が知識や技術を活かせることもあると思う。逆に反戦デモをする人がいてもいい。まずは関心を持つことが抑止力にもつながると思う」。(『ABEMA Prime』より)
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