「軽微なコンプラ問題について、企業の経営陣が潰れるまで追い詰めようとする報道をどう止めれば良いのか。反論してこないところを狙って批判するマスコミのあり方を考えた方が良い」。
コンプライアンス違反などの企業不祥事に関して、その対策や改善案を探ることなく、責任追及に終始してしまいがちなマスメディアの報道。
ロンドンブーツ1号2号の田村淳は「コンプライアンス違反があったとしても、反省して改善して、また歩き出すのであれば応援してあげないといけないと思う。逆に、自分たちで過剰にルールを作りがちだと思う。例えば参院選が始まるが、“各党をバランスよく報じなければならない”というのが公示前から既に始まっているような雰囲気がある。逸脱してはいけない、守らなくてはいけない、という意識の弊害が、ここにも出ているような気がする」と指摘する。
■「“ふざけんな”と声を上げていくことが大事だ」
行き過ぎたコンプラに警鐘を鳴らしている、作家であまねキャリア株式会社CEOの沢渡あまね氏は「一言で言って、みんなで息苦しくなろうとしているなと思う」と話す。
「例えば吉野家の元役員の発言はあってはならないものではあるが、会社の全てが悪いかのような論調は問題だ。思考停止したクレーマーのような人たちが、現場で働く罪のないスタッフに失礼な言葉を浴びせかけたりする。そして田村さんがおっしゃった通り、悪いところを正し、リカバリーして、世間に対して胸を張れるような会社になっていたとしても、そこにはなかなか光が当たらない。
また、みずほ銀行にみられる問題の背景には、確かに銀行そのものの古い体質や、権限を持つ人たちの思考回路が“賞味期限切れ”しているといったカルチャーの問題も間違いなく大きい。一方で、管理を強化しようとする“管理屋さん”たちが入ってきて、とにかくチェックリストで確認をさせまくる。そして水を得た魚のように“ほら、言わんこっちゃない。だから石橋叩いて渡るべきなんだ”みたいな人たちが社内で活気づき、がんじがらめにしていくという問題もある。
実際、金融機関のシステム担当者に話を聞くと、おかげで二重、三重のチェックや、ミスが起こっていないことを証明するための仕事が降ってきているという。しかも“ヒヤリハット”や“おかしい”と思ったことを上げようとすると、“重大事象になってしまうと困るから言うな”という同調圧力的な空気が現場に流れてしまっているようだ。“いい加減にせい!”と誰かがハリセンでパンとやった方がいいのではないかと思う。もちろん、物理的にやったらコンプライアンス違反だが(笑)。
今、世の中で何が求められているかと言えば、”イノベーション”だ。さらにはデジタル・トランスフォーメーション”(DX)だ。“デジタル後進国”として列強に差をつけられているという状況にあるのに、石橋を叩き合って、狭い国の中で潰しあっている場合じゃない。それから従業員の“働き方改革”も求められているし、“エンゲージメント”、つまり職場への愛着や仕事への誇りが持てるようにすることを経営課題にしている企業も多い。がんじがらめ、チェック業務のような下らない仕事ばっかりでは、どんどんエンゲージメントが下がり、プロとして成長できない国になっていく。“ふざけんな”と声を上げていくことが大事だ」。
■「問題解決型の報道をすべきなのに、“水戸黄門”をやっているだけだ」
沢渡氏の問題提起に対し、ジャーナリストの佐々木俊尚氏はマスメディアの問題を指摘する。
「例えば“コンプラ違反の発言ではないか”、といったことを誰かがTwitterで指摘すると、安っぽいウェブメディアが“炎上している”と言って事にしてしまう。それを見たテレビのワイドショーのディレクターが“大変だ”と番組でネタにする。他局やスポーツ紙がさらに取り上げ、SNSに返ってきて増幅する…という、“フィードバック”の仕組みが出来てしまっている。それでいいのか。
野次馬的な根性というのは誰にもあるものなので、みんなが面白がったり炎上させてしまったりするのは仕方がないと思う。しかし公共性を担うマスメディアがそこに参加する必要はないだろう。むしろ“基準はこうだから、炎上するような発言ではないのではないか”と押しとどめるくらいの役割を果たしてもいいのに、炎にガソリンをかけているのではないか。
しかも問題解決に向かっていない。例えば吉野家の元常務の発言はどうしようもない発言だが、マーケティング業界ではああいう表現が普通に使われてきた実態もある。そういう構造を捉え、いかに解決するかという問題解決型の報道をすべきなのに、“水戸黄門”をやっているだけだ」。
これにPIVOTの佐々木紀彦CEOが「マスメディアが火に油を注いでしまう理由は2つあると思う。ネガティブな話題の方が反応が大きく、PVを稼げてしまうということ。そして社会部が強すぎるということだ。社会部の記者は自らを“権力の監視役”だとして、“何が正義か”、“大企業=悪"という捉え方をする。いわば警察だ。そういう物の見方は今の世の中ではあまり求められなくなっていると思う。経済部の記者であれば、例えばすき家の“ワンオペ”の問題についても、“なぜそうせざるを得ないのか”という構造や経営の問題から見ていくと思う。社会部の記者には、そういう視点がなさすぎる」。
佐々木俊尚氏は「社会部は人を口説き落としたり、現場の取材にはむちゃくちゃ強い。でも、専門知識はゼロだ。政治部や経済部は専門分野を掘っていく取材するが、社会部はありとあらゆる事象を扱うので、僕も毎日新聞社会部の記者時代には、航空事故調査委員会の記者会見に出て、何を言ってるかも分からないまま原稿を書いていた。いま読むとひどい記事だったと思う」と応じていた。(『ABEMA Prime』より)