ゴールポストが動くラブストーリー!?アニメ「かぐや様は告らせたい」の物語を大きく動かした要素とは

　アニメ業界において定番の１つとなっている学園ラブコメディ。古くは「スクールランブル」（2004年）や「とらドラ！」（2008年）、最近では「からかい上手の高木さん」（2018年）や「五等分の花嫁」（2019年）など、ちょっと思い出すだけで数多くの名作・ヒット作の名前が浮かぶ一大ジャンルです。

【動画】かぐや様は告らせたい-ウルトラロマンティック-

　そんな学園ラブコメディのうち、近年の作品では屈指のロングランシリーズとして人気を集めているのが、2022年４月からTVアニメ第３期が放送された「かぐや様は告らせたい～天才たちの恋愛頭脳戦～」（以下「かぐや様」）。秀才たちが集うエリート校・秀知院学園の生徒会長・白銀御行（しろがねみゆき）と副会長の四宮かぐや（しのみやかぐや）の恋愛模様を描いた作品です。

　その最大の特色は、「恋愛は告白した方が負け」というキーワードによく表れています。白銀とかぐやは、お互いに「相手が自分に惚れている」ということを意識していながら、高すぎるプライドが邪魔をして自分から告白に踏み切ることができません。その結果、２人はいかにして相手から告白させるかに知恵を絞る「恋愛頭脳戦」を繰り広げることになるのです。

　ある時は罠を張って相手を誘導してみたり、またある時はミスを突いて追い詰めてみたり……。そんな白銀とかぐやの心理戦や駆け引きが、恋愛あるあるとして視聴者に刺さっているからこそ、「かぐや様」は高い人気を得続けているのでしょう。

　しかし、この「恋愛頭脳戦」という舞台装置には思いがけない作用がありました。それは、白銀とかぐやがどちらもなかなか告白しないため、恋愛関係の進展が遅いこと。これについては、TVアニメ第３期第４話でかぐやに「でも、告らなきゃどこまでもズルズル行くわよ」と言わせていることから、原作者の赤坂アカ（あかさかあか）先生も気にしている点なのかもしれません。

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　そんな「どこまでもズルズル行く」状況を一変させたのが、TVアニメ第３期第６話の三者面談で明かされた、白銀のスタンフォード大学への留学。日本の大学とは違って、スタンフォードがあるアメリカでは大学の新学年は10月から始まるため、白銀は秀知院学園を卒業せず、３年生の９月時点で渡米することになるのです。

　このことは、白銀とかぐやの恋愛関係に絶大な影響を与えることになりました。何しろ、高校卒業までに相手を告らせればよかった状態から、白銀のアメリカ留学決定でタイムリミットが大幅に前倒しになってしまったからです。そして、ゴールポストが動いて残り時間がわずかとなったことで生じた白銀の焦りが、「かぐや様」の物語を大きく動かすことになります。

　そもそも、TVアニメ第１期と第２期では、白銀は恋愛頭脳戦で受け手に回るのが常でした。例えば第１期第１話で、男女で観に行くと結ばれるというジンクスがある映画のペアチケットを用意して白銀の手に渡るよう手配したのはかぐやでしたし、第１期第２話で白銀にスマホを買わせるよう誘導したのもかぐやでした。財力と行動力のあるかぐやがアクションを起こし、白銀がリアクションを返すパターンが圧倒的に多かったのです。

　ところが、TVアニメ第３期では逆に、白銀がアクションを起こすケースが多いのです。一例を挙げると第３期第６話、白銀は他校の文化祭を偵察しに行こうとかぐやをデートに誘っていましたし、第３期後半の秀知院学園文化祭で告白のための「ウルトラロマンティック作戦」を仕掛けたのも白銀でした。この白銀が見せた攻めの姿勢が、TVアニメ第３期の見どころと言っても過言ではありません。

　そんな攻めの姿勢の引き金となったのが、留学が決まって時間がなくなった白銀の焦り。その焦りから「文化祭の最終日、その日までに四宮から告られなければ、俺から告る」という白銀の一世一代の決意が生まれたのです。対するかぐやも、白銀の留学を知って「今日会長に好きだって言う！」と覚悟を決めていましたが、それももう時間がないと分かってしまったからこその焦りだったのでしょう。

　こうして、白銀とかぐやが共に焦ってしまったことによって、２人の恋愛関係は大きく進展することになりました。しかし、最終的にかぐやもスタンフォードに進学すると決めたことで、原作コミックでは白銀は「――だが待てよ。あの時俺は四宮との時間を密度で埋めようと告白を急いでいた。という事はだ、四宮もスタンフォードに来るなら無理に告白を急ぐ必要もないのでは!?」と、焦りの原因が解消されて最後の最後にヘタれてしまいます。アニメでも、「あわよくばここで四宮から告ってこないかなーとか思ってたが」と、弱腰を見せていました。

　そんな白銀のヘタれた意志を、かぐやが自分の気持ちを伝えるアクションで粉砕したのは、基本に立ち返った「かぐや様」らしい締め方でした。やはり白銀が一方的に攻めるのではなく、かぐやと互いに攻め合ってこその「かぐや様」なのだと、改めて示したのがあのクライマックスシーンだったのかもしれません。そんなシーンをまだ観ていないという方は、ぜひ配信やBlu-ray＆DVDでご視聴ください！