24年ぶりの円安…金融緩和の転換ある? 後藤達也氏が参院選の争点「物価高」を解説
【映像】世界全体で見た消費者物価指数の上昇率
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 ニュース番組『ABEMAヒルズ』では、参院選の争点の一つである「物価高」について、元日本経済新聞記者で経済アナリストの後藤達也氏とアパレルブランド「CLOUDY」CEOの銅冶勇人氏に話を聞いた。

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――24年ぶりの円安となっていますが、日銀が金融緩和を続ける理由についてはどうお考えですか。

後藤「今、日本の物価は2%ぐらいに上がってきている。日銀が目指している物価目標は2%なので、それが達成されているかのように見え、『金融緩和をやめてもいいのではないか』と思えるかもしれない。しかし、同じ2%でも違う。今起こっているインフレでは原油価格や小麦の価格が海外で上がっていて、さらに円安も進んでいるので、円で海外のものを買おうと思うと高くなってしまう。そういった外の要因で物価が上がっているインフレは『コストプッシュ型』と呼ばれる。コストが上がってきているので、企業がやむなく『値上げさせてください』という形の値上げになっているのが“いまの2%インフレ”。具体的に言うと、食品やガソリン、電気料金などのコストがかかるところの価格が上がってきている。一方で、“日銀が目指す2%インフレ”は『コストプッシュ型』ではない。むしろ、賃金が上がったり消費が強くなったりして、需要が強くなる形で物価も自然に上がっていく。その結果、企業も儲けられて、従業員にも賃金が増やせるといった好循環を目指している。今は状況が全然違うということで、黒田総裁も『これは我々が目指している2%ではない』と言っている。景気を刺激することで賃金や消費を引き上げていくというような考えを目指しているのが今の構図だ」

――金融緩和も規制も難しい状態で、日銀は動きづらい状況にあるのでしょうか。

後藤「教科書的に言うと、金融緩和をしてしっかりと景気を刺激していきたいので、緩和を続ければいい。しかし、事情はそれだけではない。円安がどんどん進んでいて、円安が進むともっとコストプッシュのインフレが進んでしまい、家計の負担が増してしまう面がある。あるいは、輸入企業の負担が強まってしまう。国民の間でも“悪い円安”という言葉が増えてきている。だから、緩和をどんどん続けてしまうと景気は支えられるが、一方で円安も進んでしまうという、いわば股裂きの状態になっている。日銀は今のところは緩和を続けると言っているが、この円安が止まらなければ、そのうえ国民からの『円安を止めてくれ』といった圧力のようなものが強まってきた場合には、(緩和を)続けにくくなることがこの先起こってくると思う」

――金融緩和から舵を切るタイミングはありますか?あるとしたらいつですか。

後藤「先日の6月の金融政策決定会合でも『しっかりと金融緩和を続けていく』と言っているので、余程状況が変化しない限りは変わる可能性は低いと思う。ただ、参院選を経て、円安もなかなか止まらなくて本格的な物価上昇がますます進んでいくような状況であれば、日銀へのプレッシャーも強まってくると思う。そのときは、今年の秋か年末ごろに、これまで進めてきた強力な金融緩和を見直す可能性が出る。そうなった場合には、金融緩和を転換するとなると逆に円高になったり、あるいは株安をもたらしてしまったりするという可能性を少し意識してもいいかと思う」

――方針転換した場合、住宅ローンの金利はどうなりますか。

後藤「金利は、いろいろなものと繋がっているので、日銀の金利を動かすと住宅ローンも、中小企業が銀行から借りる金利も上がったりする。ただ、劇的に上がるリスクがあるかというと、そこまで心配する必要は今のところない。ものすごく強烈なアクセルを緩める程度の修正のはずなので、今アメリカで進めているように“1年間で3%も利上げする”事態になることは考えづらい。住宅ローンを借りている方は多少、金利負担が上がるかもしれないが、ものすごい勢いで上がる可能性は心配しなくていい」

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――銅冶さんは海外でビジネスをしていますが、円安の影響は受けていますか。

銅冶「少なからず輸出入をビジネスの生業としている方々は影響を受けているところが多いと思うが、我々が拠点にしているアフリカは、まさに日本と同じようにドルに対して通貨安が進んでいる国が非常に多い。途上国のインフレがもたらす世界全体のしわ寄せが途上国にいっているのではないかという部分は肌で感じる」


――銅冶:途上国の解決策を教えてください。

後藤「非常にこれは難しい問題。結局、新興国としてもインフレを防ぐためには利上げせざるを得ない。新興国も、利上げをすれば自国通貨安をある程度止めることができる。一方で、金利を上げてしまうと国内の経済に逆風になってしまう。だから、インフレを抑えるか景気を支えるかというジレンマの状態になっている。それでは、どうやって解決できるかというと、なかなか新興国の中では解決しづらい。これは、この10~20年で何度も言われてきた。結局のところ、アメリカなどの先進国全体でインフレが収まってきて、ドル高、ユーロ高といった主要国の通貨に資金が集まる状況から変わってもらうことを待つしかない」

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――世界全体で見た消費者物価指数の上昇率については、どうお考えですか。

後藤「そもそも物価が上がっている理由は、元々アメリカの需要が強かったというのもあるが、複雑な要因が絡んでいる。例えば、コロナで物流が一旦停止した。回復しようと戻りかけているが、なかなかうまく進んでいない。物の受け渡しで根詰まりが起こっている。その結果、品不足や材料不足が起こってしまい、インフレが加速している面もある。また、原油高や穀物高といったサプライ側の要因でかなり物価が上昇していることもある。我々の生活に関して言うと、値上がりで目立つのはガソリンや電気料金などのエネルギー、食品などの生活必需品。切り落とすことのできないものであって、低所得者層を中心に国民の負担が非常に強まってきている。政治的にも抑えたいテーマになっている」


――欧米諸国のインフレは“良いインフレ”と“悪いインフレ”のどちらに属するのでしょうか。

後藤「日本はかなり“悪いインフレ”の度合いが強い。アメリカは賃金が上がっていたり、需要が強かったりするという面がある。そういう意味では半々か、やや悪い面の方が強まってきている感じがする。世界的にも、決してハッピーなインフレが起こっている状況ではない。特に、アメリカは8%のインフレであり、物によっては1年間に10~20%値上がりしている状態なので、生活面の負担はかなり大きいと思う」


――日本の消費者物価指数の上昇率は現在2.5%。これが上がる可能性はありますか。

後藤「その可能性はある。この『2.5%』は消費者物価で、我々が買い物するときの指標。一方で、企業間の取引では9%ぐらいになっている。仕入れのコストが上がっているのを我慢しているので、この2%台で留まっている。最近ではメジャーな商品も値上げしているが、これ以上企業の努力ではどうにもならない。だから、各社が『申し訳ないけれど、販売価格に転嫁させてもらう』といった言い方のリリースを出している。その動きが結構広まっている ので、大手メーカーが相次いで値上げすると『じゃあ、うちも値上げしやすいだろう』という横並びの発想が起きやすい。後半にかけて伸び率が上がっていったり、2%を上回るような上昇が1年以上続いたりする可能性は高まってきている」

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――主要国の中でも平均賃金が低い日本。どのような政策をとっていくことによって活路が見いだせるのでしょうか。

後藤「長い目で見ても、主要国の中で日本の賃金は上がっていない。ここから脱却するためにアベノミクスを進めていたが、今のところはっきりとした成果は出ていない。粘り強く景気を刺激するようなことをやりながら、賃金が上がっていくことが必要。しかし、日本はなかなか変化が起こりにくい」


――給与形態に関しても行き詰まっていますが、そこから打開策を見つけていかないといけないのでしょうか。

後藤「雇用が流動化したり、企業の新陳代謝が進む中で優秀な人が有望なセクターに移るといった仕組みが整うようになったりする。あるいは、社会全体でそれを支援するような機運が強まってくれば、場合によっては賃金も上がりやすくなるかもしれない。そういう流れが来て、賃金がジワジワ上がってくるようになれば悪循環から好循環に移っていくかもしれない。時間がかかる作業だとしても、5~10年かけてそういうことをやっていくのが日本の閉塞感を打破するには重要なことだと思う」

(『ABEMAヒルズ』より)

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