すぐに逃げられない、または助けが得られそうにないような状況で症状が出る「広場恐怖症」。患者の一人、りょうさん(仮名、23)にとっては、特急に乗って友人と遠出をすることも難しい。「動悸、吐き気、めまいとか、倒れてしまいそうな感覚になる。うまく呼吸ができなくなる」。
症状が出たのは5年前、高校3年生のときのこと。授業中に激しい動悸と、呼吸ができないほどの苦しさに襲われた。以来、教室や体育館など、人が集まる場所にいるのが怖くなり、授業は保健室で受け、全校集会は欠席するようになった。
そして翌年「広場恐怖症を伴うパニック障害」との診断受けた。今も教室で講義を受けることは難しく、通信制の大学で学ぶりょうさんにとっては、道を歩く学生たちも憧れの対象だ。「悔しい。なんでみんなと同じことができないんだろうって。やりたいこと、行きたい場所もたくさんあるのに、もどかしい」。
心療内科・神経科「赤坂クリニック」理事長の貝谷久宣医師(精神科)は「アメリカの精神学会が10年前、パニック症とは分けて考えるようになった。原因の特定は難しく、もちろん絶対とは言わないが、私が診てきた中ではお父さんやお母さんもそういう傾向にあることが多く、あまりかわいがられてこなかったような養育歴があると不安を持ちやすいという傾向もあった。
また、大半がパニック症に続いて起こってくる。パニック発作というのは不意に起きるのが一番の特徴で、二回目以降は条件反射的に起きる。そして“また起こるのではないか、それが怖い”という“予期不安”だ。加えて、人にどう思われているか、自分は醜いんじゃないかといった対人恐怖と一緒に出ることもある」。
その上で、治療について貝谷医師は「専門的な治療を受ければ、短期間で非常に良くなる。専門用語では認知行動療法や曝露療法というが、あえて怖いところに連れて行く。最初は付き添いながら、電車の改札口まで行って、やめる。あるいは乗って、すぐ降りる。そういうことを繰り返しながら、少しずつ怖い部分にもっていく。ただ、回復しても再び乗れなくなってしまう、というケースもある。
また、SSRIという薬がよく効くので、日本ではファースト・チョイスになっている。服用すると、いわば不安の閾値が上がるので、例えば車を運転していて時速30kmで怖かったのが、50kmで走っても怖くなくなるというイメージだ」と話した。
りょうさんの場合も、家族が外出の練習に付き添ってくれたおかげで、各駅停車に乗れるまでになった。また、SSRIも服用しているという。
「父が休みの日に近くのスーパーに行って並ぶ練習をした。電車についても、今日は駅まで行けた、でも乗れなかった、次の日は改札を越えてホームまで行けた、でもやっぱり乗れなかった、というのを繰り返した。周りに理解のある人が多いのでありがたかった。その日の調子にもよるが、不安を感じてから薬を飲んで、1、2時間は電車に乗れると思う」と答えた。
一方で、認知度の低い病気だけに、心無い言葉を掛けられ、傷ついた時期もあった。
「私自身、広場恐怖症という言葉を知らなかったし、本当に情報が少なかったので悩んだ。「学校を休みがちだった時期に、先輩から“気合いでなんとかなるやろ”と言われたこともある。担任の先生からも、“本当に病院に行ったのか”とか、“ちゃんと治してからこい”とか、悲しい言葉をかけられた。今も、“乗り物がちょっと苦手で”と説明することもある」。
広場恐怖症の認知度不足は、社会人にとっても深刻な影響を与える。
さやかさん(仮名)は、「電車に30分乗っている間に4回ぐらい降りるので、通勤に2時間くらいかかってしまって。職場の到着が1時間くらい遅れてしまうことが続くようになってしまった」と明かす。
勤務先は病院だったが、それでも症状への理解は広がらなかった。「車に乗って1時間ぐらいのところに行くという業務について“厳しいです”とお伝えしたら“もうあなたが働ける部署はないね”と。目に見えない心の不安なので、伝わりにくいのかなと辛かった」。
貝谷医師は「こういう病気があるよ、そして本人は大変辛いんだよ、ということを認識していただく。その意味では、やはり教育だ。特に中学高校の養護の先生などに知ってもらうことが非常に有効じゃないかなと思う。そして発作が起きた時は周りは慌てず、“大丈夫、大丈夫”と言って座らせて、飛行機の安全姿勢、あるいは腹ばいになってもらって、背中をそっとさする」とコメント。
りょうさんも「たくさんの方に知っていただけることが当事者としてはすごくありがたい。電車でしんどそうにしている方を見かけたら声を掛けて手助けできるような社会になってほしいなと思う。私も友達や家族と、飛行機でしか行けない北海道や沖縄、韓国にも行ってみたい」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
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