経済産業省が設置した企業経営者や教育関係者らによる「未来人材会議」が5月に公表した『未来人材ビジョン』。
“2030年、2050年の未来を見据え、「旧来の日本型雇用システムからの転換」と「好きなことに夢中になれる教育への転換」を!”と訴えるこの資料で示された、雇用や人材に関する国際比較のデータに、ネット上では驚きの声が広がっている。
「未来人材会議」委員で、広尾学園医進・サイエンスコース統括長の木村健太氏は「私は中高の教員だが、大学の先生や大企業・ベンチャーの方など、様々なメンバーが入って、これからの時代に求められるスキル、能力がどういう方向性のものなのかを確認するという会議だった」と説明する。
「例えば企業の採用担当に聞くと“コミュニケーション能力を求めている”というから、大学では“みんなでコミュニケーション能力を高めよう”と取り組む。しかし、本当にそうなのか。環境が多様化すれば、求められる力も変わってくるはずで、それをひとりひとりが考えなければならない。あるいは転職や起業をしたがらないことについて“無気力だ”という捉え方ができる一方、勤務先の環境に満足している、という見方もできる。そういう議論を展開してきた」。
リディラバ代表の安部敏樹氏は「僕は木村さんと一緒に、この会議の源流にあたるような議論に加わったし、特に大人のリカレント教育についての政策にも関わった。そして上場企業の社長数人から言われたことが、“人材が流動化するのなら、企業として社員に投資をする意味はない。社員への投資を求めるのなら、政府には法人税を安くするなどのインセンティブをつくってくれないと”ということだった。個人はもちろん、企業にもインセンティブを付けなければうまくいかないと思う」と指摘。
「私はそれこそ“ゆとり第一世代”なのだが、ゆとり教育の教訓は、受験や就職などの“出口”にいる大人が変わらなければならない、ということだと思う。今も“高校生でこんな研究しているの?”という優秀な生徒たちがいるが、それが5~10年と経つと、ごく普通のサラリーマンにおさまっている。やはり評価する側の大人が変わらなければならないし、そのためには学ばなければならない。そこに国、あるいは企業がメスを入れることが大切だ」。
カドカワ社長でもある近畿大学情報学研究所の夏野剛所長は「安部さんの言っていた、“投資が無駄になる”ということだが、これは形を変えないといけない。僕が経営者として実行したのは、教わることに対する支援をやめ、その代わりに資格を取った場合には奨励金を出すことだ。例えば簿記1級を取ってくれた社員は、企業の戦力にもなる」、元TBSアナウンサーで京都産業大学客員教授の吉川美代子氏は「私は定年まで同じ会社にいたが、経営者や人事が時流に合わせて社内研修を組んでいた。だけど実際は、企業ごとに事情が違うはずなのに、外部に丸投げして、ほかの企業と変わらない一律の内容だったので効果がない。それの繰り返しでは、企業にとっても従業員にとってもあまり効果をもたらさないと思う」と話した。
木村氏は「会議の中で企業経営者の方々の話を聞いて考えたのは、“自分の会社だけが上手くいけば”というのは成立しない。業界あるいは地球環境をサステナブルにしていくためには、人材育成に対する予算の付け方も変わってくるのかな、ということだった。そして、“優秀”の定義も変わりつつある気がしている。今回の資料は、未来を作る人たちを社会に適合させるのではなく、どんな環境が用意できるのだろうか、ということを議論するきっかけにしてもらいたい。その意味では、決してホラーストーリーではない。ワクワクする話が隠されているものだと捉えていただきたい」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
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