圧倒的な強さを誇ってきた王者が、5連覇に向けて大ピンチだ。将棋界の早指し団体戦「第5回ABEMAトーナメント」の予選Eリーグ第1試合、チーム藤井とチーム渡辺の対戦が7月9日に放送され、チーム藤井はスコア3-5でチーム初戦を落とした。リーダー藤井聡太竜王(王位、叡王、王将、棋聖、19)は個人・団体通じて全て優勝の4連覇中だが、この試合では渡辺明名人(棋王、38)と1勝1敗、近藤誠也七段(25)に1敗と、1勝2敗とまさかの負け越し。「責任を感じています」と言葉を絞り出すと、相手チームからも「調子がよくない」「本来の出来じゃない」というコメントまで飛び出した。
個人で2連覇、団体でも2連覇で計4連覇。超早指しのルールにおいても、その強さばかりが際立ち、相手からも「主人公補正といかそういうレベルじゃない」とまで言われた藤井竜王の表情が、みるみる曇った。第3回大会では決勝でぶつかったこともあるチーム渡辺が強豪であるのは間違いないが、それでも勝ってきたのが絶対王者・藤井竜王。ところがベテランの先輩2人を指名して臨んだ今大会の初戦は、個人でも負け越し、チームも負けるという苦しい船出となった。
森内俊之九段(51)に藤井猛九段(51)と、2人の大先輩のためにとリーダー自ら第1局への登場を選んだ藤井竜王だったが、いきなりつまずいた。第1局の相手は渡辺名人で、まさかのリーダー対決、将棋界の頂上決戦に。タイトルをかけた番勝負のような豪華カードが実現した。渡辺名人の先手番で始まった一局は相矢倉に。道中、角換わりにも相掛かりにも見える進行となったが、将棋界の序列1位、2位の対局にふさわしい激戦となった。最終盤までどちらが抜け出しているかわからないような戦いになったが、徐々に駒が捌けてきたのは渡辺名人。藤井竜王からすれば「途中から無理気味な動きをしてしまって、そのあたりからちょっと失敗してしまった」と反省する展開となり、143手で投了した。
同じ過ちは繰り返さないとばかりに、自身2局目となる第4局では立て直した。またしても渡辺名人との対戦は、先後入れ替わって先手番。得意の相掛かりから主導権を握りに行くと、途中までALSOK杯王将戦七番勝負でぶつかった時と同じ進行という、この2人ならではの出だしになった。ただ、ここでも藤井竜王は「序盤で失敗して相当苦しい将棋でした」と劣勢を自覚。「諦めずに粘って、最後は負けだったと思うんですけど、勝負をかけたのが結果的によかった」と話すように、最終盤でなんとか振り切り135手で勝利こそ収めたが、チームに弾みをつける快勝とはならず、むしろ苦戦が際立つ内容にもなっていた。
どうにも調子がつかめない中、痛い黒星を喫したのが第7局だ。スコア3-3と勝った方がチーム勝利に王手、負けた方がカド番という急所の一局で、近藤七段とぶつかった。後手番から両者ともに雁木に構えると、序中盤こそ互角に見えたが「途中で重大な失敗があって、残念な将棋になってしまった」と自らペースを乱すことに。これには2局戦った渡辺名人も控室で「やっぱり今日、ちょっと調子悪いですね。さすがにこれは、本来の出来ではないでしょ」と藤井竜王の不調を指摘した。言葉の通り、最終盤でも粘りも見られず、そのままいいところなく敗戦。チームメイトのもとに戻るや否や「さすがに酷すぎました。申し訳ないです」と平謝りした。
過去、第3大会ではチーム永瀬のメンバーとして参戦し、初戦のチーム広瀬戦で敗れ、予選敗退の危機に陥ったことはある。ただその大会ではなんとか予選を突破し勢いづくと、そのまま優勝まで駆け上がった。今回も初戦を落としたとはいえスコアは3-5で、次戦のエントリーチームに勝てば、十分に予選突破が見える。試合後、藤井竜王は「責任を感じています。今回3局指して、いろいろとうまくいかなかったところもあったので、修正できたらと思います」と短く決意を示した。追い詰められてから力を発揮してこそ、真の強者。大会5連覇へ、次戦こそ3戦全勝で道を切り開く。
◆第5回ABEMAトーナメント 第1、2回は個人戦、第3回からは3人1組の団体戦として開催。ドラフト会議で14人のリーダー棋士が2人ずつ指名。残り1チームは、指名を漏れた棋士がトーナメントを実施、上位3人がチームとなり全15チームで戦う。対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。チームの対戦は予選リーグ、本戦トーナメント通じて5本先取の9本勝負。予選は3チームずつ5リーグに分かれて実施。上位2チーム、計10チームが本戦トーナメントに進む。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)