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「今のプロレスリング・ノアのリング上、旬の過ぎたおっさんレスラーが伸び伸びとやって、未来はまったく見えねーだろ? ノアの未来を切り拓くために、俺が旬の過ぎた小島聡からGHCのベルトを命懸けで奪ってやるからな!」(拳王)
「51歳のプロレスラーが夢を見たらいけないのか!? ノアの現在は私。私が一生懸命戦っていれば、おのずとノアの未来は見えてくると信じて戦っている」(小島聡)

 6月12日のサイバーファイト・フェスティバルで潮崎豪を下してGHCヘビー級王者になった小島への拳王の挑戦は、前哨戦から意地を張り合ってバチバチ状態だった。試合後のバックステージでは拳王がスクワット、腕立て伏せをやって元気ぶりをアピールすれば、小島は「プロレスラーがやる腕立て伏せは、普通の腕立て伏せじゃない」と足を広げて背中を反らす新日本道場伝統のライオン・プッシュアップで反撃。そして毎回乱闘という具合。

 そして7月16日、日本武道館におけるタイトルマッチ本番でも壮絶な意地の張り合いが展開された。小嶋が大胸筋をピクピクさせれば、拳王も大胸筋をピクピク。拳王がマシンガンミドルキックから「いっちゃうぞ、クソヤロー!」と挑発すれば、小島はマシンガンチョップから「いっちゃうぞ、バカヤロー」とお互いに譲らない。

 この日がデビュー記念日でプロレスラー人生満31年を迎えた小島は、受けて立つ王者の立場だが「俺らの世代はいつチャンスが回ってくるかわからないんだよ」と必死だ。全日本プロレス所属時代の04年7月18日に両国国技館でノアの創始者・三沢光晴と一騎打ちをやった後から使い始めたこだわりのローリング・エルボーを発射し、コーナー上の拳王をウエスタン・ラリアットで花道に吹っ飛ばす。モンゴリアン・チョップを炸裂させた時には、思わず「天山!」と盟友の名を叫んだ。31年間のすべてを、この拳王戦に傾注したのだ。さらに雪崩式のコジコジカッターまで炸裂させた。

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 しかし拳王の心は折れなかった。この日は武藤敬司の引退へ向けてのファイナルカウントダウンがスタートした日。ここで小島を撃破してGHCヘビー級王者にならなければ、世代交代が始まったことを示すことができないのだ。

 勝負は25分過ぎ。拳王が胴締めスリーパーを自ら解くと、コーナー最上段に駆け上がってうつ伏せ状態の小島の背中にPFS! 続く腹部へのPFSは小島がかわし、立ち上がるや、助走なしのウエスタン・ラリアット! 両者ダウンになったが、カウント8で先に立ち上がった小島が垂直落下式ブレーンバスター。カウント2で返されたものの、勝利を確信した小島は右腕を高々とかざすと、ロープに走ってスタン・ハンセン直伝のウエスタン・ラリアットへ。これは拳王が回避してハイキックをズバリ。拳王が一気に勝負に出る。前のめりにダウンした小島を表向きにしてセットするとコーナー最上段からPFSを投下。カウント2でクリアされても拳王はもう止まらない。再びコーナーに上がると、ここ一番のムーンサルト式ダブルニーアタックをグサリ! これには小島も3カウントを聞くしかなかった。

 勝った拳王の第一声は「プロレスリング・ノアは新日本プロレスの天下り先じゃ…なかったな!」。これは挑戦表明した時の「プロレスリング・ノアは新日本プロレスの天下り先じゃねーんだよ!」という第一声との答え合わせであり、勝利を誇示した言葉だが、同時に「小島は、ノアに天下り先として来たわけじゃなかった」という意味にも聞こえた。

 小島は、ノアに上がるようになってから「新日本プロレス」の看板を笠に着ることはなかった。「新日本代表という感覚はなく、小島聡個人としての意気込みが強い。だからノアにどっぷり浸かりたい」と、タイトルマッチ以外はノアTシャツを着て入場し、上目線ではなくノアの若い選手とも同じ目線で戦った。だからノアのファンも小島を受け入れていたのだろう。

 戦前には小島をこき下ろしていた拳王だが「おっさん、おっさん言ってたけど、いろいろ勉強になったよ。いろいろ成長したよ。前哨戦もムチャクチャ楽しかったじゃねーか。小島聡、ありがとうな」と、感謝の気持ちとリスペクトの念を口にした。敗れた小島も「プロレスリング・ノアの未来は明るいじゃないか。あんな奴がまだいるプロレスリング・ノアの未来は安泰だと思うよ」と、拳王を称えた。団体も世代も違うが、ムキになって意地を張り合った両雄だからこそ、わかり合えるものがあったはずだ。

 日本武道館で至宝GHCヘビー級王座を奪回した拳王。17年12月22日、後楽園ホールでエディ・エドワーズを撃破してGHCヘビー級王座を初戴冠した時に「てめえら、クソヤローどもを武道館に連れて行ってやるからな!」と公約したが、昨年2月12日のノア10年ぶりの日本武道館、今年元日の日本武道館でもメインイベントのリングに立てなかった。ようやく悲願を達成したわけだが、これが拳王のゴールではない。

「俺はようやく日本武道館のメインに立った。だが、これで満足してないぞ。そしてプロレスリング・ノアも今日の日本武道館の風景を見ると、まだまだ満足してはいけないだろ。俺もプロレスリング・ノアもまだまだ発展途上だ。もっといい景色を、日本一の景色を俺が見せてやるから」と拳王。超満員の日本武道館のメインイベントの花道を最後に歩き、そして大会の最後を自分で締める。拳王はそんな自分の姿を思い描いている。

文/小佐野景浩

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