「女の子として扱われる度に違和感はずっとありましたよ、子どもの頃は」
名古屋在住のユズシカさん。性同一性障害と診断され、20歳の時に性別を女性から男性に変更した。「胸の手術の時は、服装とかも自由になるしラクになるので、かなり嬉しかったしスッキリもした」。
男性としての人生を歩みだすが、30代になると再び性自認に変化が。「生まれつきの男性だと思って接してくれる人がほとんどになって、男であることが当たり前になると、なんか変わったことがしてみたくなる。女装してみたいとか」。
女装を始めたことで、次第にユズシカさんの心も変化していく。「女装がうまくなって、本当に女の子だと思われる、認識されるようになった時の面白さや達成感。もともと女なのになぜかそういう面白さを実感して、何もかもが新鮮だった」。
そして、再び性別適合手術を行い、男性器を切除。女性としての生活をスタートさせた。「女性として扱われることも(嫌ではなくなった)。そう感じられるようになったのは、一度違和感のあった女性から男性へ性転換したから。あのまま“何か女性じゃないような気がする”という状態でずっと悩んでいたら、多分今でも男の格好をして、“でも男じゃない”という状態で悩んでいたと思う」。
現在、ユズシカさんは女装コーディネーターという仕事をしながら、自分と同じような人の力になれればと、性自認が変わる人の存在や理解を深める活動をしている。
■2度目の性別変更は「“きっと幸せ”って確信めいたものはあった」
性別を再変更する人は他にも。「20歳過ぎぐらいからつい最近までずっと男性で」と話すのは、こっつんさん。22歳の時に性同一性障害と診断され、性別を女性から男性へ変更した。
しかし、男性ホルモンを投与した影響で、20代で髪の毛が抜け落ちてしまった。「すごく男性的な容姿というものにあこがれていた部分はあるけど、“ここまで望んでいなかったんだけど、自分”みたいな。できればもう少し自分はキレイでいたいなというのはあった」。
そんな自分の思いに気づいたこっつんさんは、30代に入ると自分が男性であることに違和感を持つようになり、40歳を過ぎてから再び女性だと認識するようになった。「私たちトランスジェンダーの人たちは、性自認と体はバラバラ。一貫して死ぬまでそれがバラバラな人もいれば、途中で交差したり一致したり、また離れたりとか、いろんな人がおそらくいると思う」。
揺れ動く性自認。性別変更の1回目と2回目で気持ちに変化はあったのか。「全然違った。全部わかったつもりではないけど、“もしかしたら、私はこの選択をしたらすごく楽しいんじゃないだろうか”というよりは、(2回目は)“女性として生きたらきっと幸せ”ってちょっと確信めいたものはあった」。
■「性別再変更」には高いハードル、制度上の課題は
性別再変更をめぐる課題として、日本の法律に戸籍の「性別再変更」をする規定がないことがある。再変更するためには一度目の性別変更を「取り消す」裁判の手続きを踏まなければならない。また、2人以上の医師が「性同一性障害は誤診」だと改めて診断する必要があり、ハードルは高い。
こうした現状について、岡山大学大学院教授でGID(性同一性障害)学会理事長の中塚幹也氏は「岡山大学病院でジェンダークリニックを二十数年やっているが、同じように戸籍の性別を変えてから元に戻りたいという方はいて、それは人それぞれの生き方だ。戸籍の性別を変えることもできなかった時代から、やっと法律ができて変えられるようにはなったわけだが、その法律の中にも変えていかないといけない要件がまだ残っている。特に手術要件、手術をして体も変わって、でもまた戻りたいとなると、体を元に戻すということが困難になることもある」と話す。
海外では、ドイツで性別変更の手続きを簡素化する動きが進んでいる。現行法では、日本のような生殖機能をなくす条件はなく、心理療法士など専門家2人の報告書を裁判所に提出すれば、18歳以上(18歳未満は保護者が代理)で変更が可能だ。それが新法案では、成人は地元の登記所で変更を申告するだけ、未成年者も保護者の許可で簡易手続きが可能になるということで、年内にも承認される見通しとなっている。
中塚氏は日本で必要となっている診断について、「精神科医が話を聞きながら、本人に“やっぱりそうですよね”と納得していただくことが目的。本人が言っているのを否定して“あなたはこっちだ”という診断をするようなものではない」と説明。その上で、「特に戸籍の性別を変えたり手術をすると後戻りしにくいので、いろいろなことを想定してもらう、あるいは実際に体験してもらうのがすごく大事。『リアル・ライフ・エクスペリエンス』、望む性での生活と言うものを実際にしていただて、それでも自分は揺るがないという方が手術、さらに戸籍の性別を変える。途中で困ったりする方が出ないように、伴走して共に進んでいくということで、上から目線で診断をつけるというものではない」とした。
これは、性別再変更のために性同一性障害が「誤診だった」と改めて診断する必要がある点と矛盾は生じないのか。中塚氏は「それには我々も反対している。誤診ではなくて、診断がついた時には本人も納得しているからだ。性別変更も個人の医師が判断するわけではなくて、適用判定会議という外部委員も入った何人ものドクター、心理師などいろいろな方が入って決めている。医師個人が1人で判断したものが生きて、それでどんどん変えていくということにはならない仕組みになっている」と説明した。
■自民党の勉強会で配られた“冊子”に波紋…社会には誤解も
今年6月、自民党の勉強会でLGBTについて誤解のある内容が書かれた冊子が配られていたことが波紋を呼んだ。その冊子には、「同性愛は心の問題であり、先天的なものではなく後天的な精神の障害、または依存症」「同性愛は回復治療やカウンセリングなどの手段を通じて抜け出すことができる」「LGBTの自殺率が高いのは社会の差別が原因ではない。自分自身の悩みが自殺につながる」などと記載されていた。
こうした内容に中塚氏は「論外な話だ。直後に我々のところにもいろいろな連絡があった。これは偏見に満ちていると思うので、気にされないようにしてもらうか、『見ないようにしておいてね』と僕らも言っている」と指摘。
また、タレント・コラムニストの小原ブラスは自身がゲイであることを公表している。この冊子について、「同性愛を治す薬があるんだったら1回投与してみたい。アメリカでも治療とか、宗教によって試みてみたりということがあるけど、そんなものではない。生まれながらのものだ」と訴えた。
議論を踏まえた上で、こっつんさんは最後、「このように珍しい、トランスを2回繰り返す人間なので、周りからいろいろな見方をされることは多いが、自分としてはこの生き方を選択している。1回目のトランジションとは違って、(2回目は)いかに自分が幸福に生きるかの追求。ある意味、本当にトランスフォームと言った感じで、楽しくやっている」と語った。(『ABEMA Prime』より)
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