5月に行われたアメリカ・シカゴ大学の調査で、過半数が「政府は腐敗し不正を行っている」と答え、約3割の人が「政府に対し武装蜂起が必要」だと考えていることが明らかになった。さらに、約半数が「政治的議論を避けるようになった」、約4割が「政治的な問題で友人との交流、SNSの交流をやめた」と回答。また、7月に行われた別の調査では、過半数が「半年以内に内戦が起こる」、約8割が「目的達成のためなら場合によっては暴力も許される」と答えている。
見えてくるのは、アメリカの分断と暴力による現状変更を容認する気運だ。2021年の大統領選挙の結果をめぐり、トランプ支持者が国会議事堂を襲撃。バイデン大統領は「あれは抗議ではない。ただのカオスだ、彼らは抗議者ではなくテロリストだ」と断じている。
また、人種や移民をめぐる対立も根強く残っており、このまま分断と暴力による現状変更が進んでいくのか。世界に目を向けても、ロシア軍によるウクライナ侵攻、台湾海峡や南シナ海、尖閣諸島周辺での中国の軍事的行動など、武力による現状変更や威嚇が実際に起こっている。
■背景に“白人人口割合が過半数を割り込む”ことへの危機感?
シカゴ大学の調査結果について、『トランプ信者 潜入一年』の著者でボランティアとして陣営入りもしたジャーナリストの横田増生氏は、まず共和党と民主党における違いを指摘する。
「(武装蜂起が「必要」と答えたのは)共和党のほうが多く(36%)、民主党が少ない(20%)のが1つ肝心なポイントだ。共和党と民主党の間には深い深い溝が何十年近くもあって、それをより大きくしたのが2016年に大統領になったドナルド・トランプだったとみている。共和党支持者は8割以上が白人で、2割弱がヒスパニック、黒人、アジア。はっきり言うと、“白人のための党”というのが今の共和党で、その人たちが武力蜂起にも賛成しているというのが全体像じゃないかと思う」
政府への武装蜂起が必要だと考える背景には、米国の白人人口割合が将来的に過半数を割り込むという予測への危機感・恐怖心があるのだろうか。
「もともと白人が作った国なのに過半数を割るということに対して、多様性を求めていない白人たちは非常に危機感を持っている。白人の中の多様性を認める人たちは民主党に行く一方で、“やっぱり多様性は嫌だ”“白人の国であるべきだ”“ウエスタンカルチャーや西洋文化を維持するべきだ”というのが共和党だ」
共和党の特徴としてパックンは、「MAGAキャップ(※)を被っていれば“同じチームのメンバーだ”と見る。考え方だけではなくて、信じ方、生き方、文化、価値観などを全部共有するような、その人と一気に仲良くなる強い絆が生まれる。(白人の数が)過半数を下回ってしまうという危機感を抱いている白人同士であれば、その効果はさらに強いと思う。民主党にはなかなか同じ現象は見られない」と説明する。
※MAGA(Make America Great Again(アメリカを再び偉大な国に)と刺繍された帽子。トランプ支持者のシンボル
さらに、「被害者意識を持つというのは、カルトや陰謀論、政治運動でもすごく重要な要素だ。三権分立の中で実はどれも共和党が有利だが、“我々は抑えられている”と思って熱狂する。ある意味で間違っていないのは、保守派は男女の結婚以外は認めたくないという中で、最高裁は全国的に同性愛結婚を認める判決を下した。また、移民政策に反対だけれども、どんどん入ってきて人口の構造が変わってきている。さらに、テレビをつけると、西海岸も東海岸も民主党員の多い州の存在感が強い。そこで、“我々(共和党)の存在感がない”“追いやられている”“マイノリティにされている”と感じている。選挙に対する優位性はあっても、文化に対しては弱者だ」と続けた。
■家族で政治を議論するのもNG、トランプはなぜ“分断の象徴”に
同じくシカゴ大学の調査では、他人との政治的な会話を「避けてきた」と答えた人が5割に上った。「相手の立場がわからないから他人との政治的な会話は避けてきた」との設問に「はい」と答えたのは49%(「いいえ」45%、「わからない」6%)、「政治が分裂しているので政治的な議論に積極的にかかわらない」との設問に「はい」と答えたのは47%(「いいえ」42%、「わからない」12%)だった。
パックンは実の弟が熱心なトランプ支持者だと説明した上で、「昔はクリスマスディナーとかサンクスギビングディナーで家族みんな集まって、熱く政治的な議論もしていた。しかし、トランプが出てくると議論じゃなくて殴り合いになるから、一切触れちゃいけない。家に招かれた時も、親に『来てくれてありがとう! 政治的な話したら追い出すぞ』と言われる」と明かす。
なぜトランプ氏は話題に出せないほどの“分断の象徴”になってしまったのか。増田氏は「白人の割合が50%を切るだろうということは10年以上前にわかっていたが、そこで共和党が取る道は2つある。マイノリティを受け入れるのか、受け入れないのか。もちろんマイノリティを受け入れた方が党勢は拡大するということで、2016年はヒスパニック系に強い候補者が出たが、共和党の支持者はそれよりもトランプを選んだ。出馬宣言の時に“メキシコ系の移民はドラッグを持ってくるし、強姦魔である”というようなことを言ったトランプを選んだわけだ。やはりそこには恐怖心があって、マイノリティになってしまう、このままでは自分たちの思いが伝わらない、文化戦争で追いやられていく、“そういったものを跳ね返してくれるのがトランプだ”と信じたんだと思う。僕もボランティアの時に『うちも最近、家族では一切政治の話はできないのよ。本当に悲しいことなんだけど』という話を何度も聞いた」と説明した。
■敵の敵は味方? ペロシ下院議長の訪台をポンペオ前国務長官が祝福
日本時間の2日深夜、アメリカ・民主党のペロシ下院議長が台湾を訪問したことに対して、共和党の有力者であるポンペオ前国務長官がツイートで祝福した。
これは中国という“共通の敵”の存在によって折り合う部分が垣間見えたのか。横田氏は「“敵の敵は味方”という話なのか、僕は正直そこまで割り切れるほどの見識を持ち合わせていないが、ポンペオが賛成するのは意外だ」との見方を示す。
パックンは「ペロシ議員の台湾訪問に関する両党の評価を解説するなら簡単。トランプ大統領が例外だったということだ。基本的に共和党はタカ派、民主党はハト派という構造ができているが、トランプ大統領は他国の内戦には介入しないし、口は出さないし、勝手にやりなさいよと。軍事的なことは一切介入したくないというのが珍しくて、それに対する反発が民主党をタカ派に近づけた。今回の侵攻で“ウクライナを守るぞ”と民主党が強く言ったら、伝統的なタカ派の共和党員が“そうだそうだ”と並んでくれた。で、台湾も“我々が守るぞ”と。普段は共和党が言うことを民主党が言って、共和党の伝統的な人が共感するというのは3本の指に入るぐらい本当に珍しいことだ」と驚きとともに語った。(『ABEMA Prime』より)
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