「仕事のパフォーマンスが落ちていく感覚。自分の居場所がなくなるような気持ちに」 漠然とした先行き不安がトリガーに? 中高年のうつ病を経験した男性に聞く対処法
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 「172万人」。これは厚労省が今年6月に発表した気分障害の患者、主にうつ病を患っている人の数だ。

【映像】“ミッドライフ・クライシス”とは? 復帰した当事者に聞く

 今、日本には70人に1人の割合でうつ病になる人がいる。最近は"若年化"について取り上げられることが多く、問題視している人も多いのではないだろうか。

 実はさらに深刻な世代がある。中高年だ。ここ10年のデータを見ると、年々患者数は増加。中でも40代から50代の中高年世代の割合が増え続け、最新の調査結果では全体の43%を占めるほどになっている。

 もちろんうつ病は年齢、性別を問わず発症する可能性がある。そんな中、なぜ中高年がここまで増加の一途をたどっているのか。

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 「社会的な立場も変わってくるし、人生の残り時間も見えてくる。そういった焦りも加わることによって、気持ちの中でまとまらないような、あるいは辛いような状況が起こってきて、俗にミッドライフ・クライシスと呼ばれるようなメンタルヘルス上の危機がやってくる」

 こう話すのは、精神科医の熊代亨氏。ミッドライフ・クライシスは中高年の約8割が経験するとも言われており、これがうつ病に進展するケースも少なくないようだ。

■「仕事のパフォーマンスが落ち、だんだん不安度が増していった」

 現在54歳のたにぐちさん。5年前に職場の上司からパワハラを受け、うつ病を発症した。

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 「休みの日ぐらいは気分転換したいので、旅行に行く。その旅行先で携帯電話に上司から電話があって、1時間くらいずっと怒られ続ける。最終的には(うつになって)、立てなくなって話すこともできない状態になった」

 そんなたにぐちさん、実はパワハラを受ける前からミッドライフ・クライシスによる不安を抱えていたという。

 「自動車販売の営業をずっとやっていて、それなりに成績も良かったが、40代の半ばくらいから仕事のパフォーマンスが落ちている感覚があった。それが将来の不安につながって、だんだん不安度が増していった」

 パフォーマンスの低下と漠然とした不安感、そこにうつの発症も加わったことで悪循環に陥ってしまったのか。

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 「店長候補のポジションで、自分の数字を伸ばしていかないといけないし、部下も育てていかないといけない。ただ、自分のパフォーマンスが落ちていくし、記憶障害で今までありえなかったミスを犯すようになってくるわけだ。それが自信の低下にもつながるし、周りからも“何でそんなミスをするの?”という目で見られるので、だんだんと耐え切れなくなった」

 それまで仕事一筋だったことも影響しているという。

 「ディーラーという仕事上、土日の地域での活動にも参加できず、社会とのつながりが希薄になっていった。ずっと仕事一辺倒で来て、仕事以外のつながりがない状態でどんどん立場が悪くなっていくと、自分の居場所がなくなるような気持ちになった」

■「“仕事一本槍”という状況はかなり危ない」

 若手より給料をもらっているにもかかわらず、それに見合った働きをしない中高年のことを指す“働かないおじさん”。たにぐちさんもそのような見られ方をしたという。

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 「いろいろな症状が重なって仕事のパフォーマンスが落ちていくと、周りの評価が下がっていくのが手に取るようにわかる。働かないおじさんというか、ポンコツのような言われ方をされるようになって、それがすごく辛かった。今でこそ思うのは、社会や会社の中でそういうことがちゃんと認識されていれば、もっと働けたのではないのかと思う」

 近畿大学情報学研究所所長の夏野剛氏は、企業におけるメンタルヘルスのケアは重要な課題だと指摘する。

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 「一定規模の企業では、産業医の面談やカウンセリングは結構やっている。この手の話題が出る度に言っているが、アメリカなんかに行くと精神科との付き合いはもっと身近だ。主治医がいて、本当に何でも相談し、夫婦げんかをすると夫婦でカウンセリングを受けに行くようなことが当たり前になっている。抱えている問題について人に話すというのは、ひとつの“吐き出し”になる。そういう仕組みが日本全体で整っているとは言い難い」

 会社もサポートを進めている一方で、ミッドライフ・クライシスはどのように予防すればいいのか。熊代氏は心だけなく身体のケアも大事だと指摘する。

 「先ほどのたにぐちさんの“仕事一本槍”という状況はかなり危ない。やはり地域の付き合いがあるとか、友達付き合いがあるとか、趣味でもいいが、多角的に生きている人の方が大きな波が来てもなんとか持ちこたえられたり、少ないダメージで済む。

 脳梗塞なんかもリスクファクターだと言われているが、いろいろな病気でうつ病になるリスクは上がってしまう。身体を壊すことによって社会的な立場が大きく変わると、そこにメンタルをついていかせるのはとても難しい」

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 こうした話を受けて、たにぐちさんはうつ病やミッドライフ・クライシスに関する知識を身につけておくことも大事だと語った。

 「うつになったことがないし、ならないと思っていたので、自分がうつだと自覚できていなかった。症状が進んでいたとしても、どういうものかを理解していないから対処もできない。今は復帰して、会社からのサポートが得られているが、知識を共有化していく、理解するような環境があるといいと思う。そして、私が復帰できたのは、趣味を新たに持つことができたから。TwitterとInstagramを通して、アウトドアに詳しいいろいろな世代の人と遊ぶようになって、癒されて自信も戻った。何か燃えるものや熱中できるものがあるとだいぶ変わると思う」

(『ABEMA Prime』より)

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