ペロシ米下院議長の訪台に合わせた中国軍の大規模軍事演習は当初の予定を越えて継続、9日には台湾上陸作戦を想定したとみられる演習の様子が公開された。
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そんな中、中国軍が発射した弾道ミサイルは9発中5発が与那国島周辺のEEZ(排他的経済水域)内に着弾。さらに2機の無人機が沖縄本島と宮古島の間を通過するなど、与那国島や石垣島などからなる八重山諸島(沖縄県)の住民、周辺海域で操業する漁業関係者からは不安の声が上がっている。一方、バイデン米大統領は「あまり心配していない。これ以上のことは起こらないだろう」している。
“台湾有事”の可能性について、琉球大学の山本章子准教授(国際政治学者)はこう話す。
「首都キーウ制圧を目指して始まったロシアによるウクライナ侵攻が上手くいっていないことで中国も台湾の武力統一のリスクを実感し、“実際に戦争になれば現段階では勝ち目がない”と攻撃そのものには慎重になっているはずだ。ただし、“台湾は中国の一部であって、台湾のことは内政問題だ”という長年の主張を認めてきたアメリカがそれを覆すような動きをすれば容赦はしない、そういう姿勢を国内向けに見せておく必要がある。それが現状のチキンゲームを招いているということだ」。
■「民間の航空機や船舶を用いた避難のシミュレーションも必要だ」
こうした状況に危機感を露わにするのが、八重山市町会会長も務める中山義隆・石垣市長だ。竹富町、与那国町の町長らとともに県庁を訪れ、中国に対し厳重抗議するよう求めた上で、“万が一”を想定した離島住民の避難など支援体制の構築も要請した。
「台湾を超えて来た中国のミサイルは私たちの島のすぐ近くに着弾した。与那国島の80km近辺にも落ちている。台湾有事は決して他人事ではないという感じだ。仮に有事が起きた場合、大陸側から台湾の西側を攻めるだけではなく、尖閣諸島に対して何らかの攻撃を仕掛けてくる可能性が高い。尖閣諸島を押さえれば台湾を東側からも攻撃できるようになり、防衛力を分散させられるからだ。
また、台湾に住む2300万人の人々の中には、100kmの距離にある与那国島、あるいは200kmの距離にある石垣島まで漁船などで逃げ出て来る人も出てくると思う。島のあちこちに上陸してきた場合、入国管理をどうするのか。さらには工作員が紛れ込んでいることも想定しなければならない。東京や大阪、福岡、名古屋への直行便で日本各地に入ってくる可能性も踏まえれば、これは石垣だけの問題ではなく、日本全体の安全保障の危機だと思う。
私はペロシ議長の訪台については評価をしている。アメリカがコミットする姿勢を示した形になったからだ。一方で日本政府に対しては安全保障上の危機が起こらないよう、外交も含めしっかり対処してほしい。そして万が一、住民が避難しなければいけない状況になった場合には的確に対応してもらいたい。民間の航空機や船舶を用いた避難のシミュレーションも必要だろう。そうしたことを県から国に対して要望してほしいと、玉城知事にお願いした」(中山市長)。
■「尖閣諸島を守るために出動した場合、自衛隊は先島諸島を守れない」
現在、八重山諸島の与那国島と宮古島には陸上自衛隊の駐屯地が置かれており(与那国島には航空自衛隊も)、さらに石垣島にも新たに駐屯地が整備されることになっている。
前出の山本准教授は「攻撃の前段階としてフェイクニュースや電力・通信ネットワークといったインフラのシャットダウンなどのサイバー攻撃が来る。次に無人機を使った攻撃が行われ、その後で有人部隊による攻撃が始まる。そして最終的には台湾上陸作戦にまで至ると思う。また、中国による台湾侵攻が成功するかどうかは、米軍と自衛隊による支援を絶ち、台湾を孤立させることが鍵になってくるし、まず中国軍が尖閣諸島を占拠しようとすることが考えられる。これと前後して与那国、宮古、石垣、さらに奄美大島などにサイバー攻撃もしくは直接占拠、通過することも考えられる。こうした全ての事態を想定しておくべきだ」と指摘する。
「さらに、こうした場合にアメリカ軍が必ず守ってくれるとは考えない方がいい。憲法上の解釈は置いておいて、在日米軍としては日本の領土である以上、実質的に軍隊である自衛隊が守るべきだと考えている。もちろん同盟軍なので、自衛隊が戦闘に入った際には支援に入ることも想定していいが、自国の領土については自衛隊がまずは守る、というのが暗黙の了解のはずだ」。
また、有事であれば自治体の住民避難を自衛隊が手伝うこともできるが、それはあくまでも余力がある場合だ。結局、主体は常に自治体だが、与那国の場合は一旦石垣島に集め、そこから沖縄本島に避難させることになる。しかし、実は中山市長になるまで、こうした避難計画がきちんと策定されていなかった。県の方も自治体と連携した避難計画が必要だが、革新県政が続いているため、戦争を想定することはよくない、ということで進んでいないのが現状だ。
さらに残念なことに、国も自衛隊の配備には熱心だが、同時に必要となる住民避難に関しては自治体に責任を丸投げしている。実は今の自衛隊には尖閣諸島の奪還作戦と、与那国、宮古、石垣などの先島諸島の防衛作戦と、さらには在日米軍の後方支援作戦は3つを同時並行で遂行する能力はなく、どれか一つを選ばなければならない。自衛隊の能力強化の議論においては、まず住民を守りながら、あるいは素早く避難させた上で戦うという能力、法整備を考えなければならない」(山本准教授)。
■「この機会に様々な想定や法整備を進めていただきたい」
沖縄本島出身のryuchellは「沖縄本島の人でさえ離島のことには距離感があって、石垣島の状況などを把握しているわけではない。あるいは本当の基地のことでいっぱいいっぱいの部分もある。でも、こういう時だからこそ同じ沖縄県民として、そして同じ日本人として、皆さんのことを考えて行かないといけない」とコメント。
島への陸上自衛隊配備計画が争点になった3月の市長選で再選を果たした中山市長も国民に向け、改めて次のように訴えた。
「尖閣諸島で中国漁船が巡視船にぶつかる映像が流出した時には国民の皆さんも危機感を抱いたと思うが、あれももう10年以上前だ。どうしても時間が経てば忘れてしまう。しかしにわかにウクライナ情勢、ペロシさんの訪台による台湾情勢が報じられ、国民の皆さんからも様々な意見が出てきている状況だ。
石垣に配備を予定している陸上自衛隊の駐屯地に配備が決まっている地対空誘導弾、地対艦誘導弾も、どこかの国を攻めるための装備ではなく、武力攻撃を加えようとして向かってきている航空機や艦船に対処するための装備だ。実際に有事は起こらないにしても、ぜひこの機会に様々な想定や法整備を進めていただきたい。もちろん、戦争は起こってはいけないので、しっかり外交交渉をしながらだ」(中山市長)。(『ABEMA Prime』より)
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