もし目の前で人が倒れたら? “居合わせた人=バイスタンダー”の役割 「自分の処置は正しかったのか…」心理的負担を減らすには
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 「私の前に座っていて救急車を呼んでくれた女性に取材をしたら、本当に急にバンッと顔面から倒れて、鼻血は出るわ泡は吹くわという感じ。“無になった”感じはあった。何もない世界というか」

 医療ライターの熊本美加さん(55)。3年前、自身に起きたある体験をまとめた本が話題になっている。

【映像】電車内で“心肺停止” 熊本美加さんの体験漫画

 『2019年11月19日午前10時、山手線車内。その日は約束していた仕事の打ち合わせに向かっていた。少し待たせちゃったから早く行かなきゃ。それは…「まさか」もよぎらない一瞬だった…。“大丈夫ですかー?”“人が倒れたぞー”。混乱する車内…呼びかける声…もう、その声すら届かない。私はすでに心肺停止していたから』(『山手線で心肺停止! アラフィフ医療ライターが伝える予兆から社会復帰までのすべて』より)

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 当時の状況について熊本さんは、「他の乗客がSOSボタンを押して、駅には駅員さんが何人もいて。ホームに運び出されて、すぐにAED。AEDは作動したが、4回ぐらいやっても効かなくて、その間も駅員さんがずっと心臓マッサージをやってくれた」と話す。

 その後、救急隊が到着し病院へ搬送。原因は狭心症で、懸命な治療により一命をとりとめた。彼女の元へ家族が駆けつけたが、財布の中にたまたま父親の名刺が入っていたことで、会社→父親→家族へとすぐ連絡がいったという。こうした経験から、熊本さんは緊急連絡先やかかりつけ医などを書いた紙を肌身離さず持っている。

 このように、いざ倒れてしまったら本人にできることはほとんどない。夏休みは海や山へのレジャー、実家への帰省など出かける機会も多く、事故や熱中症などのトラブルもつきもの。そんな時、命をつなぐ大きな存在になるのが「バイスタンダー」だ。

 バイスタンダーとは、ケガ人や急病人が発生した時にその場に居合わせた人のこと。人が倒れてから救急隊が到着するまでに救命処置をしたかどうかで、救命率には大きな差がある。さらに、最近は新型コロナによる医療逼迫で、救急車が着くまでの時間が2倍近くになっており、まさに“命を繋ぐ”バイスタンダーの行動が重要視されている。

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 もしバイスタンダーがいなかったら?――。「絶対死んでいた。命の恩人、本当に感謝しかない」と熊本さん。

 11日放送の『ABEMA Prime』はバイスタンダーの役割と心理的負担について、当事者と専門家に話を聞いた。

■「自分の処置は正しかったのか…」、心理的負担を減らすには

 7年前、勤めていた会社で突然倒れた先輩に救命措置を行った鈴木メイザさん。当時の状況について、「執務中に『倒れたぞ』という声が響き渡って、どうしたんだろうと思ったら直属の先輩だった。皆さんどうしたらいいのかとわたわたしていたので、“とりあえずAEDだ”と思って1階下のフロアに取りに行った」と話す。

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 AEDを装着し、CPR(心肺蘇生法)の経験がある男性と協力を申し出た女性の3人で救命処置にあたる。しかし、10階以上の高層ビルで救急隊の到着に時間がかかったこともあり、搬送先の病院で死亡が確認された。

 バイスタンダーとなった人は、「自分が行った処置は正しかったのか」「違った行動をしていれば」と心に傷を負うことも少なくないそうだが、鈴木さんもその1人だ。

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 「亡くなったと聞いた時は、自分のやったことが全く役に立たなかったと。別の押し方があったんじゃないか、押す位置があっていたのか、ちゃんと講習どおりにできたんだろうか、と自分の行動を振り返った。一緒に救命をやった先輩とチャットや対面で話をしながら、“結構ギリギリまで頑張ったよね”と慰め合うというか、納得させ合った」

 このような心理的負担について、救命医で日本救急医学会指導医の本間洋輔氏は「フラッシュバックに対して、どのように介入できるか? という話がまさに進んでいるところだ。鈴木さんのエピソードのように、“誰かと話す”のはけっこう大事で、1つできることだと思う」と話す。

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 「自分に正しい処置ができるのか」と不安に思う人は多いことから、救命処置を学ぶ場を継続して設けることが必要だと訴える本間氏。鈴木さんは、自分がすぐにAEDを取りに行けたのは過去にも同じ経験があるからだといい、「先輩の件に遭遇する前に、一緒に出張していた協力会社の男性がくも膜下出血で倒れた。その時に自分が何もできなかったのが悔しくて、子どもが生まれたのをきっかけに救命の講座を受けていたことが一番大きかった。やはり“あの時何もできなかった”という思いがあって、次の行動に繋がったのではないかと思う」と明かす。

 また、心のケアについては、「一緒に処置をした先輩と話をしたのに加えて、知り合いの看護師に相談をした。『実はこんなことがあって、気持ちがつらい』という話をしたところ、彼女は的確なアドバイスをくれて、それによって私も“やってよかったんだ”と思えた。どうしても素人がやるので、事後の納得感を作ってあげるという心のケアがあるといいと思った」と付け加えた。

 しかし、実際には人が倒れても、行動に移せない人が多いのが現実だ。ネットには、「知識もないし間違ったことをしたら責任とれない」「誰かがやってくれるでしょ」「あとで訴えられたりしてもイヤだし…」という声があがる。

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 鈴木さんは自身の経験から、サポートを申し出てくれることのありがたさを語る。

 「『わからないけど手伝う』と言ってくださった女性にはすごく助けられた。心肺蘇生にはすごく体力を使うので、翌日全身が筋肉痛になるし、膝は皮がむけるぐらい。しんどくなったら代わるという形で3人でやったが、それでも結構きつかった。『わからないので教えてほしい』と言ってくださる方がもう何人かいたらと思う」

 本間氏は、救命処置ができないとしても、バイスタンダーとしてできることは多くあると呼びかけた。

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 「『誰か来て助けてほしい』『誰かできる人はいるか?』と人を呼ぶこともそうだし、『AEDの場所を知っている人はいるか?』『AEDを取りに行ってほしい』と呼びかけるのも立派なバイスタンダーだ。また、救急車を呼んだ後に『誰か救急車の動線を確保してほしい』と呼びかけるなど、できることはたくさんある」

(『ABEMA Prime』より)

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