受験業界の用語で「深海魚」というものがある。それは学校の勉強についていけず、深海に漂うように成績が低迷してしまう生徒を指す言葉だという。いったいどんな存在なのか、中学受験専門の学習塾で代表を務める三宅貴之さんに話を聞いた。
「要するに成績が底に沈んでしまっている子たち。結局成績が底にいることを良しとしてしまって、それがある意味気持ちよくなっちゃっているような子。これが深海魚かなと思います」
三宅さんは「頑張って中学受験をした子どもが深海魚になりやすい」とし、親の敷いたレールに従って勉強をして、無事に中学に入学するも入学後には学校の勉強をどう頑張ったらいいかわからない。そんな子どもが多いという。
「最初のテストで失敗しちゃって『自分はダメだ』と思ってしまった子たち。一回悪い成績を取ると『俺はどうせできないし』と中間期末の前もますます勉強しなくなって、気が付いたら大学受験の時には全然間に合わない」
気を付けたいのは、実力以上の学校に入学してしまったからといってすべての生徒が深海魚になるわけではないということ。
「(中学)受験に必要な力と中学高校に入ってからの力と問われるものは別物。そのとき、中学に入ってからの勉強をさぼってしまうと、結局基礎の積み重ねが中学高校と6年間続いて、最初で(勉強に)つまずいて(そのまま)できなくなってしまうという形。目標が上の学校になっちゃうというのは問題ないかなと」
三宅さんは偏差値以外にも「本人が“イキイキできる”という基準で学校を選ぶことも大事」とした上で、現在、成績が低迷してしまっている生徒については、「自身も努力が必要」としつつ、「学校側の働きかけも重要」と話す。
「学校によっては成績下位の子を引き上げるプログラムがあったり補習を組んでくれるところもある。学校側が深海魚を作らないように、できない子たちにも働きかける。実際、中学受験を突破して入った子たちは、その学校が求める最低限の学力はもっていると思う。なので、本来持っている力を引き出してあげるような声かけを大人ができるといいかなと」
これを受けて、ニュース番組『ABEMAヒルズ』のコメンテーターとして出演している、慶應義塾大学教授で教育経済学者の中室牧子氏は次のように話す。
「私たちの研究室でもトップ進学校のデータの分析をやっていて、入学後の最初のテストで下位をとってしまうと、その後ずっと下位になってしまう子が一定割合存在していることがわかった。これを予備校の業界では深海魚と名付けているのだと思う。これには諸説があって、先ほど三宅さんがおっしゃったように、自分の順位が低いことで自信を失くしてしまって『やっても無駄だ』と考えてしまう、そのことが影響しているんだと思う。世の中の傾向を見てみると深海魚というのはある」
なぜ、深海魚効果が生まれてしまうのだろうか。
「研究では小学校の時の学校内の順位が低いと中学校入ってからの学力が低かったり、進学先に影響を与えるといった結果が出ている。海外での研究はもっとすごくて、小学校で順位が低いと将来の賃金に影響。あるいは将来、未成年で飲酒や喫煙といった素行不良になる、性格的なことにも影響するといった結果が出ている。すなわち、学校内での相対順位で『自分は能力が低いんだ』という印象を持ってしまうと長期にわたって影響があるというのが研究でわかってきている」
しかし、どうしても学年最下位になってしまう人は出てくる。深海魚効果を生まない方法について、中室氏は「最終的には相対評価をある程度見直していかないといけない」とし、次のように述べた。
「学年の順位が表しているものは半径5m以内にいる同級生との比較でしかない。それで、あの子に比べて自分は能力が高い、または低いと子どもたちは自分の能力を測っている。そうすると必ず上の子や下の子が出てくる。でもそういう測り方ではなく、自分自身が過去の自分と比べて伸びたかどうかの測り方をしなければいけないと思う。そういう価値観を持つことが大切。また、海外の研究では自分との比較を徹底した結果、深海魚の子どもたちの学力が上がっていったというデータもある」
順位をつけると周囲と比較してしまうもの。そもそも順位をつけることを廃止することはできないのか。
「相対的な順位を知るというそのものが毎回悪く出るわけでない。周りと比較して自分自身の“強み”を客観的に把握することは成長につながるので、相対評価が全部についてダメということない。ただ、過度に人の自信ややる気を失わせないように注意することが大切。また、深海魚になってしまう子どもについては、自分が輝ける場所を探すのも大事で、親御さんも偏差値だけで学校を選ぶのではなくて子どもが活躍できる場所を選んであげるといいと思う」
(『ABEMAヒルズ』より)
■Pick Up
・「ABEMA NEWSチャンネル」がアジアで評価された理由
・ネットニュース界で話題「ABEMA NEWSチャンネル」番組制作の裏側