京大の“無料講義”が存続危機 センター長「教育資産の損失は計り知れない」
京大”無料講義”危機 センター長「損失計り知れない」 »

「京都大学も日本のフラッグシップ大学の1つとして自負している所があると思いますけれども、このようなセンターが失われるというのは非常に残念」

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 こう話すのは、京都大学・高等教育研究開発推進センターの飯吉透センター長だ。8月4日、京都大学がこのセンターを9月末で閉鎖する決定をしたことが発表されると、インターネット上では驚きの声が上がった。

 声があがったのはこのセンターが、京大の講義や公開講座、国際シンポジウムなどの動画や資料を無料で公開してきた「オープンコースウエア」や、課題や試験もある公開オンライン講座「MOOC」を運営していたからだ。

 ネットにつながれば、ほぼ無償で世界中の誰もが大学の知にアクセスできるという、「教育のオープン化」。京都大学が公開している講座は、オープンコースウエアだけでも6000~7000に上り、学生や社会人など、さまざまな人の学習に利用されている。

京大の“無料講義”が存続危機 センター長「教育資産の損失は計り知れない」

 中には海外の研究者が受講するようなレベルの高い講座もあった。またMOOCは、世界で2億2千万人が利用するなど、いま利用者が増加している学習法だ。

 しかし、センターの閉鎖によって、これらのほぼすべてが廃止と発表されたのだ。京大では、定番の立て看板による抗議も……。さらに、センターのサイトには、大学の決定に対する無念さがにじみでたコメントが掲載され、話題となった。
 こうした声を受けてか、一部は「暫定的な維持」となったが、今後、更新の見通しは立たない。

 このように、学内外から惜しむ声が集まっている“無料講義”とはどういったものなのだろうか。飯吉センター長によると、その始まりは約20年前、アメリカのマサチューセッツ工科大学だった。

 当初は自分たちの講義をビジネス化しようと検討したものの、たいして儲からないことがわかったため、社会貢献事業として無償で公開したのだ。

「自分たちで(知識を)ガメて、既得権益に固執するというよりは、社会に還元していくことによって自分たちをさらに前に進めていくという、非常に尊敬すべき考え方だと思います。」
「世界中を見渡せば、まだ大学で学べない人たちは依然として圧倒的に多い。教育の格差というのは、残念ながら世界から無くならないが、インターネットが登場したことで、それを超越していくことができるのではないかと」

京大の“無料講義”が存続危機 センター長「教育資産の損失は計り知れない」

 そうして始まった講義の無料公開。いまでは世界中の大学に広がり、互いに利用することもあるという。

「今回もし京都大学がオープンエデュケーションから撤退するということになれば、大学教育における世界的な競争や協力から撤退すると見られざるを得ないと思います」

 6月に岸田政権が発表した”骨太の方針”では社会人の学び直し、いわゆる『リカレント教育』の充実が掲げられている。海外ではこのリカレント教育に「MOOC」などが活用されているという。

「社会人が大学に戻って、働きながら学ぶというのは大変」
「(MOOCなどは)5年前の知識や技能は古いと言われてしまうような領域にも対応できる、ある意味教育イノベーションだと思います。生涯教育も、ついに現実味を帯びてきたのかなという印象を受けます」

京大の“無料講義”が存続危機 センター長「教育資産の損失は計り知れない」

 これからまさに必要とされる活動を、なぜ終了としてしまうのか。京都大学はニュース番組『ABEMAヒルズ』の取材に対し、今回のセンター廃止は「大学全体の全学機能組織の見直しの中で決まったもの」で、今後は「時代のニーズに対応した教育内容・体制の改善を進めていく」としている。

 一方、飯吉センター長は「学内外に説明が十分にされていないのは、非常に、理不尽で不可解」だと話している。

「20年以上の京大の近代の歴史的な部分が、6000、7000の教育コンテンツに貯められているわけです。これがある日突然、オンライン上で世界からアクセスできなくなると、教育資産の損失は計り知れないと思います。少しでも失われるものを食い止められるような方向で進んでいければと考えています」

 このニュースについて、ニュース番組『ABEMAヒルズ』に出演した慶應義塾大学・総合政策学部教授の中室牧子氏は、「発信する側にもコストがかかっている」と話す。

「無料で公開されているが、無料で作れるわけではない。作る側、発信する側にはコストがかかっている、このことは非常に重要。大学は、この手の知的公共財というものに自らコストを支払って提供してきたという側面がある。しかし、一部のものに関しては、時限付きの研究費とかで賄われているものがある。そうすると、研究費が切れると途端に廃止になったり、継続できなくなったりするというようなことが見られている。京都大学のケースは、必ずしもコストだけの問題とは思えないが、知的公共財を維持するというコストを誰が払うかというのは、考えていかなければないと思う」

京大の“無料講義”が存続危機 センター長「教育資産の損失は計り知れない」

「知的公共財を一旦失うと、もとに戻らない。例えば、我々の分野でも時限付きの研究費でずっと維持してきたデータベースがあるが、お金が切れてしまってそのデータを収集できなくなった。そうしたデータは過去に積み重ねたものも含めて利用価値が減じてしまうことがある。なので、市場のメカニズムにあわせて取捨選択していいのか、いうことも考えていかなければならないと思う」

 最後に中室氏は、京都大学には「今後の方向性を明らかにして欲しい」と明かした。

「私は、時代のニーズあわせて、教育内容や体制を変えていくのは正しいと思う。ただし、その方向がどこに向かっているのかということを、京都大学内部の人も利用していた人も知りたいと思っているのではないだろうか。どういう方向を目指しているのかというのをぜひ明らかにしていただきたい」

(『ABEMAヒルズ』より)

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