企業へ労働者が待遇改善を求めるための労働組合。海外ではストライキなどでその活動が盛んに見える一方、日本ではその存在感があまり感じられない。これからの労働組合はどうあるべきか専門家に話を聞いた。
今年に入り、世界各国で労働者によるストライキが多発している。インフレにより生活費の負担が増える中、労働者の給料が変わらないことが主な理由だ。
イギリス・ロンドンでは6月に、鉄道業界の労働者4万人以上が過去30年で最大規模となるストライキを実施した。日本でも円安が家計を直撃し、待遇改善を求める声は増える一方だが、ストライキのような労働組合による抗議活動はあまり見受けられない。
厚生労働省の労働争議統計調査(令和3年)によると、日本のストライキ件数は1974年の5197件から2021年には32件まで減少。日本の労働組合はなぜここまで力を失ってしまったのか。労働関係を研究する立教大学の首藤若菜教授に話を聞いた。
「日本の労働組合の特徴というのは争議に訴えるより、事前の協議で(要求を)詰めて、労働者の声を反映させようと動くのが日本の労働組合の特徴でもあると前提に考える必要があります」
日本の組合は団体交渉前に水面下で調整を行う“事前協議”形式が主流。労働争議が起こりにくいこの形式は、組合が企業の言いなりになっている、“御用組合”とも揶揄されるがそれについて首藤教授はこう語る。
「事前協議だとあたかも会社と癒着して言いなりになっているようにも見えるわけですよね。御用組合なのか、本当は労働者のための制度作りをやっているのか、ちゃんと見極めないといけないです」
高度経済成長期、日本でも多くの労働者たちが組合員として企業に激しく反発した。しかしその結果、企業も労働者も激しく疲弊。次第に企業と組合は事前に交渉を行い、互いに激しい労使紛争を回避するようになった。こうした経緯が、現在の労働組合の姿勢に影響していると首藤教授は指摘する。
「日本の労働組合が何を一番大事にしてきたかというと“雇用”なんです。雇用を守るためには他は妥協するからとにかく雇用を守ろうと。それがちょっと行きすぎているかなと。景気が厳しい中で雇用を守るために賃上げを我慢しないといけないと労働組合があまりにも物分かりよく引き受けてきた面があるのではと思います」
こうした経緯に加え、労働形態の多様化の影響も――。
「同じような仕事をして、同じような労働条件で同じような賃金をもらうことが“連帯意識を感じやすい”と思うんですね。正社員と非正規とかパートタイマーというように、労働者が多様化していくというようなことも、組合の組織率がなかなか上がらない要素の一つとして考えられると思います」
元々は同じ職場の仲間同士が団結して企業と戦う手段だった労働組合。これからの時代、労働者が企業と戦うにはどうすればいいのだろうか。
「労働組合は法的にも非常に強い権限を与えられているんですね。その上で必ずしも恵まれている労働条件の人ばかりでは全然ないわけです。そういった人たちの労働環境だとか条件を良くしていく、働く者がきちんと発言できるような場を確保していくことが重要だと思います」
これからの労働組合の存在意義について、ニュース番組『ABEMAヒルズ』のコメンテーターでキャスター取締役CROの石倉秀明氏は次のように見解を述べた。
「会社が労働者に不利益な環境を強いてないかなどを監視する役目は必要だが、それを労働者に押し付けるのは違う。変えるべきは労働者側ではなく、ちゃんと法律で取り締まること。法律違反ではない社内不倫とかはみんな騒ぐわりに、サービス残業は美徳に語られたりとか、職場の中の法律違反は厳密に取り締まる方が有効だと思う。労働組合に参加している人たちは法律の専門家でもないので、労働者だけに任せるのではなく、外部や専門家からの介入もあるべき」
(『ABEMAヒルズ』より)
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