VTuberへの誹謗中傷は「本人への名誉棄損」…人格権侵害になる判例も デジタル空間における法整備の重要性
【映像】アバターへの中傷が「中の人」の名誉毀損に?
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 アバターに扮して配信などを行う、いわゆる“VTuber”に対する誹謗中傷が増加している。顔や実名を隠したアバターへの誹謗中傷は、画面の向こう側にいる本人への名誉毀損となるのだろうか。

【映像】アバターへの中傷が「中の人」の名誉毀損に?(弁護士が解説)

 8月、VTuberグループ「にじさんじ」を運営するANYCOLERは、所属VTuberのアクシア・クローネさんが度重なる誹謗中傷などを理由に活動を休止することを発表した。

 アクシア・クローネさんはSNSのフォロワーが30万人を超える人気VTuber。しかし、人気の一方では度重なる誹謗中傷を受けていたという。

「2022年春頃より、SNS等においてアクシア・クローネに対する誹謗中傷、悪意に基づく虚偽の情報の流布、関わった他の弊社所属ライバーに対する誹謗中傷や危害予告がなされ、これが悪化・継続しておりました」

 本人からの要望もあり、事務所は活動休止を決断。現在は発信者の開示請求など、法的対処を開始している。自身の分身であるアバターで配信を行うバーチャルユーチューバー(VTuber)」。時に数千万円を稼ぐ人もいるなど勢いを増す一方、彼らに対する誹謗中傷が問題視されている。

VTuberへの誹謗中傷は「本人への名誉棄損」…人格権侵害になる判例も デジタル空間における法整備の重要性
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 こうした中、8月31日に大阪地裁で、VTuberへの誹謗中傷は「本人への名誉棄損にあたる」という判決が下された。原告はVTuberとして活動する女性。Twitterのフォロワーが100万人を超えるなど、人気を博す一方で「仕方ねぇよバカ女なんだから」「母親がいないせいで精神が未熟なんだろ」などと誹謗中傷されていた。

 アバターへの中傷で自身の名誉を傷つけられたとして、女性はプロバイダー側に対し、投稿者の個人情報の開示を求めて提訴。大阪地裁はプロバイダー側に開示を命じる判決を下した。

 女性の代理人である田中圭祐弁護士は、今回の判決に対し「今後も同じような判決がされるだろう」と分析する。

「昨年4月にも同じような判決が出ている。VTuberに対する人格権の侵害は、いわゆる“中の人”と呼ばれる方に対しての人格権侵害を構成するという東京地裁の判決が出ていた。そうした中で今回、大阪地裁でも同じような判決が下された。裁判例としては概ねその方向で、裁判所はVTuberに対する誹謗中傷を“中の人”個人に対する誹謗中傷と捉え、違法だと認定する一定の方向性が共通認識として生まれた」

 近年、急速な広がり見せているメタバース。VTuberのみならず、誰もがアバターを持つ“1人1アバター時代”がすぐそこまでやって来ている。こうした中で下された今回の判決は、今後のデジタル空間における法整備に重要な意味を持つのかもしれない。

「漫画やアニメに出てくるようなキャラクターに対する誹謗中傷は完全に架空のキャラクターに対しての誹謗中傷になるので、それで誰かの人格権を侵害するという構成は難しいと思う。しかし、VTuberの場合はアバターを介してその方の動きが反映されるので、より個人との結びつきが強い。そういう意味では認められて当然かなと」

VTuberへの誹謗中傷は「本人への名誉棄損」…人格権侵害になる判例も デジタル空間における法整備の重要性
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 このニュースについて、憲法学者としてAIのリスクを研究する慶應義塾大学大学院法務研究科の山本龍彦教授に話を聞いた。

――デジタル空間はいま、どのような状況にあるのでしょうか?

「実は我々はお金は払っていないけれど、我々のアテンション(時間や関心)を払っている状況にある。アテンションを得ることが死活問題になると、『この人はこれに関心がないだろうな』というものがフィルタリングされる。ろ過された情報の泡の中にそれぞれのユーザーが閉じ込められちゃう『フィルターバブル』という現象、あるいはバブルと同じようなコンテンツに囲まれて元々持っていた情報が極端化していく『エコーチェンバー』と呼ばれる問題も出てくる」
 

――法規制に至っていない部分もあると思いますが、日本の場合どのように進めていけば情報社会の中で健全に生きていけるのでしょうか?

「デジタル空間で情報を摂取することは食事に例えられる。では、食生活を健全にし、デジタル空間での健康をどう保つのか。私は3つ方向性があると思う。1つは、私たちが今どのような情報環境に置かれているかを知ること。例えばおすすめのシステム、あるいはロジックを透明化していく。『どのような理由で自分にはこのコンテンツが流れてくるのか』というロジックを知ることが重要だと思う。プロファイリングがかかっていないようなリコメンデーションシステムを提供する責務をプラットフォーム側に課していく。2つ目はそれぞれの情報とコンテンツに関するメタ情報をつけていくこと。法規制だと難しいかもしれないが、国家が『これに関与すると、これが健康だ』みたいなことを定義してしまうのは本当に危険。だから、こういった法規制よりも自主規制に馴染むかもしれない。3つ目は自分のデータに対するコントローラビリティを回復していくこと。情報を一方的に食べさせられる状況から抜け出すためには、ヨーロッパでいわれてる『情報自己決定権』を本人が取り戻すことが必要」

(『ABEMAヒルズ』より)

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