9月25日、名古屋のドルフィンズアリーナ(愛知県体育館)で今年のN―1優勝者・清宮海斗がGHCヘビー級王者・拳王に挑戦するが、その前哨戦が9月15日の後楽園ホール大会からスタートした。
前哨戦第1ラウンドのカードは拳王、船木誠勝、中嶋勝彦、征矢学の金剛と清宮、ジャック・モリス、マサ北宮、稲葉大樹による8人タッグマッチ。拳王vs清宮だけでなく、9・30新潟でナショナル王座戦が決定している王者・船木と北宮、9・19横浜ラジアントホールでの一騎打ちが決定している中嶋と稲葉の前哨戦でもあるだけに試合はスタートからヒートアップ。そして試合のクライマックスは、やはり拳王と清宮の激突になった。
先に仕掛けたのは拳王。15分過ぎ、清宮のシャイニング・ウィザードをブロックした拳王は、これ見よがしにシャイニング・ウィザードから武藤張りのプロレスLOVEポーズ! 7・16日本武道館で武藤からドラゴン・スクリュー、足4の字固め、シャイニング・ウィザードを譲渡された清宮に対する「物真似は誰にでもできるんだよ」というアピールだろう。そして7・16日本武道館で小島聡からGHCヘビー級王座を奪った新必殺技・炎輪(ムーンサルト式ダブルニードロップ)を狙ったが、これは清宮が回避。
その後、8人が入り乱れての乱戦になり、拳王と中嶋が前後からのミドルキック乱れ打ちで清宮をサンドバッグ状態に。それでも清宮の心は折れなかった。拳王の蹴暴をカウント2で返すと、続くPFSは下から突き上げるドロップキックで撃墜。その後、拳王のミドルキックと清宮のエルボー・スマッシュの応酬となり、清宮がジャンピング・ニー。そしてドラゴン・スクリューからシャイニング・ウィザード、背後から後頭部へのシャイニング・ウィザード、そして拳王の頭を両手で掴んでのオリジナルのシャイニング・ウィザード! アレンジを加えた清宮流の武藤殺法で拳王をキャンバスに沈めて前哨戦第1ラウンドを制した。
武藤に“三種の神器”を譲渡された当初は「武藤さんから学んだものを大事にしつつ、何かひとつ、自分にしかないものを作りたい、出していきたい」と敢えて武藤殺法を封印していた清宮だが、N-1でモリス、北宮に2連敗を喫して「もう、なりふり構っていられない」とアレンジを加えつつ武藤殺法を解禁。以後は中嶋、船木、岡田欣也、杉浦貴、小嶋に5連勝で優勝戦に進み、優勝戦では鈴木秀樹に変型シャイニング・ウィザードを炸裂させて優勝。今の清宮には迷いがない。だから試合後に「自分の試合については皆さん思うところあるかもしれないですけど、でも俺が使っているから、俺の技なんです」と胸を張った。
そして清宮は「拳王が巻いているベルトだから俺は欲しい。ずっと拳王とやってきて、離されてきているというのも感じるし、ノアに入った時から意識していた。壁になる時もあれば、組む時もあって、本当に意識している相手だからこそ、負けたくない」と言う。
振り返ると、清宮は常に拳王を追いかけながらプロレス人生を歩んできた。海外修行に出る前の17年3月から6月まで、強くなりたい一心で杉浦、拳王のもとで学んだ。同年6月25日のビッグパレット福島で、清宮の無期限海外修行壮行試合という形で拳王と清宮は初対決。拳王のダイビング・フットスタンプ(現在のPFS)に敗れた清宮は「帰ってきたら、全員ぶっ倒す」と悔しさを露にし、拳王は「あいつはさらにデッカクなってノアのリングに帰ってくるよ。そして、あいつがいない間に俺も成長してやる。このノアの顔になるのは清宮じゃねぇぞ。俺だ!」と、清宮に檄を飛ばしつつ、いずれ自分のライバルになることを示唆した。この時から2人のライバル・ストーリーは始まったのだ。
半年後の12月12日、後楽園ホールで拳王がエディ・エドワーズを撃破してGHCヘビー級王座初戴冠すると、そこに出現したのが清宮だ。「海外から帰ってきました。今の俺なら拳王さんに勝てると思う。俺に挑戦させてください」の言葉に「今いるノアの中途半端なレスラーより、てめえの目は本物だったぞ」と拳王は快諾。年明け18年1・6後楽園のGHC戦は拳王が右ハイキックでKO勝ち。この一戦を機に清宮は拳王&杉浦と決別した。
そして18年暮れの12・16横浜文化体育館で清宮がタイガー・スープレックスで時のGHCヘビー級王者・杉浦を撃破してキャリア3年、22歳4ヵ月のデビュー最短&史上最年少王者に。そこに「会社が描いた“清宮をノアの顔にする”という台本通りに進めて、どこに刺激あるんだ?」と挑戦の名乗りを上げたのが拳王だ。年明け19年1・6後楽園において清宮がタイガー・スープレックスで拳王から初勝利を挙げて初防衛に成功したが、拳王の“清宮をエースにしようという流れ”を察知し、それに抗うという姿勢は今も変わらない。
その後もGHC王者・清宮がN-1優勝者・拳王を撃破した19年11月2日の両国国技館、拳王がナショナル王座を防衛した20年11・22横浜武道館初進出、やはり拳王がナショナル王座を防衛した今年の元日の日本武道館など…両雄は常にノアの節目になる大会で激突してきた。
「プロレス界のスーパースター。武藤敬司が引退する。その武藤敬司の愛弟子として技まで託された。会社は武藤引退と同時にノアに新しいスターを作り出そうとしている…そんな会社が、そしてマスコミが思い描いている美しいストーリー通りに進んで刺激があるか!? 俺が壊して俺が描く。俺は美しいストーリーに乗らないぞ。ノアをもっと新しい、もっと上のステージに連れて行けるのは、今度のタイトルマッチで勝つ俺だ!」と反体制の姿勢で言い放つ王者・拳王。「歴史をつなげつつ、自分なりのモノをこの戦いで見せて、拳王が持っているメチャクチャ輝いているGHCのベルトを俺が巻きます」と、拳王超えの先に未来を見る清宮。今回の大一番は両雄の5年間のストーリーの集大成になる。
文/小佐野景浩