9割以上の企業が同族企業という“同族企業大国”日本。近年、後継者の不在が問題となる中、新たな形で会社を受け継ぐ「アトツギベンチャー」に注目が集まっている。
「会社を永続させるために、新たに挑戦することを『アトツギベンチャー』と定義している。若い世代に対して、中小企業の跡を継ぐことの見え方を変えていく目的がある」
こう話すのは、一般社団法人ベンチャー型事業承継の代表理事を務める山野千枝さんだ。
山野さんらが提唱する「アトツギベンチャー」とは、商売・事業などの何かしらの家業を“継ぐ”可能性を持つ人が自らのスキルと会社がもつ経営資源をかけ合わせ、新規事業や新市場開拓などの新たな領域に挑戦するプロジェクト。後継者の不在が問題となる中、ゼロから立ち上げる起業家でもなく、親と同じスタイルで家業を継ぐ後継者でもない「ハイブリッド型ベンチャー」として、今注目を集めている。
この団体ではワークショップや交流会など、アトツギベンチャーを志す若者を支援する活動を展開している。これまでに1000社近くと交流してきたという。
「たまたま生まれたのは金属加工の家やクリーニング店かもしれないけれど、個人としてすごく得意なことや興味のある領域を諦めない。そこと自分の家業の経営資源をかけ算して何ができるのかは、すごく重要なことだと思っている」
それでは、実際にどのような事例があるのだろうか。『ABEMAヒルズ』はアトツギベンチャーに挑戦した後継者を取材した。
株式会社ホリタの堀田敏史社長。福井県で70年以上続く「ホリタ文具」の3代目だ。今年3月、中小企業庁が主催する「アトツギ甲子園」で最優秀賞を受賞した、今注目のアトツギだ。
彼が行ったアトツギベンチャー。それは“文具店のテーマパーク化”だ。
「田舎の身近なディズニーランドをつくる。文化的・教育的な活動に通じるもの(文具)を扱っていて、大衆性があって、“ワクワク”を提供できるものは社会を変えられる」(堀田社長)
現在、ホリタ文具は福井県内に6店舗を展開している。「わくわくドキドキする文具店」をテーマにおしゃれな文具を多く取り扱うほか、店で教育に関するさまざまなイベントを開催。年間約70万人という来客数を誇っている。
大学卒業後は証券会社に勤めていた堀田社長。13年前、跡を継ぐため福井県に帰郷すると、次のような光景を目にしたそうだ。
「パソコンが会社に2台しかなかった。15人ぐらい働いていたが、納品書や請求書は全部手書き。めっちゃ大変だった。(当時の経営状況は)利益が出る・出ない以前の問題で、会社としての体をなしていなかった」
創業以来、小学校などに文具を販売するBtoBを生業としていたホリタ文具。そこから堀田社長は、小売中心のBtoCに舵を切る。時には従業員と衝突することもあったようだ。
「当時は、なんとなく働いているような人たちが多かった。ついてこれない子たちも出てきて、離職することがすごくあった」
しかし、儲けの少なかったBtoBをやめたことで利益が増加した。堀田社長は証券会社で培った営業力を活かし、取引先を増やしていく。また老舗文具店という信頼感もあり、徐々に客足も伸びるようになった。
「ベンチャー企業として『エンターテインメント文房具屋やります』と言っても、多分誰もついてこないと思うが、ホリタ文具がやっていることに対して応援してくださる方たちがすごく多かった。そういったところはありがたい」
イノベーションを起こすことで、地方の活性化に貢献する。これもアトツギベンチャーの大きな特徴だ。
「福井の人に、『福井には“ホリタ文具”というめちゃくちゃユニークでワクワクするお店があるのが誇りだ』と言われるぐらいまでにならないとなと思っている」
しかし、新たな事業を行うのは並大抵のことではない。継ぐ側、そして継がせる側の両方が覚悟をもつことが重要だという。
「親がなかなか権限を譲ってくれなかったり、『うちの息子は……』と言ったりしている中小企業の人たちがかなり多い。先代の社長には任せる覚悟がいると思うし、受け継ぐ側は全部自分の責任で受け取る覚悟がいる」
日本経済を救う切り札になるかもしれないアトツギベンチャー。今後も山野さんたちは「支援を続けていきたい」と話す。
「すでに船にたくさんの船員が乗っていて、何なら船長も乗っているところに『次の船長です』と乗りこむ。“30年のギャップ”を持っている人たちを新しい方向に導いていくのはすごく苦労するが、そこを頑張ってやり遂げたところがアトツギベンチャーになっていく。アトツギベンチャーが1つの日本のセクター、産業の1つのジャンルになっていくことが私たちの目指すところでもある」
(『ABEMAヒルズ』より)
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