4日、ロシア上院はウクライナの4州を併合するための条約を全会一致で承認。今後、プーチン大統領が署名し、10日以内に各地域のトップを任命するとみられている。これは、予定通りなのか、焦りからか。
9月21日にプーチン大統領が「部分的動員令」を発令したことにより、ロシア国内では抗議するデモが発生。CNNによると、動員令を避けるため20万人以上が出国したという。
一方、ウクライナは1日、東部ドネツク州の要衝リマンをウクライナ軍が奪還に成功と発表した。その翌日には南部へルソン州にある2つの集落とドネツク州の村を解放したとゼレンスキー大統領が発表した。
ロシア国内外からの強い反発、そして戦況の悪化と窮地に立たされるプーチン大統領。9月には「我が国もさまざまな兵器をもっており、NATOより新型のものもある。領土が脅かされることがあれば、国民を守るため、あらゆる手段を駆使する。これはハッタリではない」と“禁じ手”ともいえる「核兵器」の使用も示唆している。
はたして今後、核兵器が使われる可能性はあるのか。そして、発言の裏にあるプーチン大統領の思惑は何なのだろうか。
ニュース番組『ABEMAヒルズ』は、緊迫する、ウクライナ情勢の今後についてロシア等の安全保障を研究している東京大学 先端科学技術研究センターの専任講師・小泉悠氏に話を聞いた。
――プーチン大統領は追い詰められている?
「多分、そこまで追い詰められていない。確かに、いまロシアで動員に対する忌避が広がっているが、みんなで立ち上がって『プーチン政権を倒してやろう』みたいな話がロシア社会でものすごく盛り上がっているかというとそういう感じもしない。ウクライナに対して戦争を仕掛けていることが許しがたいという気持ちが広がっているかというとそういうわけでもない。自分や自分たちの家族が戦場に送られることが嫌で逃げ回っているのが現状だと思う」
「また、デモも起きているが、プーチン大統領は過去に大きなデモも粉砕してきた。プーチン大統領の足元が揺らいでいるのは間違いないが、今すぐにでもプーチン権力が瓦解していく感じはしない」
――ロシア国民の感情としては、プーチン大統領から他の人に代わって欲しいという気持ちはない?
「結局、ロシア国民はこの22年間プーチン政権でないロシアを見たことがない。22年の間に4年だけメドベージェフ政権を挟んだが、メドベージェフもプーチンの子分だということはロシア人の中では共通認識なので22年間プーチン政権だった。しかも、プーチン政権は割と安定していた。経済も良くなり、年金も出て、市役所もきちんと仕事をしてくれる22年間だった。プーチンの前のエリツィン政権は、経済が滅茶苦茶だった。生活に苦労した10年間だったイメージがあるので、いまさらプーチンではないロシアというのが、ロシア国民は想像できなくなっている。今のままじゃいけない、変えなきゃいけないという気持ちを持っている人は少なくないが、具体的にどんなロシアに変えるのか、プーチンでなければ誰なんだとか、具体的に思い描けずにいる」
――9月に入ってからウクライナ軍によるロシア軍占領地の奪還が加速していることについて
「こっちのほうがプーチン大統領としては、肝を冷やしているのではないか。8月までは、ロシア軍は苦戦していたが、主導権を握っていた。しかし、9月に入ってからウクライナ軍は、ハルキウ周辺で大反抗作戦始めて、イジュームをとって、リマンをとって、次々と要衝を落としていった。そして、ハルキウ州は完全に奪還した。また、ヘルソン州でも大反抗作戦をしているので、このままでいくとロシア軍が今の占領地域を維持できるか、軍事的に怪しくなってきた」
――戦況が悪くなるロシア。プーチン大統領が核使用に踏み込む可能性はあるか
「ロシアは世界最大の核保有国で、実際に戦争に負けそうになったときに先に核を使うことによって停戦を強要するという軍事思想は、ロシアの中にずっとある。今ロシアが戦争に負け始めているという事態で、プーチン政権が、戦争に負けたことがないがないことを踏まえると、核使用のことをこれまで以上に心配しなければいけない局面であることは間違いない。ただ、例え限定的に使ったとしても1回でも核を使ったあとに、アメリカがどう反応するかというのは、ロシアは分からない。ということを考えると、私がロシア大統領や、参謀総長だったら『負けそうだから核使っちゃえ』とは、普通は言いにくいと思う。ですが、これも最後はプーチン大統領の頭の中なので、絶対使わないとも言いがたい」
――ロシアがウクライナとの戦争に負ける可能性について
「今のまま大きく大勢が変わらない場合、ロシアは戦争目的を達成できない可能性が高い。ロシアの戦争目的とは、非ナチス化(プーチン大統領は、ウクライナ政権をナチスだと言っている)、中立化や非武装化など、ウクライナをロシアに逆らえない属国にすること。現状でいうと、明らかに目標を達成できないままどこかでロシア軍を退却させるなどの決断をしなくてはいけない可能性が非常に高まっている。だから動員をかけるとか、核を使うという話をしている。動員もあまりうまくいっておらず、核も気軽には使えるかわからない。戦争目的を達成できなかったらプーチン大統領は政権を保てるのかということを考えなくてはいけなくなる」
――プーチン大統領の性格や傾向から核兵器の使用はありえるか
「プーチン大統領は、自分の権力をすごく気にするリーダー。一旦、権力から引きずりおらされたら、もう絶対安穏な引退生活が送れないということは分かっていると思うので、何が何でもメンツや権力を維持しようとする。そういう意味でこの戦争では、政治的に負けられない。だから核を使用してでも戦争に勝とうとするのは、可能性としてあると思う。ウクライナ軍の部隊が集中している場所に戦術核を叩き込むとか、黒海の海上で威嚇のために爆破させるのは、どういう反応が返ってくるか分からないので危ないと思うが、これから秋になってロシア軍の核ミサイル部隊の大演習が通例であれば始まる。核爆発を伴う訓練をロシア領内でやってみせるという可能性はなくはない」
――ロシア国内のプーチン大統領支持率77%と高い状態が続いているが、これから支持率が下がる可能性はあるか
「まだ、動員が始まって2週間ぐらい。しかし、もう戦場に投入されちゃっている人がたくさんいる。ということはろくな訓練も受けずに戦場で亡くなっている人がたくさんいるということなので、これから彼らの遺体が続々と帰ってくる。そのときロシア人がどういう反応を示すのか。アフガニスタン戦争のときは10年で1万5000人亡くなって、かなりソ連国民の反発を生んだ。今回の戦争は、たった7カ月の戦争でその倍くらい亡くなっているので、ロシア国民の強い反発に繋がると思う。だが、プーチン大統領の権力を掘り崩すまでにはいかないと思う」
――きのうは北朝鮮のミサイルが5年ぶりに日本上空を通過した。この5年で変わったのはロシアのあり方。俯瞰でパワーバランスをどう見る?
「ロシアは西側から孤立が進み、北朝鮮もアメリカとの対話が停滞している。北朝鮮は今回、ロシアの4州併合を支持するとはっきり言っている。以前よりも互いを必要とし合うようになっている感じはある。北朝鮮が今だったらロシアの後ろ盾を得られると思って、さらなるミサイル実験に走ったり、7回目の核実験に及ぶ可能性もある。ロシア情勢が我々の生きている東アジアに直に波及している恐れがある。こういう意味でも今回の戦争は注視していかないといけない」
(『ABEMAヒルズ』より)
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