1日20~30回もトイレに…過敏性腸症候群の当事者が語る苦悩 乙武洋匡「漏らしたことのある人間としては、周りも本人も寛容に思ってほしい」
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 今月、YouTuberのあんずさん(22)が「過敏性腸症候群(IBS)」を告白した記事が話題になった。症状に苦しむのは10人に1人とされ、慢性的な腹痛のほか、下痢や便秘、おならが頻繁に出るのが特徴で、不規則な生活やストレスなどが原因で起きる。

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 あんずさんは、10年以上も苦しんだ症状のほか、周囲からの“ただの腹痛”という誤解による態度によって、精神的にも追い詰められたことを赤裸々に告白。ネット上では「私も苦しんだ。この病気が認知され、理解がもっと広がって欲しい」と多くの人の共感を呼んだ。

■勤務中に漏らしてしまった人、周囲の発言で不眠症になった人も

 この病気と15年以上向き合うのが、30代の山田けんじさん(仮名)。中学生の時に友達づくりがうまくいかず、ストレスで発症した。「常におなかにガスが溜まっている状態で、おならをしたくなってしまう。急に便意をもよおす時もある」。

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 平均で1日10回はトイレに行くそうで、特に苦痛に感じるのは通勤での電車移動だという。「どうしても狭い空間、密室で逃げられない空間になると、不安になってしまう」。目的地の手前で下車して、トイレに駆け込み、会社に遅刻してしまうこともしばしば。

 また、勤務中に漏らしてしまった経験もあるという。「すぐトイレに行って、人に見えないように下着を洗った。臭いとかでバレないように…」。

 周囲の理解のなさから苦しめられた人もいる。専門学生1年の田中良さん(仮名)は、高校生の時に発症。主に便秘の症状が出るという。「学校にいる時はおなかにガスがたまるというか、おなかがポコポコ鳴ったりおならみたいな音が出て、くすくす笑われたりひそひそ話が聞こえたり。すれ違う時に『臭い』と言われたのが本当に頭から離れない」。

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 そのショックから不眠症も患い、薬がないと寝られない状態にまで追い詰められた。そんな彼が今悩んでいるのが、就職への不安だ。「デスクワークだと周りに迷惑なんじゃないかと。在宅や1人でできる仕事がないかと探している」。

■1日20~30回もトイレに 「“その場所から逃げられない”という時に症状が」

 48年もおならや下痢に悩まされ、1日に20~30回はトイレに行くというぎゅる社長さん。「中学1年の時、同級生との事故で私の目が傷ついてしまった日を境に、教室に座っていると同級生の目が全部こちらに向いているように感じて、その瞬間から腹痛が始まった。それから毎日のように、1時間目のチャイムがなると“そこにいなきゃいけない”という感覚にとらわれた。ストレスかどうかわからないが、私の場合は過緊張が原因だったかもしれない」と話す。

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 それ以降、どういう時に症状が出てきたのか。「受験、社会人になると就職の試験、会社に入ると会議だ。“その場所から逃げられない”という時に症状が出る。電車も各停ならまだ乗れるが、快速はなかなか乗れない。各停に乗ったとしても、万が一事故があったり故障があって電車が止まってしまうんじゃないという不安感があるとおなかが痛くなる」。

 いつでもトイレにいけるという安心感があると症状は違うと話し、「例えばキャンピングカーみたいにトイレが付いているとなんとかなる。バスもトイレが付いていたら移動できるかな、という感じ」だという。

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 様々な薬を試してきたが、年を重ねるごとに症状は悪化しているという。「48年間、事あるごとに薬を変えてきたし、一般的な過敏性腸症候群用の薬は全て飲んだが、なかなか自分に合うものがない。原因がはっきりしていたら根治、または改善したのかもしれないが、どれにも当てはまらないという状況だ」。

■医師「◯◯病ではなく症候群。人によって原因はさまざま」

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 「過敏性腸症候群(IBS)」のメカニズムについて、内科医でナビタスクリニックの久住英二氏は「いろいろな要因が症状を起こすことはわかっているが、千差万別。ストレスからおなかの調子が崩れるといった、脳が腸に影響している場合もあるし、逆に腸から脳へのストレスで症状が出る人もいる。これは症候群であって、つまり〇〇病ではなく、症状を呈する一群のものであり、原因は人によって全然違う。画一的に“これをやったら治る”というものではないので、いい解決法に巡り合えずに苦しんいる方も多い」と説明。

 治療法については、すぐに解決できるものではなく、付き合っていく必要があると話す。

 「代表的なのは、水溶性の食物繊維の錠剤を飲むとか、胃腸の動きを抑える薬を使うとか、食事で気をつけていただく。例えば、脂肪分の多いものは控えましょうとか、食物繊維を摂りましょう、といったことだ。特効薬がないので、医療者としても“今どんな具合? どうしたらいい?”という話を聞きながら付き合っていく。“名医にズバッと治してもらいたい”という気持ちもあると思うが、かかりつけの町医者と付き合っていき、様子を見ながら少しずつやり方を変えていく。そうしているうちに環境が変わって治っていく方もいる」

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 カウンセリングも有効なのか。「本人がやる気になって、カウンセラーと向き合おうと思わなければうまくいかない」とする一方で、「我々が病気として対処すべきかどうかを判断する基準は、その方の社会生活に支障をきたす原因になっているかどうか。『ちょっとお腹が緩いけど、困ってはいない』という方はいいが、会社に行けないとか、学校に遅刻してしまうということがあれば対処する。ただ、お医者さんに行ったけど、あまり親身に相談に乗ってもらえなかったことで傷ついてしまって、“相談しても無駄だな”と思う場合もある。なので、『今日はちょっとお腹が緩いんですけど、どのお薬飲んだらいいですか?』『じゃあこれを飲んでおいて』とLINEでやりとりするような、症状に対して簡単にアドバイスができればもっとコントロールが容易になる」との見方を示した。

■乙武洋匡「漏らしたことのある人間としては、周りも本人も寛容に思ってほしい」

 作家の乙武洋匡氏は自身の体験を踏まえ、次のように訴えた。

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 「僕をメディアで見て、『ケアなしでいろいろできてるじゃん』と思うかもしれないが、日常生活で一番困っていることはトイレだ。ズボンとパンツに手が届かないので、誰かの介助が必要になる。スタッフや友人と一緒に動いている時間帯はまだ安心できるが、今一人暮らしをしている中で、夜中は12時間1人でいることも多い。また、誰かと行動していても、トイレの世話を頼めるような関係性かどうかもある。そこまで関係性がない方との会食が3時間ある時、途中でトイレに行きたくなったらどうしようという不安があるので、もよおしてしまう方の苦悩は本当に他人事ではない。

 マネージャーがつく前の学生の頃は、1人で買い物に行って車椅子で帰る途中、間に合わなくてうんちを漏らしていた。恥ずかしかった。一番かっこつけたい20歳前後の年頃で。でも、人生終わらなかったし、選挙も出た。負けたけど(笑)。それでも、なんとかなるので、うんちを漏らしても“そういう日もあるよね”“大したことじゃないよ”と、周りも本人も寛容に思ってほしい。難しいけど、漏らしたことのある人間としてはそう思う」

(『ABEMA Prime』より)

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