「当店の麦味噌が『味噌』と名乗れなくなりそうです。当店は創業昭和33年、当時から製法は変えておりません」(井伊商店のTwitterより)
【映像】実際の「宇和島麦みそ」パッケージ裏側の原材料名表示(画像あり)
愛媛県宇和島市にある老舗麦味噌メーカー「井伊商店」のツイートに注目が集まっている。「麦味噌」とは、麦と塩だけで作る伝統食品で、昔から宇和島の人々に家庭の味として長く愛され続けている。店では創業から製法を変えず伝統の味を守ってきたが、突然、保健所から指導が入ったという。
井伊商店の「麦味噌」には大豆が使われていない。宇和島保健所は「原材料に大豆が含まれない麦味噌は麦味噌と表示できない」「パッケージにも味噌の2文字は使用できない」と指摘。
食品表示基準では、麦味噌は「大豆を蒸煮したものに麦こうじを加えたものに食塩を混合したもの」と規定されている。つまり、麦と塩だけで作る井伊商店の「麦味噌」は、大豆を使っていないため味噌と認められないという。
この指摘を受け、井伊商店側は「これでは伝統製法がとだえてしまう。特産品として麦味噌を残してほしい」と、愛媛県に要望書を提出した。
こうした例は、何も麦味噌に限った話ではない。八丁味噌やしょうゆ、マヨネーズといった調味料に加え、そうめんにも類似の問題が起きている。
「ABEMA Prime」では、このニュースを紹介。伝統製法の特産品と、食品規定の折り合いについて、当事者となった井伊商店の店主と共に考えた。
今年8月、宇和島保健所が井伊商店を訪れたとき、どのようなやり取りがあったのか。井伊商店の三代目店主、井伊友博氏は「本当にびっくりした」と振り返る。
「うちは昭和33年創業で、それからずっと今まで、この8月25日まで普通に何も言われることもなくずっとやってきた。その間、保健所も中に何か添加物が入っていないかどうか、商品の検査に来た。『100グラムくらいちょうだい』と言われるので、包装でお渡しして、検査される。パッケージにも麦と塩しか書いていない。それをずっと60年以上もやってきた。8月に急に言われて『えっ?』と思った。憤りを通り越して、寂しくなった」
パッケージ裏面の品名欄だけでなく、表面でも味噌と表示してはいけないといいう。宇和島保健所は「麦味噌“風”発酵調味料なら食品表示法違反にならない」と主張している。
製造方法を変えることも考えているのだろうか。井伊氏は「考えていない。そもそも、大豆アレルギーのお客さんがいる。保健所の方に『大豆を一粒入れればいい』と言われたときはめちゃくちゃカチンと来た」と答える。
「今回うちを含めて3社、指導文書が手交されたが『11月11日までに改善報告書を提出しろ』と言われている。みんなうちより古くから作っている。大正7年からやっているところもあって、その会社も『こんなことは初めて』と言っていた。みんな納得いかない。市役所の商工観光課という、宇和島の特産品を日本中に売り出せるような課があって、そこに相談したが『うちでもどうしようもない。県に言ったほうがいい』ということで、要望書を郵送した」
消費者庁表示対策課に取材したところ、味噌と表示できるかどうかは「議論が必要」との返答があった。迫る期限に、井伊氏は「日も日なので、難しいと思う。向こうが納得いく形で改善報告書を出そうと考えている。パッケージは変える方向だ」と述べる。
井伊氏の説明に、ネット掲示板「2ちゃんねる」創設者のひろゆき氏は「間違えているのは消費者庁側ではないか。井伊さんは60年前から作っていた。大正から作っていた他の会社もある。どう考えても、消費者庁側が間違っている。改善する側を間違えていないか」と指摘する。
井伊氏は「僕もそう思う」と同意した上で「うちは家族3人でやっている小さいお店で『提出期限を守らないと公表する』といわれた。公表されても、うちは間違っているつもりはないから『別にいい』と思っているが、公表されて、それでも守らない場合は『罰則金』と言われた。罰則金を払っても『今のままいけるわけでもない』とも言われた」と明かす。
ひろゆき氏は「では罰則金は僕が払う。大した金額ではない」と名乗り出ると「消費者庁が間違っているのに、大正から作っている人たちが間違っているものに従わなければいけないのはおかしい」と改めて疑問を投げかけた。
「大豆アレルギーの人が味噌汁を永遠に食べられなくなる。味噌ではない何かで作った汁になってしまう。今だとまだ大豆アレルギーの人でも味噌汁が飲める防衛ラインを、宇和島の麦味噌の人たちが守っている。これにもちゃんと気付いていただきたい」
「麹の学校」代表で麹文化研究家・アーティストの、なかじ氏は「味噌はもともと地域によってすごく原料がバラエティーに富んでいる」と話す。
「これまでは日本で規格を決めてこなかった。他にも沖縄のソテツの味噌などがあるが、9割方が大豆を使う。麦味噌は九州や四国、中国地方の一部など、暖かいところで使われる。他の地域だと大豆を入れた麦味噌が多いので、宇和島だけが特異的に珍しくて、地域の文化として長年続いてきた。規格を決めた農水省や関係者の人たちの間の中で『日本国内に大豆を使わない味噌がある』という認識が漏れたことが原因ではないか」
物議を醸している宇和島麦味噌の表示問題。行政側がどのような対応をするのか、今後の動きに注目が集まっている。(「ABEMA Prime」より)
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