今月1日、人気声優が遺伝性疾患「エーラス・ダンロス症候群」であると公表した。聞きなれない病名だが、国に難病指定された遺伝性の疾患だ。一体どのような病気なのか。
【映像】ぐにーっと曲がる関節…「エーラス・ダンロス症候群」よしえさんの指(画像あり)
難病情報センターによると、エーラス・ダンロス症候群は、皮膚や関節、血管など、さまざまな組織が脆弱になっていく病気で、肩や膝などが脱臼しやすくなったり、皮膚が裂けやすくなったり、動脈乖離や動脈瘤など血管や内臓に障害が出るなどの症状がある。
「関節型」「血管型」「皮膚脆弱型」など13種類に分かれ、治療は症状を緩和する対症療法が中心になるというエーラス・ダンロス症候群。ニュース番組「ABEMA Prime」では、専門家と当時者に話を聞いた。
エーラス・ダンロス症候群研究の第一人者で、信州大学医学部附属病院遺伝子医療研究センター長の古庄知己氏は「5000人に1人くらいいる、珍しくはない病気だ」と話す。
「皮膚が伸びやすい、あるいは関節がよく動きすぎる病気だ。加えて、身体のいろいろな組織が弱いのも特徴だ。現在、13もの病型がある。病型によって原因の遺伝子も異なり、遺伝形式も違う。例えば、内出血しやすかったり、軽く当たっただけで裂けたりする人もいる。『皮膚の伸びやすさ』は、どちらかというと、診断のためのきっかけみたいなものとして受け止めていただきたい」
エーラス・ダンロス症候群の原因遺伝子について、関節型に関してはいまだに分かっていない。古庄氏は「なかなか診断が難しい病型だが、幼い頃から関節が柔らかい特徴がある。柔らかいだけでは困らないと思うが、だんだん痛みが出てきたり、脱臼をしやすかったりすると、本人たちの苦痛になってくる。多くの場合、負荷のかかる活動によって生じやすいことが分かっている。当然、そういったことは控えていただいた方がいい」と説明する。
エーラス・ダンロス症候群(関節型)と診断された、よしえさんは「遺伝性疾患は本人だけではなく、家族も巻き込む」と話す。
「私の子どももエーラス・ダンロス症候群だから、結婚するときに困ると思う。私の症状は軽いが、指に装具をつけたり、薬を飲んだりしている。装具を外しても痛みはないが、指が反っている状態でエレベーターのボタンをグッと押すと痛い。職場にもエーラス・ダンロス症候群のことは伝えている」
よしえさんは、指だけでなく肘も膝も柔らかく、症状は「小さいときからだ」という。
「五体満足なので、なかなか外見からは理解されにくい。できないこともあるが、障害者でもやれることはたくさんある。『何もできない』と周りが決めつけないでほしい」
エーラス・ダンロス症候群(血管型)のひろしさんは「47歳の時に動脈乖離を発症した。調べたら、エーラス・ダンロス症候群の血管型だと分かった」と明かす。
「病気が分かって以降は車の運転をやめたり、仕事に行くときも始発電車に乗って密を避けたり、そういった生活を続けている。このコロナ禍で幸い、リモートワークができるようになったので、今はありがたい状況になっている。私の場合は症状がかなり軽いので、職場にはまだ明かしていない。朝に血圧と体温を測って、人混みを避ける生活をする。発症してから、コロナ禍でみなさんが生活されているのと同じような状態をずっと続けている」
生まれたとき、先天性の股関節脱臼を発症していたひろしさん。12歳ぐらいまで、ずっと整形外科に通っていたという。47歳になるまで、大きな病気を発症せず、自身がエーラス・ダンロス症候群だと全く気づかなかった。
「私は今50代だが、40〜50年前にエーラス・ダンロス症候群という病気が知られていたかというと、おそらく医療関係者もほとんど知らない状況だったと思う」
エーラス・ダンロス症候群は、医師でも診断が難しい病気なのだろうか。古庄氏は「血管型の診断は難しい」と明かす。
「ひろしさんの場合、先天性の股関節脱臼という目立つものがあったが、生まれつき症状がある人はほとんどいない。内出血が多いだけの人がほとんどだ。10代後半になって『気胸を起こしやすい』などの症状が出てきて、深刻な動脈の合併症を起こすのは20代以降であることが多い。動脈や腸の破裂が起こって、初めて判別される」
早期発見のためには何が必要なのだろうか。
「内出血が多いだけだと、なかなか病院には行かない。ただ、今は遺伝子検査ができるようになった。誰かが疑って、血管型のエーラス・ダンロスの可能性を判別してくれれば、遺伝子検査で診断ができる」
古典型や類古典型など、分類が13種類もあるエーラス・ダンロス症候群。古典型と類古典型は全く違うものなのだろうか。古庄氏は「言葉は似ているが、まず原因の遺伝子が違う」という。
「古典型は親から子に半分の確率で伝わるが、類古典型は兄弟に出やすい傾向がある。症状も原因遺伝子によって、違ってくる。気をつけるべき健康上のアドバイスが、それぞれ変わってくる」
可動範囲が広い分、バレエや水泳で成績が出やすいのか。
「可能性はある。たくさんの患者さんに出会っていると、痛みがなく、体がやわらかくなる時期に普通にスポーツをやっていて、それがアドバンテージだった人もいる。ただ、痛みや不具合が出てくると病名をつけないと、その人が生きにくくなることもある」
指定難病であるエーラス・ダンロス症候群。古庄氏は「制度がなかなか今の患者さんたちを受け入れられていない」と警鐘を鳴らす。
「指定難病の制度はまず、診断が確実であることが大事になる。それから重症度だ。常に濃厚な医療を受けていることで、ようやく認められる。指定難病は今、厳しい立て付けになっていて、新しい分類にまだ追いついていない部分もある。まずはこのような病気があることを知っていただき、同じ病気でも多様であること。それからもし身の回りの人が打ち明けてくれたら、しっかり聞いて寄り添っていくこと。これによって社会が豊かにやさしくなってほしい」
(「ABEMA Prime」より)
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