将棋界屈指、親子のような絆を見せる仲良し師弟が“親離れ・子離れ”を決心した。8組の師弟により“最強の師弟”を決める超早指し戦「ABEMA師弟トーナメント2022」が、11月19日から放送開始となる。昨年は決勝戦で敗れ、惜しくも準優勝となった鈴木大介九段(48)と梶浦宏孝七段(27)のチーム鈴木。今期のテーマには親離れ・子離れを掲げ、同じ道を歩む“同士”として挑む第2回大会。目指すはもちろん頂点だ。
昨年の決勝カードは、畠山鎮八段(53)と斎藤慎太郎八段(29)によるチーム畠山との一騎打ちに。スコア2-2からフルセットにもつれ込み、最終局は梶浦七段が担った。しかし必勝とも言える局面から、まさかのトン死で痛恨の逆転負け。「自分の責任」と肩を落とした弟子に、鈴木九段は「将棋でガッツは1%しか意味ないんだけど、最後に勝負を分けるのはその1%。結局人間同士だから、技術だけじゃない。人間力がでかいね」と語りかけ、ファンからも大きな反響を呼んだ。
あと一歩で逃した初代チャンピオンの称号。「最後の一手まで自分自身は優勝できると思っていたが、畠山師匠のガッツにやられた」、と終局後には2人で焼肉屋に足を運んだという。「優勝したらまた同じ焼肉屋に行く約束をしている。前回は残念会だったので、今度は祝勝会で」。ほろ苦い乾杯となったが、愛弟子との共闘は嬉しい相乗効果を呼び、昨秋から年始にかけて7連勝を飾るなど自身の公式戦成績も上向いたという。「また落ちてきてしまったので、この師弟トーナメントで勝率アップできればいいかなと思っています」と豪快に笑った。
必勝を掲げて挑む今期、鈴木九段は大きな変化を決断した。テーマは“親離れ・子離れ”。「他の師弟を見て、過保護すぎたかなと思うんです。彼も結婚しましたし、もう高段者。ここ1年はなるべく口出しせず、困って頼られたら一言二言、言うくらいの距離感の方がいいのかなと感じたところです。いままでの関係で言うと、一番将棋のことを意識的に話さなかった1年だったと思います」。家庭を持ち一家の大黒柱となった梶浦七段も、日本将棋連盟理事として全国を飛び回る生活を送る師匠も思いはその背中から必ず伝わっているはずだ。
仲良し師弟から、同じ志を掲げ歩む“同士”へ。最強タッグへとアップデートされたチーム鈴木が注目するのは、新しく参戦する最強五冠王・藤井聡太竜王(王位、叡王、王将、棋聖、20)と師匠・杉本昌隆八段(54)のチーム杉本だ。「前年大会の時からできるだけ弟子にトップ棋士と指させたいと思っているんですけど、自分が藤井さんとやってみたいという願望を抑えきれないです」。
公式戦で1度対戦があるものの、「いわゆる“藤井曲線”に入って、右肩上がりに一直線に負けてしまった。思った以上に抵抗ができなかった」という。最近、AIを導入したという鈴木九段。「序盤では成果が出ている。ストックが出来て戦法の幅が広がったかなと思います2、3やってみたい形があります」と手ごたえを口にする。「腕試しとは言いたくないんですけど、自分もこの世界に入って将棋だけで40年。自分の極めた将棋道がどこまで通用するのかというのを、第一人者の藤井さんに試してみたい」と口を真一文字に結び強い想いを込めた。
それでは、弟子の“経験値アップ”は?「もちろん弟子にも挑戦してほしいです!でも、私も棋士人生あとどれくらいあるかわからないので、そこはちょっと弟子に事情を説明して……(笑)」。親離れ・子離れを経て、新たに結ばれた強い絆。“シン・チーム鈴木”が勝利の美酒を酌み交わす日は、もう近くまで迫っている。
◆ABEMA師弟トーナメント 日本将棋連盟会長・佐藤康光九段の着想から生まれた大会。8組の師弟が予選でA、Bの2リーグに分かれてトーナメントを実施。2勝すれば勝ち抜け、2敗すれば敗退の変則で、2連勝なら1位通過、2勝1敗が2位通過となり、本戦トーナメントに進出する。対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで、チームの対戦は予選、本戦通じて全て3本先取の5本勝負で行われる。第4局までは、どちらか一方の棋士が3局目を指すことはできない。
(ABEMA/将棋チャンネルより)