日本フライ級のトップランナー・若松佑弥が8カ月ぶりの試合を迎える。11月19日のONE Championship「ONE163」シンガポール大会。韓国のウ・ソンフンとの対戦だ。前回は3月にONEフライ級世界王座に挑戦。アドリアーノ・モラエスに一本負けを喫している。
9月の再起戦は、対戦相手の体重オーバーで流れてしまう。さぞかし鬱憤がたまっているだろうと思いきや、若松自身は切り替えができているようだ。肉体的にも精神的にも一度リセット。流れた試合も勝ったと思っている。
「僕は相手が何kgオーバーでもやりたかった。でも相手がやれないと言うならそれまでです。結局、前提としてビビってるから体重を落とせないし、試合ができないんだと思います。 自分に打ち克って、体重を落として万全のコンディションで試合に出る。その全体、日々の練習から闘いなので。それができないということは己に負けてるということ。その時点で弱いんです」
そんな若松は、タイトルマッチでの敗北について「単純に僕のほうが弱かった。心技体の心が足りなかったです」と言う。
「ミスをしてはいけないと、気持ちが守りに入ってました。持っているカードを出せなかった。自分に自信がなかったですね」
なぜそうなったのか。「MMAができるようになった」からだと若松。もともと、彼はアグレッシブなストライカーだ。「相手を叩きのめすスタイル」だったと本人も言う。
「パンクラスに出ていた頃はパンチしか使ってなかったですね。よくあれで勝ててたなと思います。でも、それが相手にとって脅威だった」
逆に最近はうまくなった分、リスクにも敏感に。技術は上がったが“攻める怖さ”を知った。ヘタだから強いということもあるのが格闘技の面白さ、難しさだ。
「うまくなったところで落とし穴がありました。でも今は一周して、一皮むけたかなと」
■「武士道を体現したい。日本人の強さを見せたい」
MMAとしてのトータルな闘いという軸ができ、その上で自分らしさを発揮する。ファイターとしての段階が一つ上がったということだ。今回の試合も、単に勝つだけではいけないと考えている。
「勝つだけだったら簡単だと思うんですよ。ゲームとしての試合に勝つなら。でも相手を倒したい、斬りたいです。(ONEのCEOである)チャトリも言ってるように武士道を体現したいです、日本人の強さを見せたい。1秒でも早く相手を失神させるか“まいった”させたい」
格闘技は修行だと若松。毎日の練習の中で精神も鍛え上げてきた。
「毎日、自問自答しながらキツい練習をしてきました。練習はキツくなってからが勝負だと」
日々、自分の限界を超える。昨日の自分を超える。そうして強くなってきたという自負が若松にはある。強くなろうとし続けなければ強くなれない、とも考えている。
「人間はもともと弱いと思うんです。だから強くなろうとしなくては。野生動物と違って知能がありますから。強くなろうとしないと、どんどん甘えてしまうのが人間。でも健康に生まれてきて、頑張ることができるので。それができない人だっているんですから。頑張らないと」
再度のタイトル挑戦まで3つ勝てと言われたら勝つだけ。目の前の相手を倒すと誓う若松。その闘いには彼の生き方そのものが詰まっている。
文/橋本宗洋