ドラマ『北の国から』で知られる北海道富良野市が揺れている。富良野市とのコラボレーションで製作されたアニメ『邪神ちゃんドロップキックX』の富良野編をめぐり、作中に「社会通念上許されない表現」があったと、市議会で問題視されているのだ。
『邪神ちゃんドロップキックX』は、女子大生の花園ゆりねと、下半身が蛇のギャル悪魔・邪神(じゃしん)ちゃんの同居生活をブラックな笑いで描いた作品。2021年9月に富良野市議会の承認を受けて、ふるさと納税で3300万円を集め、市が制作会社に委託し、22年8月に放送された。しかし11月15日、市議会の決算審査特別委員会が、予算の使い方が不適切だったとして不認定にした。
「社会通念上、許されない『臓器売買』の表現があるということに対して、市が何の問題も抱かず、そのままOKを出したことに問題がある」(富良野市議会議員・佐藤秀靖氏)
問題視されているのは、借金返済に悩む邪神ちゃんに対し、親友のメデューサが「内蔵売ろ? 大丈夫、私の内蔵も一緒に売るから」と提案するシーン。その後、邪神ちゃん一行は富良野市内を満喫しながら、市民の温かさに触れるにつれ、改心して地道に働いて借金返済することを選ぶ——といったストーリーになっている。
内容を確認したうえでの承認ではなかったのか。市担当者は、アニメの内容は制作プロダクションを通じて事前に確認しており、今年3月に完成したものは「市長試写」を経てから放映したものだと回答。市長は事前チェックしていたが、他の議員には大まかな内容しか周知していなかったとしている。
制作サイドは、どう受け止めているか。『邪神ちゃんドロップキックX』製作委員会のプロデューサー・柳瀬一樹氏に聞いてみた。
「今回の場合、借金に追い詰められた邪神ちゃんが、普段天使のような優しいメデューサというキャラクターに『内蔵売ろ?』と真顔で言われて、それを(邪神ちゃんが)鼻水を垂らしながら『え?』と驚くところに面白さがある。ギャグアニメで『なぜ面白いのですか?』と説明を求められるのはつらい」(柳瀬氏)
富良野市民に取材してみると、「ただでさえ市の財政がヤバいのにアニメに使うのは微妙」「このワンシーンだけみても富良野のイメージダウンにはならないと思う」といった声が出た。
アニメジャーナリストの河嶌太郎氏は、「邪神ちゃん」の作風について、こう説明する。
「コメディーの過程で社会風刺的な表現があったり、もともと社会的な表現がされる作品。実際よくないことではあるが、借金返せないから臓器を売るしかない、というのは世界的にはあり、それをある意味で風刺している」(河嶌氏)
作品の舞台となった場所をめぐる「聖地巡礼」の市場規模は大きい。『ラブライブ!サンシャイン!!』(2016年)の舞台になった静岡県沼津市では、観光客が前年度の9倍に。新海誠監督の映画『君の名は。』などの聖地である岐阜県では、経済効果が約253億円との推計がある。こうした成功例を参考に「自分の地元がアニメの舞台になろうものなら、乗っかりたいという自治体は少なくない」(河嶌氏)。
「邪神ちゃん」は富良野市以外にも、北海道の千歳市、釧路市、帯広市、長崎県南島原市とコラボレーションしたアニメを製作してきた。千歳市は「邪神ちゃん」の声優、鈴木愛奈さんの出身地であることもあり、目標金額2000万円の9倍以上となる、1億8438万円のふるさと納税が集まった。
「決して臓器売買を推奨しているわけではない。全編見たら真意は多くの人に伝わるのでは。富良野の魅力をアピールすることに貢献していきたい」(柳瀬プロデューサー)
富良野市の北猛俊市長は「表現の自由に介入して指摘するのは遺憾」とし、委員会などで出た意見は今後の参考にしたいとコメントしている。予算計上するかの最終判断は、12月の市議会に委ねられる予定だ。
(『ABEMA的ニュースショー』より)
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