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 11月23日、国立代々木競技場第2体育館大会では来たる日本武道館の元日決戦に向けて様々な動きがあった。まず第5試合の6人タッグマッチで杉浦貴を変型回転エビ固めで丸め込んだ丸藤正道が、何と新日本プロレスを主戦場としているかつての盟友KENTAとの丸KENでGHCタッグ王者・杉浦貴&小島聡のタカ&サトシへの挑戦を表明したのだ。

 丸KENは03年7月3日に獣神サンダー・ライガー&村浜武洋との王座決定戦に勝利して初代GHCジュニア・タッグ王者になり、05年6月までの約2年間に最多防衛記録V9を樹立した伝説のタッグチームだ。その後、両雄はヘビー級でしのぎを削るライバルになったが、2人のタッグ結成は2014年5月17日の後楽園ホールにおけるKENTAのノア・ラストマッチ以来、8年半ぶり。これはノアファンには嬉しいサプライズである。

 第7試合の6人タッグマッチではGHCヘビー級王者の清宮海斗が元日決戦に向けて挑戦者・拳王を変型シャイニング・ウィザードで粉砕。11・10後楽園で「プロレスリング・ノアに清宮海斗は何が創れるんだ!? お前はただ頑張ってた、ただ勝った、ただそれだけなんだよ」と挑戦の狼煙を挙げた拳王に「拳王!“頑張ってるだけだ”って、じゃあ、その頑張ってるだけの奴に負けたお前は何なんだよ!? 結局、お前も口だけじゃねぇか。日本武道館、俺が持っていく!」と、痛烈な言葉を浴びせた。 

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 そして今回の代々木でファンが期待したのは清宮に次ぐ新世代のチャンピオン誕生。稲村愛輝のGHCナショナル王座挑戦だ。シングル王座初挑戦となる稲村だが、その評価は高い。シックスパックの筋肉美が主流になりつつある今のプロレスラーにあって、デビュー時105キロから120キロまで体重をアップし、350キロの巨大タイヤを使った特訓でゴツい身体を作り上げて、どんな相手にも真っ向から挑む稲村は、今のファンには新鮮。そして昭和プロレスを愛するオールドファンにも支持されている。

 また「何だ、あのでけぇ奴。ひょっとして、あいつがいる限り、ノアの未来は明るいんじゃねぇの?」(KENTA)、「稲村! てめぇとはまた今度、リングで向かい合える、そんな気がするよ」(石井智宏)、「爆発力が凄い。木っ端微塵にされて、骨が砕けるんじゃないかと思ったけど、何とかチャンスを見出して勝利することができました」(ZERO1『火祭り2022』決勝戦を戦った関本大介)、「稲村ジェーンだか、稲村だか、何だかわかんねぇけどよ、あいつ面白いじゃねぇか、この野郎!」(真壁刀義)と、対戦した他団体のトップ選手の評価も高い。

 あとは結果を出すだけ。キャリア5年目、11月18日に30歳の誕生日を迎えたばかりと、まさに機は熟した。この日は声援OKの大会とあって、試合前から稲村のシングル初戴冠を期待するヨシキ・コールが起こった。

 こうしたムードの中でリングに上がった王者イホ・デ・ドクトル・ワグナーJr.も心に期すものがあった。

 祖父がドクトル・ワグナー、父がドクトル・ワグナー・ジュニア、叔父はシルバー・キング、そして母がロッシー・モレノというメキシコの名門レスリング一家の出身で、09年12月に18歳の若さでデビューしたワグナーJr.は、キャリア10年を迎える19年8月にノアに初参戦。20年4月19日にレネ・デュプリとのコンビで丸藤&望月成晃からGHCタッグを奪取するも、新型コロナウイルス世界的流行で来日できなくなって王座返上を余儀なくされた。ノアにおけるキャリアは一度ストップしてしまったが、今年4月30日の両国国技館で2年ぶりにノアに復帰すると、5月4日の後楽園でデュプリとのコンビで杉浦&鈴木秀樹からGHCタッグを奪取。5・21大田区体育館の初防衛戦でマサ北宮&マイケル・エルガンに陥落したものの、11・10後楽園で船木誠勝をムーンサルトプレスで撃破してGHCナショナル王座を奪取して、ノアで初めてシングルのベルトを巻いた。ワグナーJr.にとってもこの稲村戦は、新時代のスタートとなる重要な一戦なのだ。

 30歳になった稲村と、12月4日に31歳になるワグナーJr.の日墨新世代対決は気持ちのいい真っ向勝負になった。稲村がワグナーJr.のトペをキャッチして鉄柱に叩きつけ、さらにエプロンから重爆ボディプレスを投下すれば、ワグナーJr.はフェンスの外の稲村めがけてコーナーポスト最上段からボディアタックを敢行するなど、両者ともに持ち味を発揮。

 試合はいつしか20分を超えたが、ワグナーJr.はコーナーの上の稲村の肩に乗って雪崩式前方回転ウラカン・ラナ、稲村はカウンターのフロント・スープレックス、ぶちかましでコーナーに吹っ飛ばすGEKITOTZなど、両雄ともに躍動。熱い展開にヨシキ・コールだけでなく、ワグナー・コールも発生した。

 勝負の分かれ目は稲村の必殺技・無双が決まらなかったこと。無双を丸め込んで回避したワグナーJr.は遂に必殺ワグナー・ドライバー2連発! カウント2で返す稲村だが、ここで発生したのはワグナー・コールだ。そしてフィニッシュはムーンサルトプレス。またまたワグナー・コールが沸き起こった。

 マイクを手に「アリガトウゴザイマシタ」と日本語でファンに呼び掛けたワグナーJr.は「ムーチョス・グラシアス、アリガトウ、サンキュー」とスペイン語、日本語、英語で感謝を述べ、さらに「ビバ、ハポン!」「ビバ、メヒコ!」「ビバ、ノア!」と叫んで客席四方に礼。またまたワグナー・コールだ。ノア年末恒例の代々木大会の主役はイホ・デ・ドクトル・ワグナーJr.だった。

文/小佐野景浩
写真/プロレスリング・ノア

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