「拷問を受けない国にいるのに…」習近平政権に風穴? ゼロコロナ“抗議デモ”日本でも
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 先月24日、中国の新疆ウイグル自治区のマンション火災によって10人が死亡した。厳しいコロナ政策で周辺地域がロックダウンされていたため「消防の到着が遅れた」と批判が集まっている。

【映像】奥までぎっしり人が…新宿で行われた抗議デモの様子(撮影:安田峰俊氏)

 27日には、上海で大規模な抗議デモが発生。群衆がゼロコロナ政策への不満を訴えた。翌日、北京でも政府に対する抗議デモが行われ、参加した人は「全ての人は理性があって3年間の経験を経て、ここに集まってきた。我々はもうこれ以上我慢できない。前に進むしかない」「PCRはいらない。自由がほしい」と叫んだ。

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 ところどころで聞こえるのは国歌だ。また、抗議する人の中には、A4の白い紙を手にする姿も見られた。

「私たちが話したいことは全部検閲されるから白紙しか使えない」(抗議デモに参加した人)

 抗議活動は海外にも広がっている。ロンドンではイギリスに住む中国人らが中国政府に抗議するろうそくを灯したほか、日本でも東京・新宿で「中国共産党は退しろ!」といった抗議の声が上がった。ロイター通信によると、少なくとも世界の12都市で抗議集会などが開催されたという。

 異例とも言える中国政府への抗議デモ。これは天安門事件の再来となるのか。ニュース番組「ABEMA Prime」では専門家と共に考えた。

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 人々が白紙を掲げる光景に、現代中国社会の専門家で社会学者の阿古智子氏(東京大学大学院教授)は「言論統制が厳しいと、何を表現しても1秒ごとに消される。白い紙で表現するしかない」と話す。

「国歌の歌い出しは『抗日戦争、日本との戦争に勝った、奴隷になりたくない人々よ』だ。『今まで圧力に対して声をあげてこなかったが、私たちはこれから立ち上がる』という意味で、国歌なら中国政府からそれほど咎められない。それもあって歌っていると思う」

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 『八九六四「天安門事件」は再び起きるか。』(KADOKAWA)の著者で、ルポライターの安田峰俊氏は「抗議デモは非常に驚いた」という。

「あれだけたくさんの人が道に出て『習近平は辞めろ』『共産党は下野しろ』という事態を想像しなかったわけではない。むしろ、常に可能性として考えることはあったが、現実には絶対そんなことはあり得ないと思っていた。変な例えだが、日本人の感覚でいうと、首都圏直下型地震やどこかの国のミサイルが飛んでくるなど、その準備をみんなしているが、一方で、それが今日明日に起きると思っている人はほとんどいないだろう。それと一緒だ」

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 日本での抗議集会について、安田氏は「正直ちょっと感動した。この人たちはどれだけ勇気があるんだと思った」といい、その上で「リスクは極めて大きい」と明かす。

「実際に日本で行われたデモに参加した人に話を聞いてみたが『北京や上海では下手したらマスクなしでやっている。その勇気に感動した。少なくとも安全で、集会に参加しただけでいきなりしょっぴかれて拷問を受けない日本にいる自分が動かないのはダメだ』と言っていた。『(中国)国内で戦っている人の勇気まではないけれども、せめてこれぐらいはやるべきだと思った』と彼らは言っていた」

 プロデューサー・慶應義塾大学特任准教授の若新雄純氏は「独裁は正しいことをやるかどうかが重要ではない」と指摘する。

「やったことをいかに正しかったことにするか。それが権力構造だと思う。独裁は、やった後に正解にする。今どきインターネットがある時代に、それが可能なのか。今なお中国がそれを可能にしていることに驚いていた。今回の件で、何か少し風穴は開きそうなのか。それとも、まだ独裁政権にとって都合のいいように全てが書き換えられていくのか」

 若新氏の質問に阿古氏は「中国の人たち次第だ」と回答。

「私も大学で自分の教え子たちが『グループを立ち上げた』と言っていてびっくりした。今までなかったことだ。やはり『人間らしく表現したい』という思いがあって、独裁国家で異論を排除していく政治システムに対して疑問を持ち始めた。新型コロナで自分たちの身近な生活がここまで混乱してしまう、命を落とす人もいるんだと知った。新型コロナがきっかけだったかもしれないが、そこから言論の自由、政治体制の問題に触れていった」

 一方で、阿古氏も「かなりリスクが大きい。抗議活動がいつまで続くかはわからないが、家族にもリスクがある」と指摘。中国当局は、デモについてどのように思っているのだろうか。

 阿古氏は「もちろん警戒していると思う」とした上で「暴力的に、あるいは監視システム技術などを使って封じ込めてきて、お金も人もたくさん投入してきた。でも、それは際限なく続くわけではない。今の中国は景気も悪化している。財政破綻する地方もある。どこまで今の政権のやり方が続くのか分からない」

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 今後、ゼロコロナ政策に変更などはあるのだろうか。安田氏は「なかなか難しいだろう」と見解を述べる。

「現実的に考えれば、ゼロコロナ政策を取り下げるだけで解決はできる。最も穏健なデモの封じ込め方法だ。現実的なところで考えると、ゼロコロナという言葉自体は変えないで、不合理なPCR検査やロックダウンを少し減らし、末端の官僚の首をとりあえず切るだろう。あとPCR検査で私腹を肥やした悪い商人を何人か捕まえてさらし者にする。そうすることで、国民の不満を解消させて『やっぱりこれをやってくれる習近平主席はえらい』とプロパガンダをみんなでやって、一件落着みたいな方向に持っていきたいのではないか」

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 今回の抗議デモが中国共産党を危うくするきっかけになるのだろうか。安田氏は「識者によって解釈が違う。絶対の正解はない」とした上で「少なくとも現時点までの状況から、共産党体制が崩壊したり、習近平主席が辞任に追い込まれたりすることは、限りなくないと思う」とコメント。

「今回の件が大きなパンチであるのはたしかだ。すごいパンチが、いきなり不意打ちでパンと出てきて当たったが、それだけで人は倒れない。その後、連続してコンボが出てくるのか、それとも一発殴って終わるのか。長期的な何かのきっかけになるかで言うと、もしかしたら政権が動揺するかもしれない」

 阿古氏は「中国共産党という組織はすごく盤石だ。縦横に共産党の既得権益層がガッチリと押さえている。ただ、経済次第だ。経済がもっと悪化していくと、今まで甘い汁を吸っていた人たちもいい思いができなくなってくる。だからと言って民主化が進むわけでもない。新しいリーダーもすぐには生まれないので、いろいろなところで混乱した状況が続いていくと思う」と述べた。

 今まではあまり見られなかった中国政府への抗議デモ。今後の体制に影響が出てくるのか、世界が注目している。(「ABEMA Prime」より)

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