“身代わりロボット”人間に似せる意味は? 究極の問い「人とは何か」 分身ロボット共生社会から考える
遠隔操作で動く! 河野大臣の“身代わりロボット”
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 技術の発展が進み、ロボットが人間の代わりとして色々なことをできるようになったとしたら、どのような未来が待っているのだろうか。人間とロボットの共生社会について、ロボット学の第一人者に聞いた。

【映像】瞬きに手振りまで…河野大臣そっくりの“身代わりロボット”

「皆さん、こんにちは。デジタル大臣の河野太郎です」

 こう話すのは、河野太郎デジタル大臣そっくりのロボット。政府が掲げるムーンショット型研究開発事業の1つとして、いま身代わりロボットの可能性を探る動きが進められている。

ムーンショット目標1
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 月面着陸を目指したアポロ計画のような“前人未到の挑戦”を意味するムーンショット。政府はこのロボットの研究を通して、2050年までに人が身体や空間などの制約から解放された社会を実現することを目指す。

「私もこのデジタル技術を世の中に説明する際、自分のアバターを使って同時に2カ所で説明会をするなど、色々なことを考えている」(河野太郎デジタル大臣)

 目や口、関節など、体の52カ所を遠隔で操作することが可能な「河野太郎大臣の身代わりロボット」。これがあれば、各地に出張することなく、本人としてさまざまな仕事をこなせる。

 思考までコピーし、自律した移動までできるようになれば、同じ人物が世の中に複数存在する未来もあり得るのか――。ただ、分身ロボットを極限まで本人に近づけたとして、人はロボットを本人と思えるのか。同じ人格と言えるのか。人とロボットが共生する社会には、未知なる領域に向けた問題が待ち受けている。

石黒浩教授
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 このプロジェクトの意図と実現することによる問題、そして研究の先に目指すことは何か。ニュース番組『ABEMAヒルズ』は、コメンテーターでノンフィクションライターの石戸諭氏とともに、ロボット学の第一人者である石黒教授の話を聞いた。

――人とロボットが共生する社会はいつかやって来るのか。

「そもそも人間は、技術によって能力を拡張してきている。人間の生活は今、色々な意味で技術・AI・ロボットによって支えられているわけで、“最初から共生している”と思うのが自然。これからどんどん共生した社会になっていく」
 

――石黒教授は河野大臣など「人間そっくりのロボット」以外にも、対話ロボットの「CommU(コミュー)」や遠隔操作ロボット「テレノイド」など、人間としての必要最低限の見かけと動きのロボットを作っている。その意図は何か。

「対話する相手と場面に応じて、見かけは変えていくべき。例えば高齢者に小さい子ども、特に自閉症の方や高齢者でも認知症の方などは、人間そっくりのロボットよりも特定の個性を持たない可愛いロボットのほうが喋りやすいケースが多い。喋る人が自分で想像しながら関われるようなロボットは、人間に対して強いプレッシャーを感じやすい人たちにとっては好ましいデザインだと思う。一方で、例えば会社の受付や美術館での案内など、人間らしい存在感を求める場面では人間そっくりの方がいい」
 

――石戸:俗にいう“不気味の谷”。人間の認知は、人間とそうでないものがあまりにも似すぎている場合、不気味さを感じてしまうと言われている。これは慣れることで乗り越えられるのか。

「一つ誤解がある。それは、人間とロボットが厳密に同じかどうかで不気味さが決まるわけではないということ。例えばゾンビのように、人間らしい姿形をしているけれど、動きが明らかに人間と異なるものには強烈な不気味さを感じる。もともと、そういったものを“不気味の谷”と呼んでいた」

「どれが人間らしくて、どれが人間らしくない、というのはなかなか言えないが、すごく人間らしい見かけからそうでない見かけまで、どの見かけでも我々は適応する。現代のアンドロイドは、場面や相手を選べば、不気味の谷は十分乗り越えていると思う。ただし、それは常に厳密に人間と同じというわけではない」

“身代わりロボット”人間に似せる意味は? 究極の問い「人とは何か」 分身ロボット共生社会から考える
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――相手がロボットでも、恋人や親子が触れ合う時のような肌触りは感じられるのか。

「瞬間的な肌触りだったら、人間と同じかそれ以上にすることは今の技術でもできる。ただ、人間の場合は相手に対する信頼感や愛着など、色々なものを通して感覚を補っているところがあるので、それら全部を含めて人間を超えることはできない。しかし、すでに小さな子どもが人形を手放さなかったり、我々が開発したロボットに高齢者が非常に愛着を感じていたりする。そうした場面においては、またそういった人たちにとってはすでに人間を超えている部分があると思う」
 

――石戸:海外の研究でも、ロボットの形は必ずしも人間に似せていない。人間の体にデザインを近づけたほうが、人工知能の研究でもプラスに働くのか。

「その研究において、人工知能が何を目指すか。人間と対話する人間らしい知能を目指すなら、人間のような姿形や感覚器を与える必要がある。そもそも脳は人間を認識するためにたくさんの機能を持っている。そんな人間の脳が自然に反応できるような人工知能を作ろうと思えば、もちろん人間らしくしていく必要がある」
 

――人間に近いロボットを作って、人間に何がもたらされるのか。

「それは“理解”だ。『人間とは何か』というのが、この世に生きている人間の究極の問いであるし、それを理解していくというのが我々の存在する意義だと思っている。大学での研究、経済にしても、哲学にしても、医学にしても、すべては人とは何か、という問いに向かっているように思う。日常ではお金を稼いだりご飯を食べたりするために色々な活動をするわけだが、そういったものがどんどん満たされていく未来において、『何のために生きているのか』ということが、だんだんと多くの人の問いになってくる。そのときに重要なのが、『人とは何か』『自分とは何か』と考えながら、その可能性をどうやって広げていくかだ。そういうところが、大きな脳をもって生まれた人間にとって大事な問題なのかと思っている」
 

――石戸:石黒教授が考えていることは、ムーンショット目標よりも壮大なのではないか。

「ムーンショット目標では、多くの人にとってわかりやすい目標を立てている。アバターを使えば、障害者や高齢者などが自由に働けるようになる。未来において日本では労働人口が減るという大きな問題もあり、それを解決しようとムーンショット目標を立てているが、根本的に人間がどうしてそういう技術を取り入れていくのか、人間は生きて何を知りたいのか、そういったもっと深い問題を考えておくことは研究者にとっても多くの人にとっても大事なこと」

(『ABEMAヒルズ』より)

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