美学を捨てても「勝つためのサッカー」 クライフの呪縛から解き放たれたオランダが初のW杯制覇を狙う
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オランダが初のW杯制覇に向けて進んでいる。自身のスタイルを投げ捨て、勝利を掴むために賭けに出た彼らは、今のところその掛け金は失っていないように見える。

W杯でのオランダの栄光と悲劇は、48年前の1974年に遡る。世界中のサッカー関係者が驚いたトータル・フットボールを引っ提げ彼らはW杯にやってきた。その中心が不正出の天才「未来からやってきたプレイヤー」「フライイング・ダッチマン」のヨハン・クライフだ。

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「戦術メッシ」や「戦術デ・ブライネ」と今では称されることも珍しくないが、まさに初めて選手の名前が戦術になった74年のオランダは、その後の50年のサッカー戦術に破壊的な影響を及ぼした。

「選手が担当ポジションを持たず、そのスペースとポジションに立っている選手がその担当するプレーを処理する」という、夢のサッカー戦術を、ブラジル相手に、アルゼンチン相手に、ドイツ(当時は西ドイツ)相手に見せつけたのだ。

オランダの栄光と悲劇がここから始まった。

その基本は4-3-3。

もっともトライアングルが作りやすく、ボールはピッチいっぱいに展開され、美しく軌道を描いて、サッカーの楽しさと美しさと、醍醐味を味わえるシステムだ。その後、クライフの思想を継いだバルセロナや、そのバルサで薫陶を受けたペップ・グラディオーラが監督としてクラブに影響を及ぼした「クライフ・サッカー」の原型(プロトタイプ)だ。

以来40年もの間、このプロトタイプに仮説や実験、仮設計や検証をオランダ代表は重ねて「クライフ・スタイル」を自身に同化させ、昇華することに努めてきたが、その度に「現実的なサッカー」「勝つためのサッカー」の前に粉砕。敗北者の道を歩んできた。トータルフットボール・クライフの遺伝子が、オランダ代表の栄光を作り上げたのと同時に、そのスタイルへの呪縛がオランダ代表の悲劇を生んでいた。

ロッベン、ファン・ペルシ、スナイデル、デルカンプ、マルコ・ファン・バステン、ファン・ニステルローイ。「君たちはブラジルか?」と思えるくらい、いつも前線やサイドにワールドクラスの選手をオランダは抱えていた。トップクラスの戦闘能力を持つ彼らに、4-3-3の芸術性とクライフの遺伝子を移植させて勝負に臨んでいたのが、今までのオランダ代表だった。

そのオランダが違う姿を見せている。伝統的な 4-3-3を採らず、3-4-1-2や3-4-2-1 という原型に、「可変システム」というアプリケーションを実装してW杯優勝という「ロード」を歩んでいるのだ。

グループリーグでの得点者はチーム得点王ガクポの3点を筆頭にMFとDFばかり。ノックラウンドに入ったアメリカ戦でようやく先制ゴールをデパイが挙げたが、残りの2点はまた“後ろ”の選手で何かが変わりつつある。

ラウンド8でオランダに立ちはだかるのは、アルゼンチン。78年W杯の決勝でオランダの夢が砕かれた因縁の相手である。W杯でこの両者が戦うのはこれが6度目。過去戦績は120分以内の戦いでは2勝2分1敗(2018W杯は0-0からPK負け)。あの78年アルゼンチン大会でケンペスが舞ったリバープレートスタジアムでの試合以来、オランダは実はアルゼンチンには負けていない。

だが、今までと違った姿をオランダが見せているように、今大会のアルゼンチンも違った姿を見せている。メッシの最後のW杯という独特のポジションをチーム全員のモチベーションに変えて「メッシとその仲間たち」が全員で守り、攻めている。まるでオランダのトータルフットボールを彷彿させる内容だ。

プレーもゲーム運びも、美しさや芸術性は影を潜め、勝つためのサッカーを志向するオランダは、「自分達がW杯を初めて掲げて歴史を作る」という彼らの「新しい景色」を見つめている。


ABEMA/FIFA ワールドカップ カタール 2022)

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