西武池袋本店へのヨドバシカメラ出店計画、豊島区長が嘆願書を出して反対 “街の顔”とは? 自治体が民間企業に口を挟む是非
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 東京・池袋でひと際目を引く、西武池袋本店。多くの人が行き交うこの百貨店をめぐり先週、高野之夫・豊島区長の会見が物議を醸した。「今まで築き上げた“文化の街”の土壌が喪失してしまうのではないか」。区長が不安を口にしたのは、西武池袋本店の低層階へのヨドバシカメラ出店だ。

【映像】豊島区長の会見が物議を醸すことに

 発端は11月、親会社のセブン&アイホールディングスが、そごう・西武をアメリカの投資ファンド、フォートレス・インベストメント・グループに売却することを決定。フォートレスはヨドバシホールディングスと連携し、そごう・西武の再建を目指し、西武池袋本店にヨドバシカメラを展開する計画が浮上。しかし、これに区長が「NO」と反対し、西武ホールディングスへ嘆願書を提出したのだ。

 理由は、家電量販店の激化や海外ブランドショップの撤退をもたらし、“これまで作り上げてきた池袋”がなくなってしまうこと。Twitterでは「自治体が口出しするのは違うと思う」「ヨドバシに失礼、でも区長の気持ちもわかる」「街づくりってどこまで協力すればいいの?」など様々な声が上がっている。

 街づくりのあり方と、自治体が民間企業に口を挟む是非について、19日の『ABEMA Prime』で議論した。

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 西武池袋本店の1階から4階、海外のハイブランドが並ぶエリアにヨドバシカメラが入るのではないかという情報が飛び交っている。地方自治・都市計画等を取材しているフリーランスライターの小川裕夫氏は、「2~4階はともかくとして、1階は死守したい。やはり歩いている人が目にするので、ここが池袋のイメージにつながってくる。例えば、コロナ前の銀座を思い浮かべてほしい。ブランド店が並び、外国人観光客が多く来ていて、日本の人たちは少し肩身の狭い思いをしていた。何か落ち着かない、人もごみごみしているとなると、イメージが落ちてしまうという心配は銀座にはあった。そういうことが池袋にも起きるんじゃないかという、今まで街づくりを主導してきた区長が心配する気持ちはわかる」と話す。

 一方、一般社団法人「AIA」代表で内閣府地域活性化伝道師の木下斉氏は、2つの視点から疑問を呈する。

 「1991年のバブル崩壊以降、百貨店は売上をどんどん減らしている。百貨店の包装紙じゃないと贈答品を気に入らないということも、若年層はないわけだ。ネットで物を買うし、電車で20分圏内の銀座などにスーパーブランドのフラッグシップ店舗がある中で、池袋の西武本店にも入っていることが本当に街にとってプラスになるのか。それが“街の顔だ”という表現をされるのがまずよくわからない。2つ目に、明治通りを大きく迂回させて(東口駅前を)歩行空間化する計画が決まっていて、区として大きく進めているのはいいことだと思う。であれば、西武池袋本店のビルにどういう支援をするのかといった具体的な提案があるなら納得できる。しかし、議会で何かを決定した事項がなく、条例案も予算も用意せずにマスコミを集めて地元の商店街の人たちと一緒に記者会見をするというのは、かなり乱暴だという印象を受けている」

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 ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「街は基本的に生き物だ」とし、「20年くらい前、銀座にマツモトキヨシが初めてできた時は物議を醸した。みんな大騒ぎしたが、結局その後、マルイ、ユニクロ、GUもできてと、だんだん変容してきた。白金台も、『シロガネーゼ』なんて言葉があるくらいおしゃれでハイセンスな街だったのが、プラチナ通りの一番上の目立つ所に100円ショップ、その隣にドン・キホーテが建っているように、街は変わっていく。抗って街づくりをしようと思ったら、それこそ三菱地所が丸の内の仲通りでやっているような、ストリート全体を地権者がいじるくらいのことをしない限り無理なのではないか。区長は“中心”にこだわりすぎだと思う。この発想はヨーロッパ的で、パリのど真ん中には凱旋門があったりするが、日本はだいたい碁盤の目なわけだ。池袋は確かに放射状になっているので、なんとなく駅が中心という感じはある。一方で、街を歩いて新しい店を発見する、面白いものを見付けて楽しむということを考えると、中心がある必要は全くないと思う。中心を作ってでかい建造物を置く、というビジョン自体が古い感じはする」との見方を示した。

 豊島区は2014年、23区で唯一「消滅可能性都市」に指定され、女性・家族目線で街づくりを行ってきた経緯がある。対策として、池袋駅周辺の4つの公園の整備、待機児童ゼロの達成、生理用品の無料配布機器設置、高齢者の外出・社会参加の促進などを行い、人口は1万5000人増加した。

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 ただ木下氏は、受け入れられる街づくりは「基本的に投資をする人に従うべきだ」「役所が出張っていけばいくほどおかしくなる」と主張する。

 「福岡市で昔、再開発事業で第三セクターまで作ってスーパーブランドビルを建てるという計画があったが、ブランド側が全然来なくて頓挫したことがあった。福岡市の都市整備のOBの人たちと話しても、黒歴史として語られている。銀座の元プランタン銀座(現マロニエゲート銀座)にもダイソーが入っていたりするわけなので、時代の需要に沿っていくことが社会の進化であり、正直便利だ。関係ない人が横から出張ってきてやったものがうまくいくことがないのは、投資の責任も何も負わないから。ヨドバシカメラが西武百貨店に入ることでスーパーブランドの撤退をもたらすというが、現状のまま残るかどうかもわからない。なので、そのあたりは責任を持った人がやらないといけない」

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 佐々木氏は「池袋はこの20年、そこそこ成功していると思う」といい、「ビル群にはならなかった。大きな通りを整備して歩けるようにし、小さな店がたくさん並んでいる感じだ。かつての池袋はもっとカオスだったが、そのちょっと怪しい雰囲気も残る一帯になっていて、それはそれで街の1つの魅力になっている。カオスをどこまで維持できるかが街づくり、特に21世紀にはものすごく大事だが、古い人になればなるほど街全体をものすごくきれいにローラーしたがる。一方で、これまでの区長の功績は認めてあげるべきではないか」とした。

 小川氏は「区長が長くやりすぎたというのは、ごもっともだと思う。“こういう街づくりをしたい”という思想、僕は20年取材して何回も聞いているので、もしかしたら区長よりわかっているかもしれない。じゃあそれに賛同できるかというと、それはもう時代に遅れているのではないかなと。後進に道を譲り、その人の街づくりをやってくれという方法もよかったのではないか」と述べた。(『ABEMA Prime』より)
 

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