ゼレンスキー氏の訪米は“自由さ”アピール? 「“演説で人を動かす力”を発揮して議会に味方を増やす狙いも」「プーチン氏にとっては苦々しい」
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 21日、ウクライナのゼレンスキー大統領がワシントンを訪問した。首脳会談を終えたバイデン大統領は高性能の迎撃ミサイル「パトリオット」の供与を含む、日本円で2400億円余りの新たな軍事支援を決めたことを明らかにした。

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 その前日、激戦が続くウクライナ東部ドネツク州の都市・バフムトを電撃訪問したゼレンスキー大統領。兵士たちを激励し、爆発音が響く中、国際社会からの支援を訴えていた。首都・キーウでは、連日のドローン攻撃でエネルギー関連施設が破壊され、特に電力が不足。供給が需要の半分にも満たない状況が続いているという。この時期、日中でも気温が氷点下となるキーウでは、市民生活に大きな影響が出ている。

 アメリカ訪問とウクライナへの新たな支援で戦局は変化するのか。そして、ロシアの状況は。21日の『ABEMA Prime』で議論した。

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 このタイミングでの訪米について、鈴木一人・東京大学公共政策大学院教授は「ロシアに対して、ゼレンスキー大統領は海外に出られる、“自由は奪えないぞ”ということをアピールする狙いがある。また、先日の米中間選挙で下院は共和党が多数を占めることになったが、1月から新しい議会が始まるので、支援に対してややネガティブな人もいる共和党に喝を入れるというか。アメリカの支援なしに、ウクライナがロシアの脅威に対抗し続けることは不可能。まずは議会を説得する、味方を増やすということで、ゼレンスキー大統領の一番の強みである“演説で人を動かす力”を発揮したい思いもあったのだろう」との見方を示す

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 パトリオット提供については、「地上軍の戦いはかなり膠着状態で、どちらかというとウクライナ有利の状況にある。ロシア側の攻撃手段はミサイルが中心になっていて、先日もミサイルとドローンによるキーウへの攻撃があった。一番の問題はウクライナの防空システムが十分機能していないこと。パトリオットは防空システムの親玉みたいなものなので、それを配備することによってロシアのミサイルを迎撃することができる。ただ、ドローンに対してはあまり有効なシステムではないので、また別途対処が必要だ。ミサイルに対しては当面、このPAC3ないしPAC2を配備することになれば、それなりの防空能力の強化になると思う」とした。

 では、この動きをロシアはどう見ているのか。「占領した4州の状況が良くないとプーチン大統領が認めた状況にある中で、追い打ちをかけるようなゼレンスキーの訪米。プーチン大統領からすれば物事がうまくいっていないことの一つの証になってしまっているので、非常に苦々しい訪米なのではないか」。

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 国民生活が苦境にある中、ウクライナは戦いを続けていけるのか。世論はどう捉えているのか。鈴木氏は「人々に厳しい圧がかかっている一方、ロシアに対する恨みつらみをかき立てる要素にもなっていて、だからこそ“戦い続けるんだ”と。戦場にいる兵士たちのことを思えば、都市にいる人たちにも“電気がない、暖房がない状態を耐え忍ぶんだ”という空気がある。ただ、生活はかなり苦しいので、どこかで音をあげる可能性ももちろんあり、ゼレンスキー大統領としてはその間の微妙なラインでどう落としどころを見つけるのか。停戦してしまうと、ウクライナの領土がまだロシアに占領されている状態を固定化することになってしまうので、原則として認めたくない。それだけに、アメリカの支援は継続的に必要だというところでの訪米なのだろう」と分析した。

 ロシアによる侵攻開始から10カ月が経とうとしている中、「世界は大きく変わったが、全体の構図は変わっていない」との見方を示す。「ロシアはあくまでもウクライナとの間で戦争をやっていて、西側諸国がウクライナを助ける。途上国や中東を含めて中立を守っている国も非常に多いが、エネルギー価格の上昇など、戦争が我々の生活に直結する問題だという認識は高まっていると思う。よく考えれば、国連が機能していないのは冷戦時代もそうだったし、地域紛争はいろいろなところで起きてきたわけで、全体の構図として特別何か大きく変わったということはないと思う。一番の問題は、ロシアという大国がこれだけの力と時間をかけてもウクライナ一つ落とせない、軍事力だけではどうも解決しない問題があるんだ、と認識されたこと。一方で、核を持っている国がアメリカから攻撃されないということも今回立証してしまっている。核の拡散が進んでいく可能性、世界が不安定化していきかねないところは懸念すべきだ」。

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 落としどころはプーチン大統領次第だという。「停戦するにしても、今のウクライナは自分たちを守るのに精一杯。彼らにとってみれば、自分たちの失地を回復することで、ようやく引き分けだ。本当の意味で戦争をやめることを決断できるのはプーチン大統領1人。彼がどう考えるかが大事で、そのために支援をし続けるのかどうか。ウクライナがギブアップするかたちで停戦するのが最もよくないことだ。つまり、力による領土支配が正しいことになるので、それは国際社会として認めるべきではない。プーチン大統領に戦争を諦めさせて、『俺たちはやめる』とどこかで言わせるというのが、最終的な落としどころだと思う」。

 ジャーナリストの堀潤氏は、「フランスのマクロン大統領はプーチン大統領との直接的な会談を諦めないという姿勢を示しているが、日本はこれだけ領土も隣接している国でありながら、直接的に何か交渉するものは持っていない感じはする。そこは日本の足元を見た時にちょっと不安を感じる点だ。日本は今、どのようにして振る舞うべきか、そして、戦争をやめさせるためにプーチン大統領に対して何か言えるのか」と尋ねる。

 鈴木氏は「交渉をしてプーチン大統領に戦争をやめさせるためには何らかのレバレッジが必要。つまり取引材料だ。日本が持っているものは制裁になると思うが、これは日本だけでなくG7を中心として西側諸国がかけているもの。“制裁をやめてほしければ戦争をやめろ”というところに追い込んでいかないといけない。そのためにはより厳しい制裁だ。特に今、石油の上限価格や天然ガスの上限価格を設定しようとヨーロッパは動いている。こういったことを強引にでもやって、ロシア経済を苦しい状態にするのは重要なポイントになるだろう。今の日本は一国で解決できるような立場ではもちろんないし、軍事力というレバレッジもない。G7とともにロシアに圧力をかけていくところで、そのためのリーダーシップなりアイデアを出すというのが日本のやるべきことだ」との考えを示した。(『ABEMA Prime』より)

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