長期間のロックダウン、感染者の強制隔離や厳しい行動制限。新型コロナウイルスを封じ込めるために、3年にわたって実施してきた厳格な「ゼロコロナ政策」。12月上旬、中国政府は突然緩和する方針を打ち出した。
それから約2週間…中国では新型コロナの感染者が急拡大している。患者であふれ返っている病院。集中治療室で、患者が床に寝かされている姿も。中国・湖北省で撮影された動画では、病院に入りきれない患者が路上で点滴を受けている。ドライブスルー方式とでもいうのだろうか、車のそばにスタンドを置いて乗車したまま点滴。自ら点滴を打ちながら治療にあたる医療スタッフも。
混乱は、医療機関だけではない。薬局で店員と客がもみ合いになっている。中国各地で風邪薬などの買い占めが起きており、現地メディアによると、一部の地域では薬の購入に制限を設けているという。
そんな薬不足と感染の不安から、次から次へと新型コロナにまつわる「デマ」が拡散。「桃の缶詰を食べるとコロナの症状を和らげる」「レモンも効く」。このデマを信じた人たちが我先にとレモンを奪い合う。
飛び交うデマにひっ迫する医療現場。政府の急激な方針転換に市民からは、「全国民に感染を強制」「ゼロコロナからフルコロナ(全員陽性)」など、困惑と怒りの声があがる
しかし、中国外務省の報道官は、これまでの政策を「中国の感染対策は過去3年間で最大限に人民の生命と健康を守り、最小のコストで最大の効果を得る目標を実現した」と自画自賛。
中国政府の発表では、無症状感染者の発表を取りやめた13日以降、新規感染者は1日に2000人から3000人程度。死者に関しては、ゼロコロナ政策撤回から21日までで、合わせて7人としている。これについて中国のSNSでは、「政府が少なく見せかけている」「実態と異なっている」などと批判する声が高まっている。
ロイター通信は、「イギリスの医療関連調査会社エアフィニティーは、中国での新型コロナウイルスによる死者が1日あたり5000人以上との試算を示した」と報じているが、評論家の石平氏も「桁が間違っているのでは」と疑問を呈する。
「中国政府の発表は最初から信じられるものではない。今、国家衛生健康委員会の内部会議の記録がネット上で漏れていて、それによると20日の新規感染者数は3700万人。(政府の発表は)21日は2966人ということだが、×1万で正しくなる可能性がある。死者7人というのも、ネット上ではみんなが『私の周りでも5人を超えている』と書き込んでいて、『政府が発表した5人、全員知っています』と冗談で言っている」
軽症や無症状であれば出勤可能という通達も一部で出ているようだが、感染拡大に拍車をかけてしまうのではないか。石平氏は「軽症でも職場に行けば感染拡大につながるが、おそらく今の政府からすれば“感染拡大はもう避けられないから、(緩和は)早めにやったほうがいいんじゃないか”という気持ちはあるかもしれない」と推察する一方で、春節(旧正月、2023年は1月22日)を控えていることから「方針転換は時期が悪い」と苦言を呈する。
「(春節が)一番の問題だ。中国政府のゼロコロナ政策転換のタイミングはあまりにも悪すぎる。春先解除ならわかるが、感染が広がりやすい冬の前だ。そして、1月に入ってから民族大移動が始まるが、中央政府がブレーキをかけるか移動禁止令を出さない限り、爆発的な感染拡大につながる。すでに感染拡大している都市部から大勢が田舎に帰り、田舎で広がる。さらに、田舎の人が都市部に戻って、また感染拡大が起こる。それを黙認していれば、信じられない状況が起こると思う」
また、薬局で店員と客がもみ合いになる事態が起きているように、緩和に際しての準備が足りていなかったとも指摘した。
「ゼロコロナ政策からの転換の中で、医療施設の充実や、その手前でかぜ薬を十分に用意するのは、政府がやる最低限のこと。今回、習近平政権、中央政府はそれすらやっていなかった。国民からすれば、以前の封じ込めは意味がなかったんじゃないか、今回の解放も無責任じゃないかということで、どちらも『バカなことしかやっていない』と批判される」
では、習近平政権は今後どのように動くことが想定されるのか。
「1つの可能性としては、またゼロコロナ政策に逆戻りすることも考えられる。逆に言えば、今の感染拡大はこれまでのゼロコロナ政策の正しさを証明しているからだ。ただ、ジレンマもあって、11月の輸出、消費の数字がマイナス成長になった。経済沈没に拍車をかけてきたのがゼロコロナ政策であって、逆戻りすればさらなる経済の悪化は避けられない。人の命をとるか、経済をとるのか、決心がついていない状況だ」
(『ABEMAヒルズ』より)
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