2023年1月1日のプロレスリング・ノア日本武道館大会で、武藤敬司の“化身”であるグレート・ムタと、WWEスーパースター、SHINSUKE NAKAMURA（中邑真輔）の“初対決”が行われることが決定した。
近年、WWEスーパースターが他団体のビッグマッチに出場することはなく、実現したこと自体が奇跡と言われた、まさに夢の対決。この一戦への思いと意気込みをSHINSUKE NAKAMURAにリモートインタビューで語ってもらった。（取材・文／堀江ガンツ）
― まずは来年の1月1日、プロレスリング・ノア日本武道館大会で、グレート・ムタ戦が決定した時の気持ちを教えてください。
中邑 決定を聞いたときは「まさか！」「信じられない」というのが正直な感想でしたよね。それまでのWWEという会社の体制では、まず起きないことだったので。
― WWE所属選手、しかもメインロースターが他団体のビッグマッチに出場するというのは、ずいぶん前から基本的にありえないことで、不可能なものだと思われていましたもんね。
中邑 それでもダメ元でノアさんがこの話を持ってきて。かつ自分もWWE内部の人間にアプローチというか相談はしてたんですけど、「やっぱりね」という答えしか返ってこなかったんですよ。そんな中で、夏にビンス（・マクマホン＝前WWE会長）が退陣して、そのタイミングで「今だったらいけるんじゃないか」っていうアドバイスをいただいたので、それとなくノアの武田（有弘＝サイバーファイト取締役）さんにも伝えて。
― WWEの体制が変わったことで光明が見えてきたわけですね。
中邑 それでもこれまでのWWEの経緯を考えると「難しいだろうな」と思っていたんですが、そこから二転三転あり、自分が直接トリプルHと話すこともあって。それが決定にいく流れになったときは、さすがに震えましたね。
― 中邑選手でも震えるほどの興奮があった、と。では、あらためて今度対戦するグレート・ムタは、中邑選手にとってどんな存在ですか？
中邑 ボクは“グレート・ムタ”とは関わったことはないですけど、やっぱり自分がプロレスラーになる前から観ていますから。その当時はアイドルであり、武藤敬司とは別人格の独自の世界観とリズムを持った選手だとは思っていますね。
― ムタと対戦したい気持ちは以前からありましたか？
中邑 それはもちろん。とくに武藤さんが引退を控え、グレート・ムタも近々この世からいなくなるんじゃないかというタイミングなので、対戦するのもこれが最初で最後でしょうから。自分が動くだけの価値あるカードだと思ってましたね。
― 過去のグレート・ムタの試合で、印象に残っている試合はありますか？
中邑 いちばん好きな試合は、長州力&天龍源一郎vs蝶野正洋&武藤敬司……からのグレート・ムタですね（1994年4月4日、広島グリーンアリーナ）。
― 試合が始まったあと、武藤さんが天龍さんにマイクで「ムタで来い！」と挑発されて一旦控室に戻り、ムタで再登場した試合ですね！ なぜ、その試合がいちばん好きなんですか？
中邑 その頃、自分がいちばんよくプロレスを観ていた時で、夜中のテレビ放送を観ながら、思わず叫び声を上げた思い出があるので。それぐらい印象的でしたね。
― 今年6月に武藤選手が引退を表明し、ムタも同じくラストを迎えるというニュースを聞いたときは、どう思いましたか？
中邑 ひとつの時代が、また次の時代に移り変わっていくんだなっていう感じではありましたけど。でも逆に「武藤さん、けっこうしぶてえな」って思ってましたよ（笑）。だって、ボクとIWGPのタイトルマッチを2回くらいやったときも「まだやんのかよ!?」と思ってたし、それからまたノアでベルトを巻いたりしてるわけだから「しぶてえな～」って思ってましたよ（笑）。
― 中邑選手と武藤選手がIWGP王座を賭けて対戦したのがすでに14年前（2008年）で、それから10年以上経って、2021年に今度はノアの最高峰であるGHCヘビー級王座を奪取したわけですもんね。
中邑 武藤さんの周りの世代は、ほぼほぼ引退されてるじゃないですか。そんな中でコンディションを維持しながら、第一線中の第一線でやっているわけだから、いい意味でしぶといなと思いますよ。
― そんな武藤さんの“化身”であるグレート・ムタと、1・1日本武道館ではどんな試合が見せたいですか？
中邑 できることなら思いっきり暴れたいと思っているんですけど、相手がクセのあるグレート・ムタですから。それこそボクのプロレス人生で最初で最後のグレート・ムタ戦になるので、楽しんで、味わい尽くしたいと思ってますね。
― WWE所属のシンスケ・ナカムラとして、グレート・ムタとノアのリングで対戦することについては、どう感じていますか？
中邑 先ほども言いましたけど、ありえないシチュエーションで、すべてが特別なので。それを自分は「奇跡」と表現しましたけど。今年はいろんな方が亡くなられたり退陣された時代の間（はざま）であり、グレート・ムタ戦はその変化の中で起こり得た、言うなれば“時代の間の奇跡”だと思うんですよ。かつ武藤敬司、グレート・ムタが引退に向かっていく数少ない相手として選んでもらったことは、非常に光栄だと受け取っていますね。
― 先日、武藤さんにお話をうかがった際、武藤さん自身は当初「自分のラストマッチ、引退試合の相手に真輔を考えていた」と、言っていました。そのことについて、どんな思いがありますか？
中邑 なんというか、ビックリですよね。武藤敬司と中邑真輔の間には直接の師弟関係もなく、過去２回闘って、２回とも僕が負けているので、そういう意味では、中邑真輔というプロレスラーとしては、武藤敬司に良い印象を持てるはずがないんですけど。ただそれを聞いたとき、「心のどこかで武藤さんは自分のことを考えていてくれたのかな」って。それは自分にとって意外なことであると同時に、やはりうれしかったですね。あの武藤敬司が引退する最後の相手に中邑真輔の名前を出すっていうのは、ガキんちょの頃のファンの気持ちに戻って「すげえな」って思いましたよ。子供の頃の俺に「おまえ、すげえぞ」って言ってやりたいくらいに（笑）。
― 今回のグレート・ムタ戦は、中邑選手自身にとってはどんな意味合いがありますか？
中邑 プロレスラーになる前からの憧れの存在といえど、業界の中では敵になると思うので。ボクはこれまで、子供の頃のアイドルだった武藤敬司にしろ、蝶野正洋にしろ、いろんな選手と対峙するたびに、そういうトンがった態度で競争相手としてすごしてきましたからね。とくに武藤敬司については、若い頃の中邑真輔は２回負けていて、完膚なきまでやられたわけですよ。だから今回は、本来２度と来なかったであろう接する機会を再び与えられたので、10数年前に自分の前に立ちはだかった大きな壁が引退するというのであれば、その前にまずはムタにトドメを刺しに帰ってきてやろうじゃないか、というところですね。
― 以前２回行った武藤敬司戦と、今回のグレート・ムタ戦とでは、また違った化学反応が起こりそうな予感や期待はありますか？
中邑 ありますし、かつボクもかつての中邑真輔ではないので。間違いなく違ったものになるでしょうね。
― インターナショナルで最も活躍した日本人レスラーとして、名実ともにグレート・ムタ、武藤敬司を超えたいというような思いはありますか？
中邑 時代も違うので、比べたりするのは違うのかなとは思いますけどね。かつて世界を席巻したキャッチーな存在として尊敬はしていますが、自分は自分のやりたいように、できるかぎりのことをやっていくつもりではあります。
― 武藤敬司およびグレート・ムタというレスラーは、注目度の高いスーパースター対決になればなるほど我が出るというか、自分のほうが目立ってやろうとするタイプのレスラーという印象がありますが、いかがですか？
中邑 あの人はそういうタイプですよね（笑）。ボク自身はそういうタイプじゃないとは思ってるんですけど、とにかくリング上のど真ん中で武藤敬司、グレート・ムタを楽しんで、中邑真輔の中に刻み込もうと思っていますよ。
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