「車椅子JK」と名乗る人気TikTokerがいる。玉置陽葵(ひより)さん17歳、都立高校に通う高校2年生だ。なぜ彼女は、自らの障害を発信するのか。そして、メディアは障害者とどう向き合うのか。ドキュメンタリーディレクターが密着取材した。
自分の性格を「人見知りだけれども、心を開いたらうるさい」と評する陽葵さん。筋力が徐々に低下していく難病「筋ジストロフィー・ウルリッヒ型」を抱えている。
主治医である国立精神・神経医療研究センターの小牧宏文医師によると、患者は非常に少なく、日本国内では推定数百人。遺伝子異常によって起こる国の指定難病で、現在のところ根本的な治療法は見つかっていない。脚から弱くなり、その後は腕へ。呼吸に関する筋肉も弱まると想定され、人工呼吸器を使う可能性もあるという。
生後まもなく病気が判明し、母の英未さんは自分を責めたというが、楽しそうな娘の姿を見ているうちに、落ち込まなくてもいいと思えるようになった。進行を遅らせるためのリハビリが母娘の日課。陽葵さん自身は、障害についてどう考えているのだろうか。
「みんなと違うから、ちょっと嫌だなと思うことはたまにあったが、自分は自分だから大丈夫という気持ちが強かった」(陽葵さん)
陽葵さんはこの夏、障害者モデルが活躍する、Instagram上のウェブマガジン「porte(ポルテ)」のオーディションに挑んだ。前年も参加したが、最終審査で落選。リベンジしようとする背景には、社会からの視線もある。
「車椅子を使用しているだけで『かわいそうな子』と思われているのは自分でも感じている。でも自分のことを『かわいそう』だと思うことが私にはない」(陽葵さん)
もともと内気だった陽葵さんを変えたのは、高校で出会った親友のなほさん。SNSには「優しい人」「いい人」との書き込みも多いが、なほさんは「違和感がある」と困惑する。「障害を持っている人は、健常者に助けられている」といったイメージが強く、よくテレビでも「助けられている場面」が伝えられるが、「工夫に焦点を当ててほしい。そこに障害があろうとなかろうと何も変わらない」と、なほさんは語る。
「すべて障害を持っている人を基準に考えることは、やはりどうしても無理がある。でも、もう少し障害者の意見が反映されればいいと思う。『予算がダメだ』という理由で切り捨てられるのは納得いかない」(なほさん)
同行するディレクターは、バスの乗り降りのために狭くなった歩道や、駅の広めの自動改札、乗車側と反対の扉が開くエレベーターなどを通じて、陽葵さんが置かれている現状に気付く。わずかな段差も自力で越えられず、人通りがあるまで数十分待つことも。そんな中でも、陽葵さんは、写真スタジオでのポージングレッスンや、演技指導のワークショップなど、夢の実現に向けた準備を欠かさない。
「porte」オーディションで、2次のZoom審査に進んだ陽葵さん。この1年間でくじけそうになった瞬間を審査員に聞かれ、涙ながらに答えた。
「(SNSのコメントで)『障害者だから目立っているだけ』『障害者だから注目されているだけ』というメッセージをもらうこともあり、そういう時は正直、障害があることばかりが目立っているのかなあと思った。それでも自分の中で頑張りたいという思いがあったので、負けずに頑張ってきた」(陽葵さん)
続く最終審査に残ったのは、エントリー127人のうち26人。そして合格者は、わずか10人ほどだ。
「自分がここで発信をやめたら、自分自身はつらい思いをすることはなくなる。でも、そうなると私ではない障害者の人が、そういう(心ない)人に傷つけられると考えると、自分が少しでも発信を続けて、そういう(心ない)人たちの考え方を変えていった方がいいのかなあと思っている」(陽葵さん)
そんな思いが届いたのか、オーディションの結果は……「合格」。ひとつの目標をかなえた陽葵さんに聞かなければならなかったのは、筋力が低下していく事への不安。
「病気が進行していくことに対する不安がないわけではない。何年後かにできることが少なくなっているかもと考えたら、今できることをたくさんやっておきたい。『今を楽しみたい』と常に思っている」(陽葵さん)
ディレクターは放送にあたって、身体障害者との付き合い方を提示したい思いがあったが、取材するなかで結論が出なかった。そう陽葵さんに伝えると——。
「私も個人的な考えを発信することしかできない。一つの正解はないので、『障害者はこう考えている』ではなく、その人(個人)がどう考えているかを知っていくことが大事だと思う」(陽葵さん)
(『ABEMA的ニュースショー』より)
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