急速拡大する動画広告市場における問題点

――現在の職務と経歴を教えてください。

大久保晶平氏(以下、大久保):株式会社AbemaTV ビジネスディベロップメント本部プロダクト部門の統括をしている大久保と申します。 2012年に株式会社サイバーエージェントに新卒入社して、広告代理業に携わり、2015年から広告事業の子会社の社長として事業全体の統括を行いました。2019年11月から、現在のプロダクト部門で責任者をしています。

久保亮介氏(以下、久保):開発本部のコンテンツ配信チームに所属している久保と申します。同じく2012年に新卒入社して、Amebaのスマートフォン向けプラットフォームの基盤API開発をしていました。2016年からABEMAのエンジニアとして、動画配信のサーバー開発を担当しています。

――昨今、成長が著しいと言われるデジタル動画広告について、また関連するテレビ広告について、現在の市場の状況・動向を教えてください。

大久保:マーケット全体で言うと、様々なメディアでも言われているように、動画の広告自体はデジタルにシフトし、2022年あたりからデジタル広告がマス広告を超えたと言われています。ですが動画というアプローチをした時に、まだまだテレビ市場のほうが圧倒的に大きく、 デジタル自体は成長の過程であり、これから伸びしろがあると思っています。ABEMAのようなメディアが増え、CTV(コネクテッドTV)といったデバイスの変化もあり、まだまだ発展途上ではあるのですが、伸長傾向であると感じています。

――急成長していく過程ならではの、または新しい潮流の始まりだからこそ生じる課題や問題点があれば教えてください。

大久保:データの取り扱いやそれに関連する部分での取り締まりなどは各社行っていると思うのですが、計測できてしまうからこそ問題が起こり得るというのが1つあります。
 
また、今まではテレビという規定がある中でルールが守られていて、安心安全に広告が出せるという環境下だったと思います。今後サービスが増える中で、各サービスごとにルール作りやメディア管理を行なっていくので、広告主の皆様や広告関連会社の皆様が、そのルールを理解した上でメディア選定をしていく必要があります。そういったルールが理解できていないことで生じるリスクが出てくるのではないかと思っています。

――デジタル動画広告における課題や問題点について、ABEMAではどのような取り組みをしているか教えてください。

大久保:ABEMAでは、広告主の皆様が安全安心に出稿できるような環境作りに取り組んでいるので、広告の素材自体の審査基準を厳しく設定しています。またメディアとして、すべてのコンテンツにフラットに広告を出すのではなく、選定して広告を出すようにルール化しています。そういう徹底した管理をABEMA開局から行なっています。

ユーザーフレンドリーでかつシームレスな広告体験とは

――ネットとテレビの良さとは、それぞれどのようなことだと捉えていますか?
 
大久保:クオリティの高いコンテンツに安心して広告を出せるというのがテレビの良さだと思います。打った広告が良いものなのか悪いものなのか、効果が良かったのか悪かったのかという計測や、それを見ている人がどういう人であったのかという継続的なターゲティングが進化している点は、デジタルならではの良さではないかと。

久保:地上波でも地域ごとに異なる広告を流すことはできますが、ネットであればより幅広い属性で広告を出し分けることが可能です。そういった柔軟性や手段の広さはネットの良さだと思います。

――ABEMAの特徴でもある「ユーザーフレンドリーでかつシームレスな広告体験」とは具体的にどのようなものなのか教えてください。
 
大久保:OTTメディア(インターネットを介してコンテンツを配信するストリーミングサービス)として、スマホやCTV、PCなど、ユーザーにとって体験できるデバイスが広がっています。ネットの動画広告は、ユーザーが待たされる瞬間やコンテンツを見る時にローディング画面で止まったりするなど、細かいことの積み重ねがストレスに繋がると思います。その点で、ABEMAはユーザーストレスが他のメディアに比べて低いという結果も出ています。システム的な部分でできる限りストレスを減らし、デバイスやコンテンツに合わせた広告フォーマットで広告自体も1つの体験として、メディアを楽しんでいただけるような広告プロダクト開発が重要だと考えています。

久保:ABEMAでは2016年当初からリニア型配信の広告挿入をクラウドのシステムで行っています。

一般的にオンデマンドのコンテンツでは再生端末で映像の切り替えを制御します。一方でリニアを含めたライブ配信の場合、端末側の制御でシームレスに見せるのは難しいところがあります。
 
オンプレミスの設備で広告を入れてしまうのが良くある手段ですが、それだと広告を出し分けることが難しくなります。ABEMAでは当初からSSAI(Server Side Ad Insertion)を実装し、クラウド上で広告を挿入して端末へ配信しています。2016年当時、SSAIを運用しているサービスはまだめずらしかったのですが、ABEMAは独自に開発をして実現しました。

――ABEMAでは、「ユーザーフレンドリーでかつシームレスな広告体験」を実現するためにどんな工夫や取り組みをしていますか?
 
大久保:技術レベルが高い状態で、常に開発を続けているというのもABEMAの1つの特性であると思います。また運用という観点でも、CMをどのタイミングで出すか、どのくらいの量を出すかというのを、ユーザーの体験実績を見ながら検証や運用を行なっています。
 
突然コンテンツに関係ないものが出るというのは、やはりユーザー体験としてはいいものではないので、どのタイミングで出すか、どういう瞬間が広告としていい体験なのかを分析する専任部署がある上で、皆で考え管理をしていることが、「フレンドリーな広告体験」に繋がっていると思います。
 
久保:開局当初は全ユーザーに同じ広告を出していましたが、その頃からパーソナライズしたいモチベーションがあり実現方法を検討していました。
 
2018年にはリニア配信を視聴しているユーザーを数十通りに分類して広告を出し分ける機能をリリースし、2020年からは1人1人への出し分けも可能になっています。それらが実現できた背景として、SSAIの仕組みを早い段階から持っていたことが大きかったと思います。


 

広告自体を楽しんでもらえるような未来に


――今後、どのような広告体験を目指したいと思いますか?

大久保:従来の動画の間で動画を表示するといったデジタル動画広告のフォーマットだけじゃなく、「ABEMA Live Screen Ad」というライブ中継時に広告が表示されるといった新しいフォーマットを試しています。

また、ストレスをより少なくし、より良い広告体験を作り、広告自体を楽しんでもらえるような未来のためにチャレンジをしていきたいと思っています。

久保:品質観点では、再生安定性と映像クオリティの両方を更に向上させたいと考えています。先ほど説明した通りABEMAではクラウドでライブ配信の広告を挿入していますが、データの圧縮や解像度の変換など前段階の処理については番組本編と広告で管轄組織や設備が分かれています。再生品質を高く保ちつつ最新の動画技術に追随するためには、動画データを処理するフロー全体の品質が重要です。新しい機能の提供と高品質なユーザー体験を両立できるよう、今後も取り組んでいきたいと思います。そういった部分のクオリティを上げることで、再生のトラブルなど、ユーザーが良くない体験をすることが減っていくので、今後取り組んでいきたいと思っています。