そう言わざるを得ない心境とは、果たしてどのようなものだったのか。何しろ、10年間の思いを込めた試合だったのだ。
12月31日の『RIZIN.40』さいたまスーパーアリーナ大会。RIZINとアメリカのメジャー団体ベラトールの対抗戦で、扇久保博正vs堀口恭司が行われた。両者はこれが3度目の対戦だった。
過去の戦績は堀口の2勝。特に1戦目、修斗の世界タイトルマッチ(2013年3月)は勢いのある堀口に扇久保が呑まれたような試合だった。だからこそ、扇久保は堀口へのリベンジをキャリア最大の目標としてきた。10年間、堀口のことを考え続けてきたという。
2018年7月、RIZINでの2戦目にも敗れた扇久保。それでもあきらめずに闘い続け、2011年にはバンタム級GP優勝を果たす。決勝では、堀口をKOしたこともある朝倉海に勝利した。
そして3度目のチャンスが巡ってきた。堀口がベラトール側として参戦したことで組まれたカード。今度こそ扇久保の執念が結実するところが見たい。そう願っていたファンも多かったはずだ。
ところが、試合は一方的な展開となった。スタンドでもグラウンドでも、堀口がペースを握り続ける。
「1ラウンドでカーフ(キック)を聞かされて、試合をコントロールされてしまいました。カーフで頭が真っ白になりました。片足(タックル)で組みついて離れ側にパンチという作戦だったんですが、左足が完全にダメになって、そこから攻めることができなかった」
そう試合を振り返った扇久保。言葉に滲む悔しさは痛いほど伝わってきた。「しばらく堀口選手のことは考えたくない」と苦笑する場面も。
人生をかけた大一番が完敗で終わった。逆に言えば、堀口は対戦相手が人生をかけて挑んできた勝負を完璧に跳ね返したのだ。10年間、狙われてきた気持ちはいかなるものか。堀口は笑って答えた。
「僕はそういうのは気にしないタイプなので」
来た球を打つ、ではないが、組まれた相手と闘う。誰が相手でも全力で試合に臨み、最善を尽くす。堀口にとってはその繰り返しなのかもしれない。相手が持つドラマで自分がブレることはない、と言えばいいだろうか。
扇久保は執念で結果を出した。強くなりた続けたからこそできたことだ。しかし堀口も当然のように強くなっていた。成長度で言えば、堀口のほうが上だったのかもしれない。試合後、扇久保は言った。
「以前より上になった時の力が強くなってました。より総合格闘家として強くなっているなと。すべての技が倒せる技でしたね。蹴りでもパンチでも相手を破壊できる」
堀口は判定勝利という結果に、扇久保のタフさを讃えていた。「何発もクリーンヒットを入れているのに、目が死んでいなかった」と。
この試合はフライ級で行われた。前回の試合を終えると、堀口はより適正な階級に下げると宣言していた。
「これからはフライ級で日本も海外も盛り上げていきたい」
今回の対抗戦も「自分は日本勢なんだけど」と複雑な思いがあったようだ。それでも迷いなく扇久保の執念すらも呑み込んだ堀口は“日本が生んだ最高のMMAファイター”として活躍していくことだろう。その強さ、フライ級での可能性は、まだまだ底知れないものがある。
文/橋本宗洋