平均年収で暮らす人々のリアルを取材した『年収443万円 安すぎる国の絶望的な生活』(著者・小林美希/講談社現代新書)が話題になっている。帯に書かれた文章は「昼食は必ず500円以内」「スターバックスを我慢」「1個80円のたまねぎは買わない」など。
【映像】札幌385万円、東京525万円…地域別の年収一覧(画像あり)
取材の中で著者が見たのは、平均年収443万円の厳しい実態。主要国間で比較すると、日本の年収はこの30年間、ほぼ横ばいになっている。Twitterでは「安心して生活できる額じゃない…」「この収入じゃ子ども作れない」など、不安の声が上がっている。
はたして年収443万円は貧困者なのか。ニュース番組「ABEMA Prime」では、同書の著者でジャーナリストの小林氏と議論を行った。
これまでも雇用や貧困問題などを取材してきた小林氏は「この30年、日本の賃金が上がっていない。物価高でよりそれが鮮明になって、皆さん気づいた。『ちょっとランチに行こう』や『お茶しよう』がなかなかできない。不安が大きくて、節約している実態がある。予想以上に普通の生活ができていない」と話す。
「外食や旅行を控えるのはもちろん、ペットボトルのお茶もちょっと高いから買わずに、水筒にお茶を入れて持っていく。ランチはお弁当を作っていったり、500円以内で収めたりする。みなさん本当に必死に節約して頑張っている状況だ」
実際に世帯年収400万円程度、夫と高校3年生の息子と暮らす主婦のマッシュルームママさんも「一言でいうとカツカツだ」という。
「生活費は大学受験を控えている息子の教育費が一番占めている感じだ。息子は理系なので、塾はその科目だけ受けさせている。本当はもっと受けさせたいが、家のローンもある。節約のために外食の頻度を減らして、今はほとんど家族で出かけない。(息子が)食べ盛りなので食費もなかなか減らせない。何とかやりくりしている」
同年代の夫の月収は25万円程度。過去は半導体関係のエンジニアとして大手企業に勤めていたが、リーマンショック時に退職。今は金属加工の会社に正社員の溶接工として勤務している。
リーマンショック時の転職は「本当に厳しかった。似たような職種で再就職先も探したが年齢的にもなかなかそれが叶わなくて、主人も苦労した。別の資格の勉強をなんとか勉強して、ご縁があって今の会社に勤めている」と述べるマッシュルームママさん。転職後、給料も上がらない状況が続いているという。
「どうにかやりくりすれば、やれないことはない。でも、なかなか贅沢はできない。そんな生活実感のもと、日々暮らしている。何かあったら、生活していけなくなる。今、贅沢するわけにはいかない」
マッシュルームママさん自身も現在はパートに出て働いているが、コロナ禍によってシフトが減らされるなど、不安定な時期もあったという。
「コロナ禍前はもう少しシフトがあった。もっと新型コロナの流行が落ち着けば、また元のように働けるかなと思う。本当はフルタイムで働きたい気持ちもあるが、親の介護等で通院、介助があると、なかなか一週間フルで働くことが難しい。なんとか今はパートで頑張っている」
奨学金制度や扶養手当など、利用できる日本の制度はないのだろうか。
マッシュルームママさんは「給付奨学金の申請をしようと思ったが、年収が380万円以上あると、給付奨学金は申し込めない。それだとかなり厳しい。奨学金はお借りする形になる」と話す。
「親と話すと、例えば子ども1人大学に行かせるしんどさが、昔の親の世代のほうがもっと楽だったのかなという印象だ。息子1人を大学にやるのも『こんなにしんどいことなんだな』と感じている」
実際、どのような支援があるとありがたいのか。
「やっぱり未来を担う子どもたちの支援は、もう少し親の世帯年収制限を緩やかにしていただきたい。もっと子どもに対する支援を手厚くしてもらいたい。親の生活の水準によって子どもの将来の可能性が狭まるようなことは、やっぱり悲しい。もう少しなんとかならないのか」
マッシュルームママさんの訴えに、小林氏は「結局、年収400万円世帯は中間層にあたるので、支援はほとんど受けられない。奨学金も子どもの借金になってしまうので、それも厳しい。一時的に家計は良くても、その子の将来を考えて躊躇される方もいる。中間層にはあまり社会的な保障がない状態で、出ていくお金が増えていく」と指摘。
その上で、小林氏は「この苦しさの一番の原因は雇用だ」と話す。
「雇用の規制緩和で非正規雇用が増えて、それに引きずられて正社員も苦しくなった。これが一番の原因なので、やはりそういった雇用政策を規制緩和しすぎたものを戻していって『原則正社員にする』くらいのことをしないと、この日本の衰退は止まらないと思う」
(「ABEMA Prime」より)
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