日銀の黒田総裁は全国銀行協会の新年の会合で、金融緩和を続け、景気を支える必要性を強調した。岸田総理は年頭の会見でインフレ率を超える賃上げの実現を強く訴えている。
2023年の日本経済はどうなるのだろうか。ニュース番組『ABEMAヒルズ』は、元日銀政策委員会審議委員で野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏に話を聞いた。
――1月3日には一時1ドル129円台まで円が急騰したが、去年の10月21日には151円台まで急落した。2023年の円相場はどうなるか。
「今年は円高になると思う。そもそも昨年円安が進んだ背景は、日本の構造の問題や国力の低下などとも言われたが、やはり日米の金利差の拡大。アメリカで利上げの姿勢がやや変わってきて、年末には日本銀行も政策修正に動いたということで、日米双方から金利差が縮小する可能性が出てきている。今年いっぱい円安の修正、あるいは円高が進むのではないかと予想している」
――黒田総裁は4月に任期満了となるが、総裁の交代で日銀の政策は変わるのか。
「(政策が変わる)可能性は高い。過去の傾向をみても、日本銀行の金融政策が大きく転換するのは総裁が変わるタイミング。今回は明らかに政策が修正、または正常化の方向に向かう。今年中に実際どの程度日本銀行が動けるのかは、経済や物価、為替の動向次第。世界経済が悪化すれば日本経済も巻き込まれて景気後退になり、アメリカで利下げ期待が出てくるので、円が急激に高くなる可能性がある。こういう時に日本銀行がマイナス金利解除に動くと、急激な円高を招いてしまうおそれがある。政策の姿勢は総裁が代われば変わるが、実際に動けるかどうかは外部の環境による。私は今年中に大きな政策変更を行うのは難しいと思う。ただ、市場でも政策修正の観測は残るので、その結果として年末にかけて120円程度まで円高が進むと予想している」
――円高はどこまで進むか。
「年の半ばにかけて、円高のペースが上がる。一時的には111円台に入る可能性もある。年末にかけては若干戻して120円程度になると予想している。一方で、ドル円レートの均衡水準は112円ぐらいで、年内にはそこまではいかないと思っている。例えば来年に日本銀行が本格的な金融政策の正常化に動くことになると、それを織り込んで来年には均衡水準が112円にまで達する可能性がある」
――2022年は記録的な値上げが続き、食品値上げによる標準的な世帯の家計負担が年間6万8760円増えたという試算もある。値上げラッシュは2023年も続きそうか。
「消費者物価指数の統計でも、おそらく12月は前年比で4%に達し、消費者にとっては日々購入する食料品などの値段はもっと上がっている感覚だろう。値上げの動きはまだ続くが、世界全体でいうと市況が下がって円高になると輸入物価が下がる。だから、私は(今年の)半ばから後半にかけては値上げの動きは収まってきて、世界全体で結果的には物価の上昇率が下がると思う。その代わりに景気が悪化するので、景気を犠牲にしてようやく物価の安定を取り戻していく1年になる」
番組コメンテーターで東京工業大学准教授の西田亮介氏は、木内氏に「物価は高止まりするという見立てでよいのか」と質問。次のように回答した。
「物価の水準が下がるところまではいかないが、物価上昇率は下がっていくと思う。仕入れ価格の上昇を十分に転嫁しないような状況がまだあるが、国内の景気がかなり弱くなれば値上げはできなくなっていく。日本経済自体に景気が悪くなる要素はあまりないように思うが、リスクは海外にある。輸出が落ちれば日本経済全体の足が引っ張られて、企業は価格転嫁の途中で頓挫してしまう可能性が高い」
――岸田総理は年頭会見で「賃上げを何としても実現しなければならない」と述べたが、叶うだろうか。
「少し叶うと思っている。1年前は企業に対して賃上げを求める、あるいは賃上げ促進税制で賃上げを促すことを掲げていた。今回は構造的な賃上げを掲げていて、生産性や労働市場の移動を高めることで生産性を高めていく。産業構造の高度化を促していくことに応じて実質、賃金が上がっていく。この方向に政策の舵を切ること自体は正しい。日本経済はなかなか成長が見込めないので、ベアには慎重。生産性が上がれば労働者に転嫁されていくので、政策の考え方としては良い方向に修正されてきた。今年の春闘にすぐに影響が出てくるわけではないが、昨年の物価高の影響が転嫁されていくので、少し高めにはなる。昨年はベアが0.5~0.6%ぐらいだったが、今年は1%を超えてくるということで、近年では高い上昇率になりやすい。ただ、景気が減速してくると、今年の春闘では高くても来年はそこまでいかず、1年限りで終わる可能性も高い。日本銀行が2%の物価安定や整合的なベアの上昇率を3%と言っているが、いずれにしても3%に届かないのは変わらないと思う」
(『ABEMAヒルズ』より)
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