重岡銀次朗、気になるリマッチの行方 再戦実現に向け町田トレーナーが明かした異例の戦略と自信
【映像】波紋を呼んだ王者のバッティング
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 ボクシング界期待のホープ、23歳の重岡銀次朗が6日、エディオンアリーナ大阪第1競技場の「3150FIGHT vol.4」でIBF世界ミニマム級王者のダニエル・バラダレス(メキシコ)に挑戦した。好スタートを切った重岡だが、結果はまさかの“無判定試合”。重岡の世界初挑戦は思わぬ形で実らなかった。

【映像】波紋を呼んだ王者のバッティング

 後味の悪い結末だった。3ラウンド終盤、サウスポーの重岡が踏み込んで左ボディブローを打ち込もうとした瞬間だった。とっさに頭を下げたバラダレスの頭部と重岡のアゴあたりが接触。2人とも「痛っ」という顔をして、試合が一時中断される。ボクシングではよくあるシーンだ。レフェリーは両選手に傷がないか確認し、試合はすぐに再開される――はずだった。

 両選手には出血も、大きな腫れも見当たらなかった。ところがバラダレスが泣きそうな顔をして頭部の痛みをアピールし続ける。中断だけが続き、観客も何が起きているかさっぱり分からない。重岡は2、3ラウンドにいい左ボディを決めて「余裕が出てきた」ところだっただけに、チャンピオンの態度に苛立ったのは無理もない。

「僕のアゴのあたりに相手の頭が当たって、こっちは全然痛くないのでおかしいなと。最初にレフェリーから5分間の休憩と言われて『それ、いらないだろ』と思ったくらいです。それでも相手がアピールしていたので嫌な予感がしたんですけど……」

 幕切れは突然だった。5分たたないうちにレフェリーが試合終了を宣言したのだ。リングアナウンサーが「偶然のバッティングにより試合続行不可能となり、この試合は負傷ドロー」とアナウンスする。しばらくして結果はノーデシジョン(無判定試合)と訂正されたが、会場に漂うモヤモヤとした空気は重苦しくなるばかりだった。

 重岡営の目にも、ファンの目にも、おそらくレフェリーの目にも、バラダレスが深刻なダメージを受けたようには見えなかっただろう。「戦意喪失」という言葉が頭に浮かぶ。同時にその証明はだれにもできない、という事実にすぐに気がつく。本人が「痛い。できない」と言う以上、レフェリーは試合再開の指示を出せないのだ。もし、本人が不調を訴えているのに試合を強行し、事故が起きたらだれが責任を取るのか。そんなことだって分かってはいても、苛立ちをどこかにぶつけたい気持ちにさせられた。

 結論が下されると、重岡はリングで呆然とし、そして涙した。

重岡銀次朗、気になるリマッチの行方 再戦実現に向け町田トレーナーが明かした異例の戦略と自信
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 小学校に入る前に空手を始め、4年生からグローブを握り、この日もセコンドに入った2歳上の兄、優大とともに世界チャンピオンを目指した。他の子どもたちが遊んでいるときに兄弟は練習に明け暮れた。努力は実り、中学生で全国大会を制すると、高校では5度の全国優勝を達成し、アマチュアで56勝1敗という驚異的な成績を残した。唯一の敗北は優大との対戦だ。すぐに棄権を申し出たもので、ちゃんと戦って負けたわけではない。プロ8戦も無敗だから、重岡はボクシングの試合で事実上負けたことがないという希有な存在だったのである。

 そんな子どものころから夢見た大舞台で想像もしなかった出来事が起きたのだ。重岡が驚愕、困惑、失望、怒りといったさまざまな感情に襲われ、心の中をうまく整理できなかったのは当然だろう。

「不完全燃焼です。これはいけるという余裕が2、3ラウンドに出てきた。その中でまさかの終わり方だったので自分でもよく分からないです。相手は確実に心が折れたと思いました」

 まさかの結末ではあったが、問題となったバッティングそのものは、重岡陣営が事前に恐れ、警戒していたものだった。参謀役の町田主計トレーナーは次のように明かした。

「バラダレスの頭が低いことは映像で分かっていたので、前日のルールミーティングではレフェリーにバッティングをよく注意してもらうよう要請していました。頭がぶつかって、出血が怖かったですから。ただ、ああいう終わり方はちょっと予想していなかった。私にも戦意喪失に見えましたが…」

 IBFがどのような判断を下すか分からないが、決着がついていない以上、再戦の指令が出る可能性は高い。アクシデントが起きた段階で、勝利の確信を得ていた重岡が「できるだけ早く再戦したい」と語るのは当然だ。

 町田トレーナーも再戦に自信を持っている。同時に戦略を練り直す必要があるかもしれないとも感じている。

「できるだけ早く再戦させてあげたいとは思います。ただ、次やるとなるといろいろ悩ましい。同じことが起きたら困りますから、4ラウンドまではポイントを取られてもいいから前に出ない、とにかく頭がぶつからないにする。実際にそうするか分からないですけど、そういう作戦までしなくちゃいけないのかな、と考えたりはします」

 4ラウンドが終了すれば試合成立となり、仮に今回のようなアクシデントで突如試合が終わったとしても、試合が終わったラウンドまでの採点で勝敗が決まる。だから最初の4ランドはとにかく試合を成立させることに注力し、残り8ラウンドで勝つ。異例の戦い方だが、町田トレーナーには「それでも勝てる」という感触があるのかもしれない。

 それくらいこの日の重岡の出来はよかった。3ラウンドの途中までとはいえ、世界チャンピオンになるにふさわしいパフォーマンスの一端を披露した。本人も「スピードも反応も自分のほうが上だった。今日の試合で自信がついたところもある」と手応えは十分に感じた。身長があり、カウンター狙いのバラダレスに対し、ボディから徐々に崩していこうという冷静さもあった。残念な結果の中にも収穫はあった。

 今後の見通しがどうなるかは分からないが、この日の戦いぶりを見れば、重岡はバラダレスと再戦しても、他の団体のチャンピオンに挑戦しても、ベルトを獲得できる可能性が十分にあるように思える。

「チャンピオンになる日が少し遅くなっただけ。その日まで火を絶やさずにがんばりたい」

 目標とする兄弟で世界チャンピンに向けてここで立ち止まるわけにはいかない。理不尽を乗り越えれば必ず己の力となる。重岡がひと回りたくましくなってベルト獲得を目指す。

©3150 FIGHT

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