その眼差しは、愛弟子を見るというよりも、むしろ愛息を見るものだ。8組の師弟により“最強の師弟”を決める超早指し戦「ABEMA師弟トーナメント2022」の予選Bリーグ1位決定戦が1月7日に放送された。予選突破をかけた試合の大事な第1局にチーム深浦から佐々木大地七段（27）、チーム木村からは高野智史六段（29）が登場。同世代の弟子対決となったが、控室で木村一基九段（49）は弟子が頭を悩ませながらも手を絞り出す様子に「いいぞ、いいぞ、高野君」と優しい目と口調で声援を送り続けた。
「千駄ヶ谷の受け師」の異名を取るほどの粘り強さを持つ木村九段と、その将棋を継承するかのように受け将棋に定評がある高野六段。勝負の世界は厳しいと師匠から弟子には伝えられ続けているが、ふとかける言葉には実に優しさに溢れている。高野六段が新人王に輝いた際、感謝の言葉を述べたことで木村九段が涙したという、心温まるエピソードは将棋ファンにも有名だ。
前回大会に続いての出場になった木村・高野師弟だが、オープニングからジョークを決める木村九段に、微笑みながら誠実な言葉を選ぶ高野六段と、性格そのままの自然体で試合に向かった。試合の流れを決める第1局、弟子同士がぶつかることになったが、先手の佐々木七段が相掛かりを選ぶと、高野六段も堂々と受けて立った。じっくりとした序盤になり、どこから戦いが始まるかという探り合いの中、序盤から中盤にかけて高野六段の構想がうまくはまり有利に。これを控室で見た木村九段は「あ、うまいじゃない。（相手を）困らせて、いいぞ、いいぞ高野君」と、語りかけるような優しい口調でつぶやいた。
ABEMAトーナメント、さらに師弟トーナメントでも、チームメイトや弟子に対する心遣いに心打たれるファンも多いが、今回は特徴的な言葉をかけたわけではないものの、眼差しと口調だけでも人柄が伝わるワンシーンに。ファンからは「やさしいおじおじ泣いちゃう」「木村先生も深浦先生も弟子への愛が深い」「おじおじ褒めてるよー！タラちゃんがんばれー！」といったコメントが続出した。試合自体はスコア1-3で落とし、予選2位通過を目指す戦いに回ることになったが、この師弟の絆の強さがあれば、道は開かれる。
◆ABEMA師弟トーナメント 日本将棋連盟会長・佐藤康光九段の着想から生まれた大会。8組の師弟が予選でA、Bの2リーグに分かれてトーナメントを実施。2勝すれば勝ち抜け、2敗すれば敗退の変則で、2連勝なら1位通過、2勝1敗が2位通過となり、本戦トーナメントに進出する。対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで、チームの対戦は予選、本戦通じて全て3本先取の5本勝負で行われる。第4局までは、どちらか一方の棋士が3局目を指すことはできない。
（ABEMA／将棋チャンネルより）
